【R-18】【完結】魔女は将軍の手で人間になる

雲走もそそ

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魔女編

18:秘密の通路(2)

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「自分はベッドで、俺を立たせたまま話をさせるのか? カーテンを閉めろ。明かりをつける」

 それはつまり、話が長くなるということ。
 メルセデスはしぶしぶベッドから下り、部屋の明かりが外へ漏れないようカーテンを閉めて回った。その間にシヒスムンドは持ち込んだランプに火をつける。おそらく秘密の通路の中で使っていて、この部屋への扉を開ける直前に消しておいたのだろう。

 ランプの明かりに照らされて、メルセデスはシヒスムンドの黒い外套がところどころ埃や汚れで白くなっていることに気づいた。これでは埃が落ちたり、汚れが部屋にあるものへ付いたりする可能性がある。

「外套は通路の傍へ置いた方が良いかもしれません」

 シヒスムンドは自分の存在を隠したがっている。だから痕跡も残さない方がいい。

「一理あるな」

 メルセデスが手を差し出せば、シヒスムンドは納得したようで外套を脱いで渡してきた。
 受け取った外套を、外側が中に来るように簡単に畳み、秘密の通路の扉を押さえる椅子に置いてくる。

 戻ればシヒスムンドは、長い足を組み、ソファに我が物顔で座っていた。

「お前も座れ」

 ここはメルセデスの居室のはずだが、まるで自分が後宮の主とでも言いたげな尊大さだ。皇帝に次ぐ権力者ともなるとこんなものなのか。メルセデスからすれば、顔合わせで短時間かつ一度しか会ったことのない皇帝のほうが、まだ節度があったように思える。

 大人しくテーブルを挟んで正面のソファに座ると、シヒスムンドはおもむろに口を開いた。

「俺は陛下のご指示でここへ来た。陛下は、お前に特命をお与えになる」

 皇帝のみ知る秘密の通路を彼が使えたのは、皇帝本人から教わったようだ。

「陛下は、お前がこの役目を果たせば、報酬として新天地へ送り出すと仰せだ」
「新天地?」
「後宮から解放し、手枷も外し、誰もお前が誰かを知らん遠く離れた地で、一般市民として生活させてやるということだ」

 それだけ聞けば、確かに報酬と呼ぶに値する待遇だ。誰も知らない土地へ解放してもらえるのなら、魔女と知られる前のように戻って、また息を潜めて暮らしていける。

「そんなことが可能なのですか」
「無論公に解放すれば反対が起きる。お前は法的に罪はないが、多くの国民が咎人だと思っているからな。病死したことにするだけだ」

 事もなげに告げるシヒスムンドに、メルセデスは身震いしないよう体を押さえた。病死したことにしてメルセデスをここから秘密裏に解放できるということは、殺害したうえで病死したことにも容易にできるのだろう。やはり、メルセデスの命はこの男の手の上にある。

「それで、皇帝陛下の特命とはいったいなんなのでしょうか」

 するとシヒスムンドは、元から厳めしい相貌を一層険しくした。

「この後宮は、魔術により守られた王城の城壁の内側にあり、さらに塀で囲って出入りは厳しく管理されている。女官も侍女も身元の確かな人間だけだ。俺はこの後宮が、皇帝の居室に次いで、安全な場所だと思っていた」

 食事にネズミの死骸を混ぜられる状況は、安全の範疇だろうかとメルセデスは考えたが、口は挟まない。

「だが、三日前、侍女が一名殺害された」
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