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魔女編
14:悪いこと(2)
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悪いことは続く。
物音を聞いて駆けつけてきたのは、王太子の側近の男たちだった。
彼らは、気絶した男の異常な様子から、メルセデスが魔女であることを看破した。そして、それを利用できると考えた。
他の人間に見つからないように間諜をどこかへ連れていき、メルセデスを王太子の前に突き出した。
「ちょうどいいな……。陛下は帝国に降伏しようとしているんだ。我が国はミナスフィリア連峰という天然の要塞に守られているとはいえ、帝国に圧倒的に劣るからと。だが降伏すれば王族を始め、城の者は大半が処刑されるだろう。私はむざむざ殺されるのは御免だ。民衆だって帰順など欠片も望んでいない。だが、私が抗戦を訴えても陛下の決定を覆すことはできない。……どうすればいいと思う?」
王太子の作戦はこうだ。
王国の決定は覆せない。ならば、帝国側に決めさせればいい。
降伏を呼びかける帝国に対し攻撃を仕掛ければ、帝国はそれを王国の答えだと考えるだろう。
「まず先遣隊を襲撃する。王国の旗を掲げ、王家の鎧を身に着けて。そして王都へ凱旋すれば、民衆は王家が徹底抗戦を決めたのだと思うだろう。王太子一人が先走ったなど、口が裂けても言えやしない」
帝国と、王国の民衆に王家の意思を誤解させるというのだ。
「だが、先遣隊の襲撃は命を落とすかもしれない。配下は逃げおおせるかもしれないが、王家の鎧は良い的だ。王太子である私が犯すべき危険ではない。だから――」
お前が代わりに行けと、王太子はメルセデスに言った。
従えないなら、久々に王都で魔女の公開処刑ができて、民衆の団結力を高めることに寄与するので、それもまたいいと。
魔力というものは、その魔力の性質に合った力を放つだけではない。
魔力は異質ではあるが元をただせば生命力。自身の身体能力を強化することができる。
例えば痩せたか弱い女でも、魔力が強大であれば、全身に甲冑を纏って剣を振るい、相手を鎧ごと叩き斬ることもできるのだ。
そうしてメルセデスは戦場へ追いやられ、王太子の見込み違いの働きをした。
「まさかお前が先遣隊を壊滅させるとはな……。本当は、お前ひとりを先遣隊に殺させて、配下は下がらせる予定だったのだよ。魔女ごときが、例え魔術を扱えたとしても、熟練の帝国兵士相手にやり合えるはずがないと思うだろう? 死んで鎧の中身が王太子でないと露見しても、帝国には王家の鎧である以上こちらの総意と取られるだろうし、民衆には出発の姿さえ見せればよいからな」
笑う王太子と側近たち、そしてメルセデス自身までもが、メルセデスが彼らを皆殺しにできる力を持っているという事実を、正しく認識していなかった。王太子たちはメルセデスが、その力を飼い主である自分たちへ向けるとは欠片も思っていない。そしてメルセデスも、自分を守ることは教えに背く『悪いこと』と認識しているため、実行しない。
それは王国に根付く魔女への蔑視と迫害と、魔女たちの忍耐と諦観の呪いによるものであった。
その後、王太子の浅知恵は国王の知るところとなり、それ以上の勝手はできないよう監視をつけられた。しかし王太子の思惑通り、早期の降伏はならず、何度かの交戦を経た後、城下の手前に軍勢が迫ってようやく終戦を迎えた。
王太子たちは、まさか魔女を利用したとは言いだしづらかったのか、メルセデスを兵士たちが捕えに来ることはなかった。だが、結局将軍により王太子の替え玉となったことを暴かれ、次の愛妾へ選ばれることになった。
物音を聞いて駆けつけてきたのは、王太子の側近の男たちだった。
彼らは、気絶した男の異常な様子から、メルセデスが魔女であることを看破した。そして、それを利用できると考えた。
他の人間に見つからないように間諜をどこかへ連れていき、メルセデスを王太子の前に突き出した。
「ちょうどいいな……。陛下は帝国に降伏しようとしているんだ。我が国はミナスフィリア連峰という天然の要塞に守られているとはいえ、帝国に圧倒的に劣るからと。だが降伏すれば王族を始め、城の者は大半が処刑されるだろう。私はむざむざ殺されるのは御免だ。民衆だって帰順など欠片も望んでいない。だが、私が抗戦を訴えても陛下の決定を覆すことはできない。……どうすればいいと思う?」
王太子の作戦はこうだ。
王国の決定は覆せない。ならば、帝国側に決めさせればいい。
降伏を呼びかける帝国に対し攻撃を仕掛ければ、帝国はそれを王国の答えだと考えるだろう。
「まず先遣隊を襲撃する。王国の旗を掲げ、王家の鎧を身に着けて。そして王都へ凱旋すれば、民衆は王家が徹底抗戦を決めたのだと思うだろう。王太子一人が先走ったなど、口が裂けても言えやしない」
帝国と、王国の民衆に王家の意思を誤解させるというのだ。
「だが、先遣隊の襲撃は命を落とすかもしれない。配下は逃げおおせるかもしれないが、王家の鎧は良い的だ。王太子である私が犯すべき危険ではない。だから――」
お前が代わりに行けと、王太子はメルセデスに言った。
従えないなら、久々に王都で魔女の公開処刑ができて、民衆の団結力を高めることに寄与するので、それもまたいいと。
魔力というものは、その魔力の性質に合った力を放つだけではない。
魔力は異質ではあるが元をただせば生命力。自身の身体能力を強化することができる。
例えば痩せたか弱い女でも、魔力が強大であれば、全身に甲冑を纏って剣を振るい、相手を鎧ごと叩き斬ることもできるのだ。
そうしてメルセデスは戦場へ追いやられ、王太子の見込み違いの働きをした。
「まさかお前が先遣隊を壊滅させるとはな……。本当は、お前ひとりを先遣隊に殺させて、配下は下がらせる予定だったのだよ。魔女ごときが、例え魔術を扱えたとしても、熟練の帝国兵士相手にやり合えるはずがないと思うだろう? 死んで鎧の中身が王太子でないと露見しても、帝国には王家の鎧である以上こちらの総意と取られるだろうし、民衆には出発の姿さえ見せればよいからな」
笑う王太子と側近たち、そしてメルセデス自身までもが、メルセデスが彼らを皆殺しにできる力を持っているという事実を、正しく認識していなかった。王太子たちはメルセデスが、その力を飼い主である自分たちへ向けるとは欠片も思っていない。そしてメルセデスも、自分を守ることは教えに背く『悪いこと』と認識しているため、実行しない。
それは王国に根付く魔女への蔑視と迫害と、魔女たちの忍耐と諦観の呪いによるものであった。
その後、王太子の浅知恵は国王の知るところとなり、それ以上の勝手はできないよう監視をつけられた。しかし王太子の思惑通り、早期の降伏はならず、何度かの交戦を経た後、城下の手前に軍勢が迫ってようやく終戦を迎えた。
王太子たちは、まさか魔女を利用したとは言いだしづらかったのか、メルセデスを兵士たちが捕えに来ることはなかった。だが、結局将軍により王太子の替え玉となったことを暴かれ、次の愛妾へ選ばれることになった。
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