【R-18】【完結】魔女は将軍の手で人間になる

雲走もそそ

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魔女編

13:昔の話(2)

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「私の母も魔女でした」

 メルセデスはシュザンヌに、戦争に加わった経緯を語り始めた。

 マリエルヴィ王国では、魔力を持つ女性は魔女と呼ばれ、迫害の対象であった。険しい山岳にある閉鎖的な国のため外国の情報は少なく、メルセデスは大陸全体の地図すら見たことがない。

 近隣の村では母子が魔女であることは知れており、まともな暮らしはできなかった。母一人であれば王国内の別の村へ渡って、素性を隠して暮らすこともできただろうが、幼いメルセデスまで連れるには、切り立つ山々と自然の猛威は厳しすぎた。
 魔女は迫害の対象だが、身寄りのない魔女にとっては、その魔力しか頼れるものはない。母は火を操る魔女であったから、小さな木片へ瞬時に火を宿せる道具を作って売った。村人は魔女に侮蔑を向けながら、便利なそれを買い求めた。

 母を失ったのは、メルセデスの十三歳の誕生日の直前であった。どうにか旅に耐えられるぐらいまで成長したと判断し、母はメルセデスが誕生日を迎えれば、彼女を連れて別の村へ出て行こうと計画していた。
 その計画は、村に流行った病の責任を押し付けられたため頓挫することになる。

「母を亡くしてから、私は働ける場所を求めて村々を流れ、最終的に王都へたどり着きました」

 母の殺された経緯については、シュザンヌへ語らなかった。およそ七年経った今でも鮮明に思い出せる母の最期を、軽々しく口に出したくなかったし、上手く話せる自信もなかったからだ。

 王都へ着いたメルセデスは、故郷の村を疫病で失った子供ということにして、宿屋の下働きとして雇ってもらった。
 メルセデスには、母のように魔術を生活の糧とする発想はなかった。彼女の魔力は破壊の魔力であったから、生活を豊かにする道具を作ることはできず、通常の労働しか選択肢がない。何より魔女と呼ばれる暮らしの辛さは、二度と味わいたくない。母も、働くことができるなら、素性を隠してそうしただろう。
 魔女か否か――魔力を持つかどうか判定する方法は、少なくとも王国にはなかった。だから魔女であることは露呈せず、働くことができた。身元も確かでない子供であったため、賃金は不当に安かったが、それに気づくこともなく宿屋で働いた。

 仕事に慣れてくると、なるべく働き口を変えるようにした。長く働けば、世間話として故郷や昔のことを尋ねられる。魔女であることが知られてはならないので、とっさに嘘の話をする。しかしとっさの話で、子供の浅知恵のため、どこかで不整合やほころびが発覚することが危惧される。メルセデスは職場を転々とすることで、それを回避することにしたのだ。
 そんなことを繰り返していると、成長に伴って架空の過去が磨きあがり、なるべく自然な経歴を話せるようになった。そのため仕事を長く続けられるようになった。

「十六歳の時、運よくお城の下働きとして雇ってもらえました」

 王城は特段賃金等が良い職場というわけではなかったが、メルセデスにとって適した環境だった。なぜなら、人がとにかく多い職場だからだ。下働きは皆、没個性的に同じお仕着せで働く。目立たないのはメルセデスを何より安心させた。
 そこから数か月前に帝国へ宣戦布告を受けるまで、貧しくも安定した暮らしを送ることができた。

「きっかけは、宣戦布告を受けてすぐでした」

 ここからすべてが急激に動き出したのだ。
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