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魔女編
10:悪い魔女(1)
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広間から逃れるため、どこへ続いているかも知らない扉を抜けたメルセデスは、明かりを灯していない薄暗い廊下にたじろいだ。しかし、戻りたくない気持ちの方が勝ったので、諦めて廊下を進んだ。
廊下の片側は大きなガラス窓が並び、差し込む月明かりで視界は明るい。窓のない片側は扉が等間隔で並んでいる。扉は全て開けたままになっており、人の気配は全く感じられない。
明かりがなかったのだから、こちらは本来使う予定ではない場所だったのかもしれない。それはこちらへ人は来ないという事でもあるので、メルセデスにとっては都合がいい。
(座る場所でもあればいいのだけれど……)
適当に選んだ部屋を覗くと、テーブルやカウチソファなどの置かれた小部屋だった。おそらく広間で疲れた人が、一時的に休憩するために用意された部屋なのだろう。ありがたく使わせてもらうことにして、部屋の中へ足を踏み入れる。
扉を閉めてしまえば、部屋に窓はあるものの、一層暗くなった。中に人がいると知らずに誰かが扉を開けたら、驚かせてしまうかもしれない。鍵をかけられたらなお良いが、あいにく鍵のない扉だった。とはいえ人が来る様子はないので、誰かと鉢合わせする心配もないだろう。
ドレスが着崩れないよう気をつけながら、メルセデスはソファに腰を下ろした。
「はぁ……」
深いため息が、部屋の闇にしみこんでいく。
人に注目される極度の緊張により頭痛と吐き気に苛まれていたが、一人で落ち着ける場所に来れば徐々に和らいできた。
こう真っ暗だと、何かを眺めて時間をつぶすこともできず、メルセデスは物思いにふけるしかなかった。
いったいなぜこんなに仕立ての良いドレスで着飾り、こんなに豪華絢爛な城にいるのだろう。
母を亡くしてから、せっかく誰にも知られないように、気にも留められないように、息を潜めて暮らしてきたのに。
祖国が帝国に宣戦布告を受けてから、全てが悪い方へ転がり始めた。好戦的なのが皇帝ではなく将軍なら、彼が王国を攻めると決めたばかりに、メルセデスはこんなことになってしまった。帝国の悪魔と異名を取るそうだが、メルセデスにとっては本物の悪魔だ。
そうしてシヒスムンドへ責任転嫁していると、ガチャリとドアノブの回る音がした。メルセデスは驚いて肩を跳ね上げる。誰か来るとは思っていなかったのだ。
「いたぞ」
戸口に立つランプを手にした男が、廊下にいる誰かへ知らせる。メルセデスを探していたらしい。ランプを持つ男を先頭に、ぞろぞろと部屋に人がなだれ込む。全部で四人いる。
そこでようやくメルセデスは、例え城内でも、一人で人気のない場所にいることの危険性に気がついた。負の感情しか抱かれていないメルセデスを探しにくるなど、友好的な理由とは考えづらい。
メルセデスは、迎え撃つように立ち上がり、危害を加えられたとしても殺されるわけではないと、自分を奮起させた。
廊下の片側は大きなガラス窓が並び、差し込む月明かりで視界は明るい。窓のない片側は扉が等間隔で並んでいる。扉は全て開けたままになっており、人の気配は全く感じられない。
明かりがなかったのだから、こちらは本来使う予定ではない場所だったのかもしれない。それはこちらへ人は来ないという事でもあるので、メルセデスにとっては都合がいい。
(座る場所でもあればいいのだけれど……)
適当に選んだ部屋を覗くと、テーブルやカウチソファなどの置かれた小部屋だった。おそらく広間で疲れた人が、一時的に休憩するために用意された部屋なのだろう。ありがたく使わせてもらうことにして、部屋の中へ足を踏み入れる。
扉を閉めてしまえば、部屋に窓はあるものの、一層暗くなった。中に人がいると知らずに誰かが扉を開けたら、驚かせてしまうかもしれない。鍵をかけられたらなお良いが、あいにく鍵のない扉だった。とはいえ人が来る様子はないので、誰かと鉢合わせする心配もないだろう。
ドレスが着崩れないよう気をつけながら、メルセデスはソファに腰を下ろした。
「はぁ……」
深いため息が、部屋の闇にしみこんでいく。
人に注目される極度の緊張により頭痛と吐き気に苛まれていたが、一人で落ち着ける場所に来れば徐々に和らいできた。
こう真っ暗だと、何かを眺めて時間をつぶすこともできず、メルセデスは物思いにふけるしかなかった。
いったいなぜこんなに仕立ての良いドレスで着飾り、こんなに豪華絢爛な城にいるのだろう。
母を亡くしてから、せっかく誰にも知られないように、気にも留められないように、息を潜めて暮らしてきたのに。
祖国が帝国に宣戦布告を受けてから、全てが悪い方へ転がり始めた。好戦的なのが皇帝ではなく将軍なら、彼が王国を攻めると決めたばかりに、メルセデスはこんなことになってしまった。帝国の悪魔と異名を取るそうだが、メルセデスにとっては本物の悪魔だ。
そうしてシヒスムンドへ責任転嫁していると、ガチャリとドアノブの回る音がした。メルセデスは驚いて肩を跳ね上げる。誰か来るとは思っていなかったのだ。
「いたぞ」
戸口に立つランプを手にした男が、廊下にいる誰かへ知らせる。メルセデスを探していたらしい。ランプを持つ男を先頭に、ぞろぞろと部屋に人がなだれ込む。全部で四人いる。
そこでようやくメルセデスは、例え城内でも、一人で人気のない場所にいることの危険性に気がついた。負の感情しか抱かれていないメルセデスを探しにくるなど、友好的な理由とは考えづらい。
メルセデスは、迎え撃つように立ち上がり、危害を加えられたとしても殺されるわけではないと、自分を奮起させた。
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