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魔女編
9:戦勝祝いの夜会(1)
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メルセデスが皇帝との顔合わせを済ませた夜、城ではマリエルヴィ王国との戦争に勝利した祝いの宴が開かれた。
最初に、普段通り目に薄布を下げた玉座の皇帝が、広間に集まった皆へ向けて声をかける。帝国軍の筆頭である将軍シヒスムンドを労い、後は歓談やダンスの時間に移った。
将軍がいる付近は表情と動きの硬い者が多かったが、彼が早々に退室すれば、明るい笑い声が響くようになった。
広間には着飾った貴族の紳士や婦人、戦功を挙げた軍人たちがひしめき合い、帝国の強さと繁栄をたたえる言葉を口にした。皆楽しげに、楽団の演奏に合わせ広間の中央で踊ったり、グラスを片手に談笑したりと思い思いの時を過ごす。
城の夜会には愛妾も出席を推奨されており、普段後宮から出られない彼女たちも、この時はのびのびと小さな自由を謳歌する。
シュザンヌは流石社交界の花と言うべきで、彼女の甘やかな声を聞きたい者に取り囲まれ、その勇気のない者はせめて美貌を眺めたいと、遠巻きながらもしきりに視線を送っている。そうして人とその注目を集めるから、広間を上から眺めれば、どこにシュザンヌがいるのかは一目瞭然だ。
だが、それにおいてはメルセデスも同じことが言えた。
「あれがマリエルヴィの魔女か……」
「まあ。よくこの晴れの席へ、のこのこと……」
彼女のいる場所だけ、不自然に人が避け、開けている。まるで取り囲むようにメルセデスを眺める人々は、嫌悪感と嘲笑を隠しもしない。誰も彼女が、例の愛妾だと紹介されたわけではない。それでも、腕に嵌められた武骨な手枷が、彼女が何者かを雄弁に語っていた。
一ヶ月に渡る後宮での療養ともいえる暮らしは、メルセデスの外見を随分良くした。胸に浮いていたあばらは見えず、黒髪は本来の色つやを取り戻している。後宮へ来た当初は手枷の重さに耐えられなかったが、体力もついて今はしばらく立ったまま過ごせるようになった。まだ痩せて華奢なままではあるが、王国にいた頃のみすぼらしい姿は見る影もない。瞳と同じ青を基調にした優美なドレスも、メルセデスに良く似合っていた。
帝国の正式なドレスはどうしても袖を通さなければならないので、手枷のあるメルセデスでは普通には着られない。体を通した後に手から首までの上辺を縫い閉じるという手間をかけており、身支度に非常に時間がかかった。皇帝との顔合わせもあったので、始まる前から疲れ切っている。
「あれで男を手玉に取るのか……」
「今は愛妾様だぞ。まぁこれまで通り陛下が靡かれるとは思えないが……」
特別華美ではないし、目を見張る美人でもない。しかし、メルセデスに対し嫌悪感を持つ者には、後宮の財を使って着飾る悪女に見えた。そして、戦争から遠い場所で安穏と過ごすがゆえに彼女を何とも思っていない男たちの一部には、色素の薄い肌と気弱そうな容貌が嗜虐心をそそり、一般的な常識を持つ女性たちには、手枷がひどく無様で見苦しく映った。
最初に、普段通り目に薄布を下げた玉座の皇帝が、広間に集まった皆へ向けて声をかける。帝国軍の筆頭である将軍シヒスムンドを労い、後は歓談やダンスの時間に移った。
将軍がいる付近は表情と動きの硬い者が多かったが、彼が早々に退室すれば、明るい笑い声が響くようになった。
広間には着飾った貴族の紳士や婦人、戦功を挙げた軍人たちがひしめき合い、帝国の強さと繁栄をたたえる言葉を口にした。皆楽しげに、楽団の演奏に合わせ広間の中央で踊ったり、グラスを片手に談笑したりと思い思いの時を過ごす。
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シュザンヌは流石社交界の花と言うべきで、彼女の甘やかな声を聞きたい者に取り囲まれ、その勇気のない者はせめて美貌を眺めたいと、遠巻きながらもしきりに視線を送っている。そうして人とその注目を集めるから、広間を上から眺めれば、どこにシュザンヌがいるのかは一目瞭然だ。
だが、それにおいてはメルセデスも同じことが言えた。
「あれがマリエルヴィの魔女か……」
「まあ。よくこの晴れの席へ、のこのこと……」
彼女のいる場所だけ、不自然に人が避け、開けている。まるで取り囲むようにメルセデスを眺める人々は、嫌悪感と嘲笑を隠しもしない。誰も彼女が、例の愛妾だと紹介されたわけではない。それでも、腕に嵌められた武骨な手枷が、彼女が何者かを雄弁に語っていた。
一ヶ月に渡る後宮での療養ともいえる暮らしは、メルセデスの外見を随分良くした。胸に浮いていたあばらは見えず、黒髪は本来の色つやを取り戻している。後宮へ来た当初は手枷の重さに耐えられなかったが、体力もついて今はしばらく立ったまま過ごせるようになった。まだ痩せて華奢なままではあるが、王国にいた頃のみすぼらしい姿は見る影もない。瞳と同じ青を基調にした優美なドレスも、メルセデスに良く似合っていた。
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「あれで男を手玉に取るのか……」
「今は愛妾様だぞ。まぁこれまで通り陛下が靡かれるとは思えないが……」
特別華美ではないし、目を見張る美人でもない。しかし、メルセデスに対し嫌悪感を持つ者には、後宮の財を使って着飾る悪女に見えた。そして、戦争から遠い場所で安穏と過ごすがゆえに彼女を何とも思っていない男たちの一部には、色素の薄い肌と気弱そうな容貌が嗜虐心をそそり、一般的な常識を持つ女性たちには、手枷がひどく無様で見苦しく映った。
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