【R-18】【完結】魔女は将軍の手で人間になる

雲走もそそ

文字の大きさ
上 下
44 / 180
魔女編

21:歓迎会(1)

しおりを挟む
 侍女の失踪騒動の翌日、愛妾たちはシュザンヌの主催するお茶会に招待されていた。
 場所は後宮の正式な出入り口の大扉のある回廊に面した、今日の主賓が後宮入りした初日に衆人環視にさらされた中庭園だ。

「皆さま、本日はわたくしの招きに応じてくださいまして、ありがとうございます」

 クロスのかかった長方形のテーブル。その角の席に着いているシュザンヌが、参加者へ向けて挨拶をした。

 後宮の愛妾は現在、帝国出身者の十名と、将軍の手で連れて来られた敗戦国出身者二十九名で構成されている。シュザンヌは後宮のまとめ役だ。国外出身で、かつ先帝の元愛妾という複雑な立場であるものの、敗戦国からの愛妾だけでなく、何かと衝突の多い帝国出身の愛妾の一部からも支持を受けており、人望が厚い。そのため彼女の主催するお茶会には、普段多くの愛妾が参加する。

 しかし、この日の出席者は、シュザンヌを含めて十名程度しかいなかった。
 理由は明快だ。

「この度、後宮にまた新たな仲間を迎えました。今日は彼女、レディ・メルセデスの歓迎会です」

 通常のシュザンヌのお茶会であれば出席する者も、あのメルセデスの歓迎会となると参加できない、ということだ。

 メルセデスが後宮入りしたのはおおよそひと月以上前だというのに、シュザンヌがこのように新たな仲間と表現するのは、皇帝との顔合わせが終わって初めて、後宮の一員になったとみなされるためだ。

 ここにいる愛妾たちの全員が、シュザンヌへの義理だけで出席しているわけではない。多くの憎しみを集める存在がどんな女なのか、初日のように好奇心で見物に来た者や、そもそも何とも思っていないから通常通り出席した者など様々だ。
 敗戦国出身の愛妾は、それぞれ姿かたちや背景の文化だけでなく、考え方も多岐にわたる。生え抜きの帝国民の多数派の意見が、この後宮でもそうとは限らない。

「メルセデスです。……どうぞ、よろしくお願いいたします」

 シュザンヌに促されたメルセデスは立ち上がり、参加者へ向けて礼を取る。
 初日に囚人のような印象を受けたうつむいた姿勢ではなく、重そうな手枷があっても背筋を伸ばし、帝国式の作法に則った美しい所作を身に着けている。毎度のことながらシュザンヌの指導には舌を巻く。どの新入りも、ひと月で高い完成度に仕上げてくるのだから。

 メルセデスは、緊張と不安の混じった表情で、愛妾一人一人の目を見てくる。ここにいる愛妾たちの何名かは、メルセデスが後宮入りした日に見物へ行った口だ。その時のみすぼらしく痩せぎすの様相は見る影もなく、幸薄そうだが美しくなっている。
 あの状態から見出したのだから、将軍の審美眼はなかなかのものだ。各国からこれほどまんべんなく方向性の違う美女を集めてくるとは、将軍には戦い以外の何らかの才能があるに違いない。

「今回は、彼女が入城されてから陛下がお越しになるまで、ひと月もありました。きっと皆さま、お話ししたいことが山ほど積もってらっしゃることでしょう。ですから、お茶を頂きながら、レディ・メルセデスのお話をたくさん伺いましょう」
しおりを挟む
script?guid=on
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる
恋愛
 シエルは20歳。父ルドルフはセルベーラ国の国王の弟だ。17歳の時に婚約するが誤解を受けて婚約破棄された。以来結婚になど目もくれず父の仕事を手伝って来た。 ところが2か月前国王が急死してしまう。国王の息子はまだ12歳でシエルの父が急きょ国王の代理をすることになる。ここ数年天候不順が続いてセルベーラ国の食糧事情は危うかった。 そこで隣国のオーランド国から作物を輸入する取り決めをする。だが、オーランド国の皇帝は無類の女好きで王族の女性を一人側妃に迎えたいと申し出た。 国王にも王女は3人ほどいたのだが、こちらもまだ一番上が14歳。とても側妃になど行かせられないとシエルに白羽の矢が立った。シエルは国のためならと思い腰を上げる。 そこに護衛兵として同行を申し出た騎士団に所属するボルク。彼は小さいころからの知り合いで仲のいい友達でもあった。互いに気心が知れた中でシエルは彼の事を好いていた。 彼には面白い癖があってイライラしたり怒ると親指と人差し指を擦り合わせる。うれしいと親指と中指を擦り合わせ、照れたり、言いにくい事があるときは親指と薬指を擦り合わせるのだ。だからボルクが怒っているとすぐにわかる。 そんな彼がシエルに同行したいと申し出た時彼は怒っていた。それはこんな話に怒っていたのだった。そして同行できる事になると喜んだ。シエルの心は一瞬にしてざわめく。 隣国の例え側妃といえども皇帝の妻となる身の自分がこんな気持ちになってはいけないと自分を叱咤するが道中色々なことが起こるうちにふたりは仲は急接近していく…  この話は全てフィクションです。

処理中です...