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魔女編
21:歓迎会(1)
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侍女の失踪騒動の翌日、愛妾たちはシュザンヌの主催するお茶会に招待されていた。
場所は後宮の正式な出入り口の大扉のある回廊に面した、今日の主賓が後宮入りした初日に衆人環視にさらされた中庭園だ。
「皆さま、本日はわたくしの招きに応じてくださいまして、ありがとうございます」
クロスのかかった長方形のテーブル。その角の席に着いているシュザンヌが、参加者へ向けて挨拶をした。
後宮の愛妾は現在、帝国出身者の十名と、将軍の手で連れて来られた敗戦国出身者二十九名で構成されている。シュザンヌは後宮のまとめ役だ。国外出身で、かつ先帝の元愛妾という複雑な立場であるものの、敗戦国からの愛妾だけでなく、何かと衝突の多い帝国出身の愛妾の一部からも支持を受けており、人望が厚い。そのため彼女の主催するお茶会には、普段多くの愛妾が参加する。
しかし、この日の出席者は、シュザンヌを含めて十名程度しかいなかった。
理由は明快だ。
「この度、後宮にまた新たな仲間を迎えました。今日は彼女、レディ・メルセデスの歓迎会です」
通常のシュザンヌのお茶会であれば出席する者も、あのメルセデスの歓迎会となると参加できない、ということだ。
メルセデスが後宮入りしたのはおおよそひと月以上前だというのに、シュザンヌがこのように新たな仲間と表現するのは、皇帝との顔合わせが終わって初めて、後宮の一員になったとみなされるためだ。
ここにいる愛妾たちの全員が、シュザンヌへの義理だけで出席しているわけではない。多くの憎しみを集める存在がどんな女なのか、初日のように好奇心で見物に来た者や、そもそも何とも思っていないから通常通り出席した者など様々だ。
敗戦国出身の愛妾は、それぞれ姿かたちや背景の文化だけでなく、考え方も多岐にわたる。生え抜きの帝国民の多数派の意見が、この後宮でもそうとは限らない。
「メルセデスです。……どうぞ、よろしくお願いいたします」
シュザンヌに促されたメルセデスは立ち上がり、参加者へ向けて礼を取る。
初日に囚人のような印象を受けたうつむいた姿勢ではなく、重そうな手枷があっても背筋を伸ばし、帝国式の作法に則った美しい所作を身に着けている。毎度のことながらシュザンヌの指導には舌を巻く。どの新入りも、ひと月で高い完成度に仕上げてくるのだから。
メルセデスは、緊張と不安の混じった表情で、愛妾一人一人の目を見てくる。ここにいる愛妾たちの何名かは、メルセデスが後宮入りした日に見物へ行った口だ。その時のみすぼらしく痩せぎすの様相は見る影もなく、幸薄そうだが美しくなっている。
あの状態から見出したのだから、将軍の審美眼はなかなかのものだ。各国からこれほどまんべんなく方向性の違う美女を集めてくるとは、将軍には戦い以外の何らかの才能があるに違いない。
「今回は、彼女が入城されてから陛下がお越しになるまで、ひと月もありました。きっと皆さま、お話ししたいことが山ほど積もってらっしゃることでしょう。ですから、お茶を頂きながら、レディ・メルセデスのお話をたくさん伺いましょう」
場所は後宮の正式な出入り口の大扉のある回廊に面した、今日の主賓が後宮入りした初日に衆人環視にさらされた中庭園だ。
「皆さま、本日はわたくしの招きに応じてくださいまして、ありがとうございます」
クロスのかかった長方形のテーブル。その角の席に着いているシュザンヌが、参加者へ向けて挨拶をした。
後宮の愛妾は現在、帝国出身者の十名と、将軍の手で連れて来られた敗戦国出身者二十九名で構成されている。シュザンヌは後宮のまとめ役だ。国外出身で、かつ先帝の元愛妾という複雑な立場であるものの、敗戦国からの愛妾だけでなく、何かと衝突の多い帝国出身の愛妾の一部からも支持を受けており、人望が厚い。そのため彼女の主催するお茶会には、普段多くの愛妾が参加する。
しかし、この日の出席者は、シュザンヌを含めて十名程度しかいなかった。
理由は明快だ。
「この度、後宮にまた新たな仲間を迎えました。今日は彼女、レディ・メルセデスの歓迎会です」
通常のシュザンヌのお茶会であれば出席する者も、あのメルセデスの歓迎会となると参加できない、ということだ。
メルセデスが後宮入りしたのはおおよそひと月以上前だというのに、シュザンヌがこのように新たな仲間と表現するのは、皇帝との顔合わせが終わって初めて、後宮の一員になったとみなされるためだ。
ここにいる愛妾たちの全員が、シュザンヌへの義理だけで出席しているわけではない。多くの憎しみを集める存在がどんな女なのか、初日のように好奇心で見物に来た者や、そもそも何とも思っていないから通常通り出席した者など様々だ。
敗戦国出身の愛妾は、それぞれ姿かたちや背景の文化だけでなく、考え方も多岐にわたる。生え抜きの帝国民の多数派の意見が、この後宮でもそうとは限らない。
「メルセデスです。……どうぞ、よろしくお願いいたします」
シュザンヌに促されたメルセデスは立ち上がり、参加者へ向けて礼を取る。
初日に囚人のような印象を受けたうつむいた姿勢ではなく、重そうな手枷があっても背筋を伸ばし、帝国式の作法に則った美しい所作を身に着けている。毎度のことながらシュザンヌの指導には舌を巻く。どの新入りも、ひと月で高い完成度に仕上げてくるのだから。
メルセデスは、緊張と不安の混じった表情で、愛妾一人一人の目を見てくる。ここにいる愛妾たちの何名かは、メルセデスが後宮入りした日に見物へ行った口だ。その時のみすぼらしく痩せぎすの様相は見る影もなく、幸薄そうだが美しくなっている。
あの状態から見出したのだから、将軍の審美眼はなかなかのものだ。各国からこれほどまんべんなく方向性の違う美女を集めてくるとは、将軍には戦い以外の何らかの才能があるに違いない。
「今回は、彼女が入城されてから陛下がお越しになるまで、ひと月もありました。きっと皆さま、お話ししたいことが山ほど積もってらっしゃることでしょう。ですから、お茶を頂きながら、レディ・メルセデスのお話をたくさん伺いましょう」
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