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魔女編
19:殺人事件(1)
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「三日前、侍女が一名殺害された」
シヒスムンドが語ったのは、安全なはずの後宮で起こるはずのない出来事であった。
愛妾付きの侍女の一人が、三日前の火事のあった夜から、後宮の中で行方知れずになっていた。その時点では稀にある、後宮に嫌気がさしての自らの失踪と思われていた。そのため大きな騒動にはせず、後宮の者だけで探す程度の対応だった。
しかし三日目を迎え、隠れているにしても体調が心配されることから、後宮の外からも人手を集めて捜索するに至った。三日前から行方知れずなのは知らなかったが、この捜索のために大勢の男性兵士が後宮へ投入されたことは、メルセデスも認識している。
彼らが引き揚げ、見つかったという噂が侍女たちからもたらされたので、メルセデスはそれ以上何も思っていなかったが、実は見つかったのは死体だったのだ。
胸を刺された死体は、凶器が周りに無かったことや、人目につかない庭の茂みの中に隠されていたことから、他殺であるのは間違いなかった。
専門の兵士たちの見立てでは、侍女は死体の状態からして失踪時にはもう殺されていたと考えられた。
刺殺であること以外に、犯人、凶器、動機等何一つわからずにいるが、抵抗の痕跡はなく、一撃で仕留められている。犯人は手練れであり、訓練を積んだ暗殺者の可能性が高い。
シヒスムンドと皇帝は死体が見つかってすぐさま緘口令を敷き、侍女は公には生きて発見され、そのまま実家へ送り返されたことにするよう指示した。
後宮の出入りの制限や侵入の難しさから、シヒスムンドは内部の人間による犯行で、さらに殺人者がまだ後宮に残っていると疑っているそうだ。
「女性兵士では数が足りないがために、侍女の捜索は例外的に男性兵士を後宮へ入れたが、皇帝と伴われた護衛以外の男は、本来後宮に入ることができない。そのため陛下や俺の信頼のおける人間は調査に適さない。男ばかりだからな」
後宮の規則により、皇帝以外は原則男子禁制である。シヒスムンドの言う通り皇帝に同行する護衛ならば許されるが、皇帝の体は一つ。多忙な身を立ち会わせ、この広い後宮と大勢の女たちを調べ上げるには時間がかかりすぎる。
「公にしてしまえばよいのではありませんか」
事情を公表してしまえば、緊急事態として、当初の捜索と同様、例外的に男を後宮へ入れることも可能で手っ取り早いのではないか。
だがシヒスムンドは首を振る。
「それは無理だ。後宮は陛下にとって、ただ愛妾を置いておくためだけの場所ではない。重要な目的がある。そのためには、後宮を含めた城の者や国民に、後宮で生死にかかわる事件が起きていると知られることは都合が悪い」
「重要な目的とはなんでしょうか」
「お前が知る必要はない」
メルセデスが尋ねるが、将軍の対応はにべもない。
「無論この事件を放置するつもりはない。陛下も俺も、下手人を暴いて捕える予定だ。皇帝の庭でしでかしたことの罪を償わせる。だが男では密かな調査ができん。そこでお前の出番だ」
つまり、メルセデスにこの殺人事件の犯人を突き止めろ、と言いたいようだ。
シヒスムンドが語ったのは、安全なはずの後宮で起こるはずのない出来事であった。
愛妾付きの侍女の一人が、三日前の火事のあった夜から、後宮の中で行方知れずになっていた。その時点では稀にある、後宮に嫌気がさしての自らの失踪と思われていた。そのため大きな騒動にはせず、後宮の者だけで探す程度の対応だった。
しかし三日目を迎え、隠れているにしても体調が心配されることから、後宮の外からも人手を集めて捜索するに至った。三日前から行方知れずなのは知らなかったが、この捜索のために大勢の男性兵士が後宮へ投入されたことは、メルセデスも認識している。
彼らが引き揚げ、見つかったという噂が侍女たちからもたらされたので、メルセデスはそれ以上何も思っていなかったが、実は見つかったのは死体だったのだ。
胸を刺された死体は、凶器が周りに無かったことや、人目につかない庭の茂みの中に隠されていたことから、他殺であるのは間違いなかった。
専門の兵士たちの見立てでは、侍女は死体の状態からして失踪時にはもう殺されていたと考えられた。
刺殺であること以外に、犯人、凶器、動機等何一つわからずにいるが、抵抗の痕跡はなく、一撃で仕留められている。犯人は手練れであり、訓練を積んだ暗殺者の可能性が高い。
シヒスムンドと皇帝は死体が見つかってすぐさま緘口令を敷き、侍女は公には生きて発見され、そのまま実家へ送り返されたことにするよう指示した。
後宮の出入りの制限や侵入の難しさから、シヒスムンドは内部の人間による犯行で、さらに殺人者がまだ後宮に残っていると疑っているそうだ。
「女性兵士では数が足りないがために、侍女の捜索は例外的に男性兵士を後宮へ入れたが、皇帝と伴われた護衛以外の男は、本来後宮に入ることができない。そのため陛下や俺の信頼のおける人間は調査に適さない。男ばかりだからな」
後宮の規則により、皇帝以外は原則男子禁制である。シヒスムンドの言う通り皇帝に同行する護衛ならば許されるが、皇帝の体は一つ。多忙な身を立ち会わせ、この広い後宮と大勢の女たちを調べ上げるには時間がかかりすぎる。
「公にしてしまえばよいのではありませんか」
事情を公表してしまえば、緊急事態として、当初の捜索と同様、例外的に男を後宮へ入れることも可能で手っ取り早いのではないか。
だがシヒスムンドは首を振る。
「それは無理だ。後宮は陛下にとって、ただ愛妾を置いておくためだけの場所ではない。重要な目的がある。そのためには、後宮を含めた城の者や国民に、後宮で生死にかかわる事件が起きていると知られることは都合が悪い」
「重要な目的とはなんでしょうか」
「お前が知る必要はない」
メルセデスが尋ねるが、将軍の対応はにべもない。
「無論この事件を放置するつもりはない。陛下も俺も、下手人を暴いて捕える予定だ。皇帝の庭でしでかしたことの罪を償わせる。だが男では密かな調査ができん。そこでお前の出番だ」
つまり、メルセデスにこの殺人事件の犯人を突き止めろ、と言いたいようだ。
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