花と娶らば

27

　夜が更け、星は地平の向こうへ消え、昇りくる太陽に月の光が掻き消された頃、障子の隙間から細く伸びた光に瞼を照らされた芹は、眩さに薄く目を開いた。
　布団に入っている体は温かくて心地よいが、指先を動かすのも億劫なほどに怠く、視線だけをちらりと動かすと、部屋の隅に人影があった。
　置物のごとく座っているのは蘇芳だった。
　背筋は伸びているのに視線は俯いており、畳の目をじっと睨むようにして見ている。その額にはもう角はなく、芹はため息にもならない微かな息を吐いた。
　眠りに再度落ちてしまいそうな脳裏に、もはや狂乱と言っても過言ではない昨夜がよぎる。
　前で一度達した後、昂ぶりが伝播してしまった脚の間もとねだって二度達し、それから先の記憶はない。芹様と何度か呼ばれた気がするが、それがうつつか夢かはあやふやだ。
　けれど、夢のような時間だった。
　確かにあった羞恥は掻き消え、丁寧に与えられる快楽だけを拾って、なにも知らない自分の体に詰め込んだ。そのたびに蘇芳に抱いていた想いが、好きよりももっと深い何かになるような感じがした。
　ここに来てよかった。こんなにも好きだと思う相手のぬくもりを、ねだったものであっても得られることが出来た。
　得体が知れないまま、自分に宿るという神気に感謝しながら、芹はふわりと覆いかぶさってきた眠気に抗わず、そのまままた穏やかな眠りに落ちていった。
　蘇芳はただじっと部屋の隅に座り込んだまま、芹を見つめていた。