君がため

晦リリ

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 翌朝、ふと目が覚めた穂摘がごそりと布団の中で身じろぐと、たすたすと足音が近付いた。志郎だと気付くのと同時に、いつ帰ってきたのだろうとぼんやりと思いながらも身を起こすと、ごく近くに志郎の雰囲気があった。
「志郎さん、あの」
「穂摘」
 昨夜、穂摘が起きている間に志郎は帰ってこなかった。それというのも、代わりにお梅がやって来ててきぱきと動き、志郎さんは、志郎さんは、と繰り返す穂摘を無理矢理寝かしつけたからだった。
 どこに行っていたかを聞いてみたかったが、それより、ここに置いてもらえるよう頼むために穂摘が口を開くと、それを遮るように志郎の重い声が響いた。
「明日、村に送る。それまで俺は山に行ってくる」
「志郎さん、俺は」
「隣の部屋には入らない、家から出ない。これだけ、守ってくれ」
「俺、ここにいたいですっ」
「だめだ」
 ひどく事務的な口調で告げた志郎の声に負けじと穂摘も要望を叫んだが、すぐさま却下された。
「明日、村に送る」
 そう言いながら、まるで抱き締めるように志郎が穂摘を両腕の中に入れた。頭の後ろでしゅるりと布が解ける音がして、目許を覆っていた布がふわりと解ける。
 うっすらと目を開けると、白い布に肌を隠した大柄な男がいた。
「志郎さん…」
 じっと穂摘を見下ろしてくる双眸は布に覆われていないが、それ以外は顔から頭の天辺、指先に至るまで衣服から出ている肌は全て布に覆われている。異様な見た目に反して穂摘を見つめる漆黒の目は穏やかだった。
「俺、ここにいたいんです」
 深い色の双眸は、決して穂摘を否定してはいなかった。少なくとも、彼が妖怪であっても同じ人でありながら瀕死の同胞を山道に放って逃げる人間よりは、温度のある視線だった。
 しかしそれでも、布の隙間からくぐもって聞こえる声は、応じてはくれなかった。
「すまない」
 何度も穂摘を抱き上げてくれた手のひらの温度は、やっぱりひんやりと低かった。
 ゆっくりと立ち上がり、やがてなにやら道具が入った籠を背に出ていった志郎は、今度は夜になっても、朝が明けても帰ってこなかった。



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