6 / 30
本編
6
しおりを挟む細い指先の先まで、締め付けない程度の強さで布を巻きつける。白い布にはすぐさま内側から濃緑が滲み、斑になった。
「……はあ…」
日が暮れ、ようやく一連の作業を終えた彼は、気の抜けた呼気を吐いて床に座り込んだ。その目前には、ぐったりと四肢を投げ出している小さな体がある。頭から足の先までところどころ濃緑の滲む布が巻きつけてあり、舶来物に詳しい人物などが見ようものなら、木乃伊だと騒いだろうと思えるほどだった。
だがしかし、それでも拾った当初よりは相当に見られるようになった。少なくとも人間だとわかるようになったし、呼吸も大分整っている。呼吸の妨げにならないようにと巻かれた布の隙間から静かに息を吐き出し、また静かに吸い込んでいる小さな隙間に瓢箪から汲んだ水を雫一粒ほどずつ与え、十滴ほど飲ませたあと、華奢な身体に静かに薄い布団をかけてやる。やはり傷に響き、びくりと斑に濃緑な木乃伊は震えたが、それも一瞬のことだった。
やがてもせずに微かな寝息が聞こえる。乱れも殆どなく、途切れそうな気配もない。ほうと息を吐いて安堵した彼は、座り込んだまま、そろりと視線を木乃伊の下腹部に向け、それからなにかを振り払うように首を振った。
脳裏には、酷い火傷に覆われながらも確認できた、木乃伊の秘処が浮かんでしまう。疚しい下心があったわけでなく、純粋に薬を塗りつけるためだけに触れてしまっただけだ。しかしそれすら彼には溜息を吐いてしまうほどに緊張してしまうことだった。
焼け爛れ、元の顔かたちはもちろん性別すら危うかった布の塊は、驚いたことに股の間に二つの性があった。辛うじて火傷が軽かった男性の証にもと薬液を塗りたくって布を当てていると、ふと触れてしまった指で気付いたのだ。守られるようにひっそりとあった花莟は稚く、焦土に咲いた花のようだった。幸いにも火傷はない様子だったが、万が一があってはと薬液を布ですくって塗り、そのまま布を当ててある。それ以上は、触れることもなかった。
「…ぅ、ァ…」
ふと、木乃伊が声をあげた。見ると、僅かに腕が動いて、元あった場所からずれていた。人間は昏睡しているときは動かないが、睡眠時には無意識に動くように出来ている。腕が動いたということは昏倒ではなく、少なくとも眠りに浸っていることだ。それならば、ひとまずは安心できる。
包帯の隙間からぼさぼさと突き出ている、燃えずに残った少量の髪の先に少しだけ触れて、彼はそれからしばらく、木乃伊の焼けた口から零れる寝息を聞いていた。
20
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
100万ドルの夜景より
月夜野レオン
BL
大手の貿易会社に勤務する裕也は王子のあだ名を持つ美青年だが、仕事が楽しくて恋愛はそっちのけで仕事三昧の日々。しかし人事異動でNY本社から来た超絶イケメンの部長の補佐に就いてからは、その手腕と容貌の魅力に抗えず、どんどん惹かれていく。大きなビジネスチャンスも恋も手に入れられるか。
少しだけファンタジー要素がありますが、基本はオフィスBLです。
花と娶らば
晦リリ
BL
生まれながらに備わった奇特な力のせいで神の贄に選ばれた芹。
幽閉される生活を支えてくれるのは、無愛想かつ献身的な従者の蘇芳だ。
贄として召し上げられる日を思いつつ和やかに過ごしていたある日、鬼妖たちの襲撃を受けた芹は、驚きの光景を目にする。
寡黙な従者攻×生贄として育てられた両性具有受け
※『君がため』と同じ世界観です。
※ムーンライトノベルズでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる