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9.ふたりの朝 ★
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一週間の大社巡りは、それはそれは大変だった。全国津々浦々を周って新年を寿ぎ、厄疫退散に縁結びなど、参詣や遥拝で心を寄せてくれた人々へ加護があるように祈りをささげてまわった。
けれどそれももう終わった。
へとへとになって帰宅した金栄と泰然を眷属たちは労いとともに迎えてくれ、最後はこちらでと宴席を設けてくれた。ありがたいことではあるが、金栄と泰然は膳を平らげ、長老や親々に挨拶を済ませた後は場を辞させてもらった。
疲れてはいるが、今夜は時間が欲しかった。
大晦日の夜、大社巡りが始まる前に金栄と泰然は約束をした。
「俺は大社巡りが終わったら、金栄を抱きたい」
一切言葉を飾ることなく泰然は言った。
「今は時間がない。まぐわうことだけならすぐに出来るかもしれない。でも俺はそんなのは嫌だ。だから、金栄が嫌でなければ、大社巡りが終わってから抱かれてほしい。……それとも、金栄は抱きたい方か?」
すっかり敬語が抜けきった泰然は、もう触れることも躊躇わなくなったのか、金栄の体が震えようと、思わずあえやかな声をあげてしまおうと、がっしりと肩をつかんできた。金栄の方が少しばかり身長があるので、俯いてしまうと自然と泰然の顔と近くなる。体を縮こめることもできないまま、金栄は必死に首を振った。
「だ、…だ、ぁ……だか、だ、抱かれ、たいっ……です…」
語尾は小さく消えてしまったが、泰然には伝わったらしい。よかった、と普段はあまり感情の乗らない顔に笑みが浮かんで、金栄はもうそれだけで倒れてしまいそうだった。
それから一週間、金栄と泰然はずっと一緒に大社巡りをした。そしてようやく今夜だ。
もたもたしているうちに泰然が先に湯浴みを終え、「先に座敷に行く」と言われれば、金栄はもう退路がない。
ひとりで湯船につかりながら、金栄は静かに考え込んでいた。
(今日はまぐわう……)
思わずじっと見た自分の裸の胸は、水面に微弱な揺れを引き起こすほどに高鳴っている。一年もの間をおいて、ようやくやってきた初夜だ。前の時のように、うっかり手を振り払ったりして失敗したくない。けれど、
(まぐわうって……どうしたらいいんだろう)
どうやって抱き合うかは知っている。けれど、知識としてであって、金栄は前も後ろも使ったことがない。自分で慰めることすら、年に数回しかない。なにか準備が必要なのか、それともそのままでいいのかがわからなかった。
(抱かれるのは俺だから……泰然の、い、ぃ……陰茎が、俺のなかにはいるってことで……入るのか?)
他人の股間などまじまじと見るものではないし、泰然のものも見たことがない。そろりと自分の股間を見下ろして、金栄はそれこそ震え上がった。他人と比べたことがないのでわからないが、金栄のものは、自分の大きめの手のひらでも片手では掴み切れないほどのものだ。けれど、もしかしたら泰然のものはもっと太さや長さがあるかもしれない。
くったりと力ない自分のものを手のひらでそろりと包んでみる。これより太かったらどうしよう。入るのだろうか。
「ん……ん、うん……?」
陰茎から手を放し、ごそごそと動いて、手のひらを尻に滑らせてみる。やわらかいが締まっている尻肉の谷間に指をうずめた金栄は、びくっと大きく体を揺らした。指先につんと触れるのは、当たり前に窄まった場所だ。指を押し当てても開くわけでなく、けれどむずむずとするようなくすぐったさがある。
つん、つん、と二度三度つついて見ても、きつく窄まった肛蕾は、それこそまだ開く時期ではない蕾のごとく固く口を閉ざしている。けれど、これから金栄は指以上に太さがあるはずのものを受け入れる。ここで止まってはいられない。
「んんん……っうあ!」
思わずぽかりと口が開いて、声が出た。ぐりぐりと押し付けた中指の、本当に指先だけが窄まりに埋まった。それでも異物感が凄まじい。無理やり入れたせいか、突き抜けるような痛みもあった。
「あ、っ……あう、うぅ、あ……」
抜こうにも進もうにも、痛いやらきついやらで動かない。体勢も湯船に座り込んでいるのでぐらぐらと不安定で、尻に潰された手の甲が痛い。どうにか体を起こそうと、指を突っ込んだまま動いた矢先だった。
足がずるりと滑り、ふちにかけていた手でふんばりきれなかった。浮き上がっていた腰はそのままどすんと尻もちをつき、ばしゃんと湯を撥ねさせた金栄は、声も出せずにのけぞった。
「ーーーっ!」
口も喉も大きく開いたのに、声が出ない。それほどの衝撃が、体を突き抜けた。それもそのはず、指先だけが埋まっていた中指が、手のひらが強く圧迫されたことできつく締まった肉の輪をなかば巻き込みながらずっぷりと埋まっていた。
「っ……か、ァっ……げほげほっ」
開いていた喉がぎゅっと閉まったような感覚がして、思わずせき込む。その体のこわばりさえ、無理やり貫かれた後孔には響いた。
「うっ、う………あ、うぐ……」
指の一本しか入れていないのに、そこから割り開かれるような痛みがある。どうにかならないかと動かしてみるも、初めて触れた自分の粘膜を指がぐにぐにと押すだけで、異物感と圧迫感に吐き気さえ催した。
混乱が極まって、じわじわと涙まで浮かび始める。ただでさえ泣きもろいのに、こんなことで泣いていては情けないことこの上ない。
ぐすぐすと鼻をすすって、金栄は深く息を吐いた。どうにか体から力を抜いてみる。それでも上手くいかなくてぐっと息んでみると、ようやく指はずぬぬ、と肉を擦りながら出てきた。
すっかり抜けた指をおそるおそる見ると、ねっとりと濡れている。幸いにして赤いものはついていなかったが、無理やり開かれた穴は鈍い痛みを訴えていた。
(どっ……………どうしよう…)
まぐあいなど、出来る気がしない。こんなに痛くてこんなに辛いものだなんて知らなかった。気持ちがいいものと聞いていたのに、なぜこんなに痛いのか。
(俺が慣れてないだけ? でもどうやって慣らせば……。…一年前から頑張っていればよかった……)
もう時間などない。一日どころか一時間もない。湯殿から上がれば座敷に行くしかない。
まだ痛痒い肛蕾はうずうずとしたが、金栄はばしゃんとしぶきをあげながら立ち上がった。
(清真に頼んでまで自らを律しようとしてくれた泰然をこれ以上待たせられない。我慢すれば、どうにか……)
泰然の気持ちに報いたいし、自分だって抱き合いたい。最初なのだから、痛んでも仕方がないはずだ。
もう震えそうになりながら、金栄はどうにか湯殿を出た。着替えをして、パンと両頬を両手で軽く張る。
「よし……っ」
寒さのせいだけではなく震える体を羽織りで包み、足早に座敷に向かう。道すがら、家の世話をしてくれている眷属たちは顔を合わせると「お疲れ様です」「ゆっくりお休みください」と会釈してくれたが、金栄は気もそぞろだ。曖昧な返事をしてしまいながら、やがて座敷がある、夫婦のための離れに近づくと、眷属たちの姿を見ることもなくなった。
中庭にかかる渡り廊下を渡れば、もうそこは離れだ。引き戸の向こうでは、先に湯浴みを終えた泰然が待っている。
深呼吸をする。冷たい冬の空気が肺腑をいっぱいに満たした。外は雪が降っていて、庭はうっすらと雪化粧をしているというのに、金栄の体は胸のあたりを熱源に、どくどくと脈打つように熱かった。
夫婦になって一年、朝な夕なと出入りした離れなのに、こんなにも戸を引く手が震えたことはない。わずかなとっかかりもなくすらりと横に滑った戸を抜けて、廊下をゆっくりと歩んだ。そうしてやがてもせずに、座敷についた。
「……泰然」
雪も降っているので障子どころか雨どいも閉められているのではと思ったが、意外にもすべて開け放たれ、泰然はかいまきという上掛け布団にもなる大きな半纏をまとって、布団の上に座っていた。
「す、すいません、待たせてしまって」
「いや、ぼうっとしてたらもう来たから、それほどでもない。金栄、ほら火おこしはしてあるから」
「ありがとうございます」
離れの周囲は塀で囲ってあるので庭に誰かが入ってくることはないが、今から部屋で秘め事をするのだから、雨戸を閉めたほうがいいかなと思った金栄だったが、火鉢の前に誘導され、泰然が着ていた分厚いかいまきを肩からかけられてしまうと、身動きがとれなくなった。
座り込んだ金栄の背後では、泰然が雨戸は開け放したまま障子だけを閉め、それからごそごそとなにかしているようだった。
「泰然?」
「ん、ああ」
おざなりな返事が返ってきた。すぐに物音は止んだが、なにをしているのだろうと振り返りかけた金栄の肩に手がかかった。
「……金栄」
思わず背筋が伸びた。見上げると、屈んだ泰然と目が合う。分厚い羽織越しなのに、触れられている場所からむずむずとした疼きが肌を撫で、体を悶えさせたくなるような心地だ。けれど、不思議と今までのように逃げだそうとは思わなかった。
ゆっくりと腰を折り曲げて、泰然の顔が迫る。接吻されるのだとぼんやり思った金栄は、とっさに目をつぶった。前に書誌で読んだ。接吻の時は目を閉じるものだと。
「んっ……ん、ふ…んぅ……」
唇が触れ合うと、背筋を羽が撫でたようなくすぐったさが走った。いつの間にか両肩をとられ、そこから背筋をたどって腰、腰から下腹へ疼きが伝播していく。
「お、わっ」
気が付けば、ぐんにゃりと金栄は力なく倒れそうになっていた。腰が砕けたようになってしまって、座っていなければそのまま膝から崩れ落ちていたかもしれない。両肩をつかんだままだった泰然が勢いを殺してくれたので、そのまま金栄はべしゃりと横に倒れた。
頭がぼうっとする。目を閉じなければというのに集中しすぎて、呼吸を止めていた。それだけでも息が苦しかったのに、唇の隙間を、泰然の舌が割ったのだ。惑う舌を追いかけまわされ、つんと舌先がつつかれたとたんに脳がふわっとなるような感じがして、気付けば倒れこんでいた。
「はっ、はあっ、はあっ……」
「金栄……金栄、もう一回、いいか」
倒れた場所が良かったのか、上半身は布団の上にある。金栄はかいまきを着ているのでそれほど寒くはないが、泰然は薄い寝巻のままだ。寒いのだからせめて布団にと思いながらも、金栄は降りてきた口付けに、深呼吸をしてまた目をつむった。
金栄は目の前で起きている、というよりは自分の体に起こっていることが信じられなかった。
接吻を重ね、口吸いもされ、意識がふわふわととろけているうちに宥められるがままに布団の上にずりあがり、気付けば脱がされたかいまきは、金栄に覆いかぶさってきた泰然がかぶっていた。
いつもは少し上から見ている泰然に見降ろされているのは落ち着かなかったが、頭を撫でられ、頬に接吻が落ちてくるとびくびくと震えながらそちらに意識が向いてくる。ただでさえ敏感な体は触れられるだけで息を詰めるような震えが走ったが、意外にもそれは嫌な感覚ではなかった。
「んっ、ふ……んんんっ」
泰然ほど鍛えている体ではないので恥ずかしいのに、大きな手のひらは胸をもんでくる。誰にも触れられたことのないむっちりとした肉付きの胸にはぽつんと乳首があるが、寒さ以外でつんと立つなんて思わなかった。それなのに、あろうことか泰然は舌でそこをざらりと舐めた。
「んあああっ」
思わず背が反り返ると、より強く舌が押し当てられる。じゅっと吸われ、反ったばかりの背ががくがくと震えて崩れた。
「ああ、あ、すわ、すわないで……」
揺れる声で懇願すると泰然は口を離してくれたが、そこから現れたのは擦られ舐められ、さらには吸い上げられたせいでぷっくりと粒を成した突起だ。ぷくんと立ち上がったそこが赤みを帯びるだけでも恥ずかしいのに、さんざんしゃぶられたそこは、唾液でてらてらと光っていた。
胸の先がじんじんとする。小指の先ほどの小さな場所なのに、そこからすべての血流が流れているようにどきどきした。
胸への愛撫は、どろどろとした熱を下腹部に溜めていく。わけもわからずかいまきの袖を握り締めているうちに、金栄ははっと目を見開いた。
あんなに撫でられるのが苦手だったのに、触れられ続けていると意識がふわふわしてくる。だから、いつの間にか脚を割り開かれていたことにも気付かなかった。
左右に開かれた脚の間に、泰然が腰を割り入れている。すでに前をくつろげていた泰然の股間は勃起していた。
(は………入らない…っ)
さっと金栄は青ざめた。ゆるく勃ちあがった自分のものの隣にずんと並んだ泰然のものは金栄よりは太くなかったが、長さがある。そして、当たり前だが中指よりもずっと太かった。
湯殿での椿事を思い出すと、上半身への愛撫に溺れるがあまりすっかり忘れていた後孔が、思い出したようにぎゅっと強く窄む。さすがにもう違和感はなかったが、恐怖心は残ったままだ。
指でもあれだけ痛かったが、これから泰然のものが入る。我慢をしなければ、と咄嗟に口もとに手の甲をあてた。
(いつか気持ちよくなる………はずだから…っ)
今は耐えるときだと、ぐっと体をこわばらせた時だった。泰然が自分の袂からなにかを出し、口に入れて軽く噛んだ。
「……?」
なにか食べている、と思ったら、それを口から出した。とろけた白い粘液のような、どことなく障子の張替えに使う糊に似ている。手のひらに出したそれを指に乗せると、泰然は手を金栄の足の間に差し込んだ。
「ひあっ」
思わず悲鳴をあげたのは、ねっとりとしたものが、ぎゅっと窄まったままの箇所に塗りつけられたからだった。さっき泰然が口で噛んでいたものなのはわかるが、なぜ塗りつけられたのかがわからない。糊は物を貼り付けるために使うもので、決して体に使っていいものではないはずだ。
「た、泰然、何して……」
「ああ、いちぶのりだから心配いらない。これでしっかりほぐすから」
「ほぐ……んあ、ああっ?」
塗りつけられた場所を撫でられるだけでもくすぐったいのに、そのくすぐったさに綻んだ隙をついて、つぷっと指先が埋まった。
指先をくわえこんだ肉の輪が、じんじんと熱を持つ。異物感と圧迫感はあるが、不思議と痛みはなかった。
「あ、なん、なんで」
さっきはあんなに痛かったのに、割り開かれているという感覚だけで、痛みはそれほどない。いちぶのりとやらのおかげなのか、農作業に長けた泰然の無骨な指は、みるみるうちに金栄の孔に根元まで埋まった。
「金栄のなか、熱いな……指をぎゅうぎゅう食べてるみたいだ。痛くないか?」
「うんんっ……いた、く、なぁっ……んひぃっ」
ぬぷぬぷと音がする。泰然の指は根元まで埋まったまま前後に動き、締め付ける金栄の肉筒の壁を縦横無尽に広げようとしていた。
脚を閉じてしまいたいのに、泰然のがっしりとした腰が入っていて閉まらない。どうにか足の裏は布団につけたが、時折体内の一か所を指が擦るだけで腰が浮き上がってはがくがくと震えてしまい、そのたびに泰然は「いい眺めだ」と言った。
「はーっ、はーっ、んんっ……たい、ぜ……もう…」
腰を上下に振ってしまうたびに、金栄の陰茎も揺れて腹を叩く。ぴゅくっと吹きだした先走りが散った下腹はひんやりとしたが、腰をあげた時に泰然が舌でぬぐい取ってしまって、それでまた金栄の屹立の割れ目はとぷんと透明な雫を蓄えた。
指一本でさんざんに翻弄され、金栄はもう息も絶え絶えだ。いっそもうとどめをさしてくれと声をあげると、泰然は金栄の腰の下に自分のあぐらを差し入れ、腰を高く掲げさせた。
「あと二本入れないと無理だ」
「二本……っ!? さ、裂ける……っ」
一本でもこの圧迫感で、蕾の輪はもうみちみちに広がっている気がする。それに二本も足されてしまったら、もうそこからばりばりと裂けてしまう気がする。思わず体をよじったが、泰然はわざとくすぐるように金栄の下腹を撫でた。
「裂けないために広げるんだ。金栄のここに、俺の種をまくために、もう少し我慢だ」
な、と腰骨を撫でられると、そこからまた蕩けてしまいそうになる。
この一年、泰然はまるで従者然としていた。まさかこんな姿を隠していたとは思いもよらず、金栄はぽーっとしてしまうと、宥められるままに頷いた。
それから、すすり泣いても早くしてくれと急かしても、泰然は指でしっかり広げることに専念した。自分の勃起からもだらだらとおびただしい先走りをこぼしながら、金栄の口周りが涎でどろどろになり、生理的にあふれた涙で頬がびしょびしょに濡れてもやめてはくれなかった。
「ん、あ」
下半身からじゅぷじゅぷとひどい水音が鳴り続け、羞恥と快楽から全身を真っ赤に染めた金栄は、ふと声をあげた。
体内を穿っていた指が、ずるりと抜けたのだ。自分でやった時は一本の指でも痛みがあったのに、指を一本増やすたびに追加されたいちぶのりのおかげなのか、結局泰然の指を三本飲み込んだ。圧迫感も異物感もあったが、体内にある一点をくにゅっと押されるとたまらなく気持ちよくなってしまって、気付けば違和感は消えていた。
すっかり広げられてふっくらとした孔は、埋めてくれるものを探すようにくぱっくぱっとはしたない音を立てながら開閉している。そこに、ひたりと熱いものが押し当てられた。
「たい、ぜん……?」
泰然が伸びあがってくる。金栄の方がわずかに上背があるので、泰然が伸びあがってもどうしても距離があるが、金栄はぶるぶると震えてしまう肘をどうにか起こして、泰然に顔を近づけた。
「ん、んん……」
最初は驚いた接吻も、もう何度もされて、心地よくて嬉しいものだとわかる。呼吸をしてもいいのだと教えられ、あがってしまいそうになる息を整えながら接吻をしていると、閉まりかけた後蕾を、ずぐんと熱の塊が押し広げた。
「んんっ!?」
突き入れられるにしたがって広がった形をしているそれが、泰然の勃起だというのはすぐにわかった。すっかり蕩けてふやけた金栄の筒の壁を、ずるずると擦る。
なんの躊躇もなく突き入れられたそれは、奥へ奥へと進んでいく大蛇のようで、やがてとんと行き止まりを突いた。
「おっ」
開いた口から思わず声が漏れる。既に泰然の下生えは金栄の袋の下を撫でていて、太く育った幹のほとんどは潤んだ粘膜のなかに飲み込まれていた。
「大丈夫か、金栄」
肘を立てたまま、思わず顔をのけぞらして奥を突かれた衝撃に震えていた金栄の腰を、泰然の両手が撫でる。それすらもぞくぞくと肌を泡立たせて、肉杭を食んだ隘路がきゅうきゅうとうごめいた。
がくがくと肘が震えて、体を起こしていられない。そのままべしゃっと背中から布団に落ちた金栄は、信じられない気持ちで自分の下腹を見た。
「はい、は、はいっ、た?」
泰然と金栄の下半身は、ほとんどぴったりとくっついている。あの太い雄蕊は姿を消し、代わりにずっしりとした重みと熱さが腹の中に居座っていた。
「入った。金栄、可愛いな」
「んあっ……あ、だめ、あ……ぁうん、ん、ふあ…」
泰然が体を倒し、腰に添えていた手を伸ばしてくる。大きな手のひらは金栄の頬をさすり、頭を撫で、いつの間にか出てしまっていた小さな角につるりと触れ、そのたびに金栄は甘い声に喉をかすれさせた。
どこもかしこも、触れられるところから気持ちがよくてたまらない。ずっと触れていてほしいとさえ思うが、今は、埋まった杭を動かしてほしくもある。けれど、それを口にしたらはしたないだろうか。
逡巡したが、結局体の方が正直だった。陰茎をずっぷりと埋め込まれた媚肉はぬちぬちとうごめいて自らを割り開くものを促し、金栄の腰は刺激を求めて緩く前後に動いた。
「金栄、腰動いてる」
「え、あ……ああー……」
指摘されるとかっと顔に熱が集まるほど恥ずかしいが、どうしようもなく体は動いてしまう。思わず両手で顔を隠そうとしたが、素早く伸びてきた泰然の両手がそれを許してはくれなかった。
左右の手をそれぞれつなぐようにして布団に縫い留められ、金栄はその晩、五度の精を体内に放たれた。金栄が達したのはそれ以上だ。布団は乱れに乱れ、寝巻は座敷に散らかされ、火鉢はいつの間にか熾火すら消えていたが、ふっくらと温かいかいまきのなかで交じり合った二人の肌は、しっとりと熱に湿った。
金栄の心配をよそに、しっかりと交歓することが出来た夜は過ぎていき、目が覚めたのは、障子の向こうが明らんだ頃だった。
背後からまわった腕に一瞬ぎょっとしたものの、腰の痛みと腹を軽くふくらませるほど注がれた精の重みを感じると、一気に昨夜のことが蘇り、白い肌はかっと赤く染まった。
(俺はなんて痴態を……)
あんなに無理だと思っていたはずなのに、もっととねだった気もするし、奥に出されたことで自分も放ったような貪婪な記憶もある。そしてその痕跡は、身体中にある。今も少し身動ぐだけで尻からはぷちゅんと空気が弾けるような音がして、奥にたっぷりと放たれたものがぷくぷくと溢れて谷間を伝っていった。
今さらいたたまれなくなって思わず丸まると、後ろから伸びていた手がもぞもぞと動いた。
「金栄……?」
おはよう、とかすれた声が背後でする。甲骨のあたりにやわらかいものが押し当てられるとびくびくと震えてしまう体はいつも通りの臆病さだが、泰然から与えられるこの震えが、恐怖や怯えではないと、金栄はもう知ってしまった。
他人に触れられるのを怖がり、逃げ惑うだけだった金栄はもういない。
そろりと振り返ると、妻として娶ったと思っていたものの、実際は金栄をしっかりと抱いた泰然がいる。
金栄は撫で牛で、平癒祈願。
泰然は耕牛で、豊作祈願。
そして丑は紐に通ずるとして、縁や絆を司る。
去年は触れあうとこすら出来なかったのに、今や同じ褥で一夜を明かす仲だ。
どうなることかと思ったものだったが、自分が加護を与えるこの丑年が、人々にとって良い縁を結ぶ年になればいいと思う。
そのためには、自分も変わっていかなければならない。
ごくんとひとつ唾を飲んで寝返りを打った金栄は、ぶるぶる震えてしまいながら、勢いをつけて泰然に口付けをした。昨日たくさんしてもらったので、初夜が明けた今朝は、頑張ろうと思ったのだ。
けれど、さすがに勢いがありすぎた。かつんと軽くはあったが、歯がぶつかった。
「いっ……た、泰然、だいじょう…」
「いって! …大丈夫か、金栄」
思わず互いに口を押さえるも、すぐに相手に手が伸びる。互いに指先が頬に触れて、思わず笑い合う。
撫で牛だと思ってたら闘牛だったかと茶化された金栄はそれこそ真っ赤になったが、あらためて口を寄せると、泰然は接吻を落としてくれた。一年ごしの初夜は、まだ続きそうな予感がした。
完
けれどそれももう終わった。
へとへとになって帰宅した金栄と泰然を眷属たちは労いとともに迎えてくれ、最後はこちらでと宴席を設けてくれた。ありがたいことではあるが、金栄と泰然は膳を平らげ、長老や親々に挨拶を済ませた後は場を辞させてもらった。
疲れてはいるが、今夜は時間が欲しかった。
大晦日の夜、大社巡りが始まる前に金栄と泰然は約束をした。
「俺は大社巡りが終わったら、金栄を抱きたい」
一切言葉を飾ることなく泰然は言った。
「今は時間がない。まぐわうことだけならすぐに出来るかもしれない。でも俺はそんなのは嫌だ。だから、金栄が嫌でなければ、大社巡りが終わってから抱かれてほしい。……それとも、金栄は抱きたい方か?」
すっかり敬語が抜けきった泰然は、もう触れることも躊躇わなくなったのか、金栄の体が震えようと、思わずあえやかな声をあげてしまおうと、がっしりと肩をつかんできた。金栄の方が少しばかり身長があるので、俯いてしまうと自然と泰然の顔と近くなる。体を縮こめることもできないまま、金栄は必死に首を振った。
「だ、…だ、ぁ……だか、だ、抱かれ、たいっ……です…」
語尾は小さく消えてしまったが、泰然には伝わったらしい。よかった、と普段はあまり感情の乗らない顔に笑みが浮かんで、金栄はもうそれだけで倒れてしまいそうだった。
それから一週間、金栄と泰然はずっと一緒に大社巡りをした。そしてようやく今夜だ。
もたもたしているうちに泰然が先に湯浴みを終え、「先に座敷に行く」と言われれば、金栄はもう退路がない。
ひとりで湯船につかりながら、金栄は静かに考え込んでいた。
(今日はまぐわう……)
思わずじっと見た自分の裸の胸は、水面に微弱な揺れを引き起こすほどに高鳴っている。一年もの間をおいて、ようやくやってきた初夜だ。前の時のように、うっかり手を振り払ったりして失敗したくない。けれど、
(まぐわうって……どうしたらいいんだろう)
どうやって抱き合うかは知っている。けれど、知識としてであって、金栄は前も後ろも使ったことがない。自分で慰めることすら、年に数回しかない。なにか準備が必要なのか、それともそのままでいいのかがわからなかった。
(抱かれるのは俺だから……泰然の、い、ぃ……陰茎が、俺のなかにはいるってことで……入るのか?)
他人の股間などまじまじと見るものではないし、泰然のものも見たことがない。そろりと自分の股間を見下ろして、金栄はそれこそ震え上がった。他人と比べたことがないのでわからないが、金栄のものは、自分の大きめの手のひらでも片手では掴み切れないほどのものだ。けれど、もしかしたら泰然のものはもっと太さや長さがあるかもしれない。
くったりと力ない自分のものを手のひらでそろりと包んでみる。これより太かったらどうしよう。入るのだろうか。
「ん……ん、うん……?」
陰茎から手を放し、ごそごそと動いて、手のひらを尻に滑らせてみる。やわらかいが締まっている尻肉の谷間に指をうずめた金栄は、びくっと大きく体を揺らした。指先につんと触れるのは、当たり前に窄まった場所だ。指を押し当てても開くわけでなく、けれどむずむずとするようなくすぐったさがある。
つん、つん、と二度三度つついて見ても、きつく窄まった肛蕾は、それこそまだ開く時期ではない蕾のごとく固く口を閉ざしている。けれど、これから金栄は指以上に太さがあるはずのものを受け入れる。ここで止まってはいられない。
「んんん……っうあ!」
思わずぽかりと口が開いて、声が出た。ぐりぐりと押し付けた中指の、本当に指先だけが窄まりに埋まった。それでも異物感が凄まじい。無理やり入れたせいか、突き抜けるような痛みもあった。
「あ、っ……あう、うぅ、あ……」
抜こうにも進もうにも、痛いやらきついやらで動かない。体勢も湯船に座り込んでいるのでぐらぐらと不安定で、尻に潰された手の甲が痛い。どうにか体を起こそうと、指を突っ込んだまま動いた矢先だった。
足がずるりと滑り、ふちにかけていた手でふんばりきれなかった。浮き上がっていた腰はそのままどすんと尻もちをつき、ばしゃんと湯を撥ねさせた金栄は、声も出せずにのけぞった。
「ーーーっ!」
口も喉も大きく開いたのに、声が出ない。それほどの衝撃が、体を突き抜けた。それもそのはず、指先だけが埋まっていた中指が、手のひらが強く圧迫されたことできつく締まった肉の輪をなかば巻き込みながらずっぷりと埋まっていた。
「っ……か、ァっ……げほげほっ」
開いていた喉がぎゅっと閉まったような感覚がして、思わずせき込む。その体のこわばりさえ、無理やり貫かれた後孔には響いた。
「うっ、う………あ、うぐ……」
指の一本しか入れていないのに、そこから割り開かれるような痛みがある。どうにかならないかと動かしてみるも、初めて触れた自分の粘膜を指がぐにぐにと押すだけで、異物感と圧迫感に吐き気さえ催した。
混乱が極まって、じわじわと涙まで浮かび始める。ただでさえ泣きもろいのに、こんなことで泣いていては情けないことこの上ない。
ぐすぐすと鼻をすすって、金栄は深く息を吐いた。どうにか体から力を抜いてみる。それでも上手くいかなくてぐっと息んでみると、ようやく指はずぬぬ、と肉を擦りながら出てきた。
すっかり抜けた指をおそるおそる見ると、ねっとりと濡れている。幸いにして赤いものはついていなかったが、無理やり開かれた穴は鈍い痛みを訴えていた。
(どっ……………どうしよう…)
まぐあいなど、出来る気がしない。こんなに痛くてこんなに辛いものだなんて知らなかった。気持ちがいいものと聞いていたのに、なぜこんなに痛いのか。
(俺が慣れてないだけ? でもどうやって慣らせば……。…一年前から頑張っていればよかった……)
もう時間などない。一日どころか一時間もない。湯殿から上がれば座敷に行くしかない。
まだ痛痒い肛蕾はうずうずとしたが、金栄はばしゃんとしぶきをあげながら立ち上がった。
(清真に頼んでまで自らを律しようとしてくれた泰然をこれ以上待たせられない。我慢すれば、どうにか……)
泰然の気持ちに報いたいし、自分だって抱き合いたい。最初なのだから、痛んでも仕方がないはずだ。
もう震えそうになりながら、金栄はどうにか湯殿を出た。着替えをして、パンと両頬を両手で軽く張る。
「よし……っ」
寒さのせいだけではなく震える体を羽織りで包み、足早に座敷に向かう。道すがら、家の世話をしてくれている眷属たちは顔を合わせると「お疲れ様です」「ゆっくりお休みください」と会釈してくれたが、金栄は気もそぞろだ。曖昧な返事をしてしまいながら、やがて座敷がある、夫婦のための離れに近づくと、眷属たちの姿を見ることもなくなった。
中庭にかかる渡り廊下を渡れば、もうそこは離れだ。引き戸の向こうでは、先に湯浴みを終えた泰然が待っている。
深呼吸をする。冷たい冬の空気が肺腑をいっぱいに満たした。外は雪が降っていて、庭はうっすらと雪化粧をしているというのに、金栄の体は胸のあたりを熱源に、どくどくと脈打つように熱かった。
夫婦になって一年、朝な夕なと出入りした離れなのに、こんなにも戸を引く手が震えたことはない。わずかなとっかかりもなくすらりと横に滑った戸を抜けて、廊下をゆっくりと歩んだ。そうしてやがてもせずに、座敷についた。
「……泰然」
雪も降っているので障子どころか雨どいも閉められているのではと思ったが、意外にもすべて開け放たれ、泰然はかいまきという上掛け布団にもなる大きな半纏をまとって、布団の上に座っていた。
「す、すいません、待たせてしまって」
「いや、ぼうっとしてたらもう来たから、それほどでもない。金栄、ほら火おこしはしてあるから」
「ありがとうございます」
離れの周囲は塀で囲ってあるので庭に誰かが入ってくることはないが、今から部屋で秘め事をするのだから、雨戸を閉めたほうがいいかなと思った金栄だったが、火鉢の前に誘導され、泰然が着ていた分厚いかいまきを肩からかけられてしまうと、身動きがとれなくなった。
座り込んだ金栄の背後では、泰然が雨戸は開け放したまま障子だけを閉め、それからごそごそとなにかしているようだった。
「泰然?」
「ん、ああ」
おざなりな返事が返ってきた。すぐに物音は止んだが、なにをしているのだろうと振り返りかけた金栄の肩に手がかかった。
「……金栄」
思わず背筋が伸びた。見上げると、屈んだ泰然と目が合う。分厚い羽織越しなのに、触れられている場所からむずむずとした疼きが肌を撫で、体を悶えさせたくなるような心地だ。けれど、不思議と今までのように逃げだそうとは思わなかった。
ゆっくりと腰を折り曲げて、泰然の顔が迫る。接吻されるのだとぼんやり思った金栄は、とっさに目をつぶった。前に書誌で読んだ。接吻の時は目を閉じるものだと。
「んっ……ん、ふ…んぅ……」
唇が触れ合うと、背筋を羽が撫でたようなくすぐったさが走った。いつの間にか両肩をとられ、そこから背筋をたどって腰、腰から下腹へ疼きが伝播していく。
「お、わっ」
気が付けば、ぐんにゃりと金栄は力なく倒れそうになっていた。腰が砕けたようになってしまって、座っていなければそのまま膝から崩れ落ちていたかもしれない。両肩をつかんだままだった泰然が勢いを殺してくれたので、そのまま金栄はべしゃりと横に倒れた。
頭がぼうっとする。目を閉じなければというのに集中しすぎて、呼吸を止めていた。それだけでも息が苦しかったのに、唇の隙間を、泰然の舌が割ったのだ。惑う舌を追いかけまわされ、つんと舌先がつつかれたとたんに脳がふわっとなるような感じがして、気付けば倒れこんでいた。
「はっ、はあっ、はあっ……」
「金栄……金栄、もう一回、いいか」
倒れた場所が良かったのか、上半身は布団の上にある。金栄はかいまきを着ているのでそれほど寒くはないが、泰然は薄い寝巻のままだ。寒いのだからせめて布団にと思いながらも、金栄は降りてきた口付けに、深呼吸をしてまた目をつむった。
金栄は目の前で起きている、というよりは自分の体に起こっていることが信じられなかった。
接吻を重ね、口吸いもされ、意識がふわふわととろけているうちに宥められるがままに布団の上にずりあがり、気付けば脱がされたかいまきは、金栄に覆いかぶさってきた泰然がかぶっていた。
いつもは少し上から見ている泰然に見降ろされているのは落ち着かなかったが、頭を撫でられ、頬に接吻が落ちてくるとびくびくと震えながらそちらに意識が向いてくる。ただでさえ敏感な体は触れられるだけで息を詰めるような震えが走ったが、意外にもそれは嫌な感覚ではなかった。
「んっ、ふ……んんんっ」
泰然ほど鍛えている体ではないので恥ずかしいのに、大きな手のひらは胸をもんでくる。誰にも触れられたことのないむっちりとした肉付きの胸にはぽつんと乳首があるが、寒さ以外でつんと立つなんて思わなかった。それなのに、あろうことか泰然は舌でそこをざらりと舐めた。
「んあああっ」
思わず背が反り返ると、より強く舌が押し当てられる。じゅっと吸われ、反ったばかりの背ががくがくと震えて崩れた。
「ああ、あ、すわ、すわないで……」
揺れる声で懇願すると泰然は口を離してくれたが、そこから現れたのは擦られ舐められ、さらには吸い上げられたせいでぷっくりと粒を成した突起だ。ぷくんと立ち上がったそこが赤みを帯びるだけでも恥ずかしいのに、さんざんしゃぶられたそこは、唾液でてらてらと光っていた。
胸の先がじんじんとする。小指の先ほどの小さな場所なのに、そこからすべての血流が流れているようにどきどきした。
胸への愛撫は、どろどろとした熱を下腹部に溜めていく。わけもわからずかいまきの袖を握り締めているうちに、金栄ははっと目を見開いた。
あんなに撫でられるのが苦手だったのに、触れられ続けていると意識がふわふわしてくる。だから、いつの間にか脚を割り開かれていたことにも気付かなかった。
左右に開かれた脚の間に、泰然が腰を割り入れている。すでに前をくつろげていた泰然の股間は勃起していた。
(は………入らない…っ)
さっと金栄は青ざめた。ゆるく勃ちあがった自分のものの隣にずんと並んだ泰然のものは金栄よりは太くなかったが、長さがある。そして、当たり前だが中指よりもずっと太かった。
湯殿での椿事を思い出すと、上半身への愛撫に溺れるがあまりすっかり忘れていた後孔が、思い出したようにぎゅっと強く窄む。さすがにもう違和感はなかったが、恐怖心は残ったままだ。
指でもあれだけ痛かったが、これから泰然のものが入る。我慢をしなければ、と咄嗟に口もとに手の甲をあてた。
(いつか気持ちよくなる………はずだから…っ)
今は耐えるときだと、ぐっと体をこわばらせた時だった。泰然が自分の袂からなにかを出し、口に入れて軽く噛んだ。
「……?」
なにか食べている、と思ったら、それを口から出した。とろけた白い粘液のような、どことなく障子の張替えに使う糊に似ている。手のひらに出したそれを指に乗せると、泰然は手を金栄の足の間に差し込んだ。
「ひあっ」
思わず悲鳴をあげたのは、ねっとりとしたものが、ぎゅっと窄まったままの箇所に塗りつけられたからだった。さっき泰然が口で噛んでいたものなのはわかるが、なぜ塗りつけられたのかがわからない。糊は物を貼り付けるために使うもので、決して体に使っていいものではないはずだ。
「た、泰然、何して……」
「ああ、いちぶのりだから心配いらない。これでしっかりほぐすから」
「ほぐ……んあ、ああっ?」
塗りつけられた場所を撫でられるだけでもくすぐったいのに、そのくすぐったさに綻んだ隙をついて、つぷっと指先が埋まった。
指先をくわえこんだ肉の輪が、じんじんと熱を持つ。異物感と圧迫感はあるが、不思議と痛みはなかった。
「あ、なん、なんで」
さっきはあんなに痛かったのに、割り開かれているという感覚だけで、痛みはそれほどない。いちぶのりとやらのおかげなのか、農作業に長けた泰然の無骨な指は、みるみるうちに金栄の孔に根元まで埋まった。
「金栄のなか、熱いな……指をぎゅうぎゅう食べてるみたいだ。痛くないか?」
「うんんっ……いた、く、なぁっ……んひぃっ」
ぬぷぬぷと音がする。泰然の指は根元まで埋まったまま前後に動き、締め付ける金栄の肉筒の壁を縦横無尽に広げようとしていた。
脚を閉じてしまいたいのに、泰然のがっしりとした腰が入っていて閉まらない。どうにか足の裏は布団につけたが、時折体内の一か所を指が擦るだけで腰が浮き上がってはがくがくと震えてしまい、そのたびに泰然は「いい眺めだ」と言った。
「はーっ、はーっ、んんっ……たい、ぜ……もう…」
腰を上下に振ってしまうたびに、金栄の陰茎も揺れて腹を叩く。ぴゅくっと吹きだした先走りが散った下腹はひんやりとしたが、腰をあげた時に泰然が舌でぬぐい取ってしまって、それでまた金栄の屹立の割れ目はとぷんと透明な雫を蓄えた。
指一本でさんざんに翻弄され、金栄はもう息も絶え絶えだ。いっそもうとどめをさしてくれと声をあげると、泰然は金栄の腰の下に自分のあぐらを差し入れ、腰を高く掲げさせた。
「あと二本入れないと無理だ」
「二本……っ!? さ、裂ける……っ」
一本でもこの圧迫感で、蕾の輪はもうみちみちに広がっている気がする。それに二本も足されてしまったら、もうそこからばりばりと裂けてしまう気がする。思わず体をよじったが、泰然はわざとくすぐるように金栄の下腹を撫でた。
「裂けないために広げるんだ。金栄のここに、俺の種をまくために、もう少し我慢だ」
な、と腰骨を撫でられると、そこからまた蕩けてしまいそうになる。
この一年、泰然はまるで従者然としていた。まさかこんな姿を隠していたとは思いもよらず、金栄はぽーっとしてしまうと、宥められるままに頷いた。
それから、すすり泣いても早くしてくれと急かしても、泰然は指でしっかり広げることに専念した。自分の勃起からもだらだらとおびただしい先走りをこぼしながら、金栄の口周りが涎でどろどろになり、生理的にあふれた涙で頬がびしょびしょに濡れてもやめてはくれなかった。
「ん、あ」
下半身からじゅぷじゅぷとひどい水音が鳴り続け、羞恥と快楽から全身を真っ赤に染めた金栄は、ふと声をあげた。
体内を穿っていた指が、ずるりと抜けたのだ。自分でやった時は一本の指でも痛みがあったのに、指を一本増やすたびに追加されたいちぶのりのおかげなのか、結局泰然の指を三本飲み込んだ。圧迫感も異物感もあったが、体内にある一点をくにゅっと押されるとたまらなく気持ちよくなってしまって、気付けば違和感は消えていた。
すっかり広げられてふっくらとした孔は、埋めてくれるものを探すようにくぱっくぱっとはしたない音を立てながら開閉している。そこに、ひたりと熱いものが押し当てられた。
「たい、ぜん……?」
泰然が伸びあがってくる。金栄の方がわずかに上背があるので、泰然が伸びあがってもどうしても距離があるが、金栄はぶるぶると震えてしまう肘をどうにか起こして、泰然に顔を近づけた。
「ん、んん……」
最初は驚いた接吻も、もう何度もされて、心地よくて嬉しいものだとわかる。呼吸をしてもいいのだと教えられ、あがってしまいそうになる息を整えながら接吻をしていると、閉まりかけた後蕾を、ずぐんと熱の塊が押し広げた。
「んんっ!?」
突き入れられるにしたがって広がった形をしているそれが、泰然の勃起だというのはすぐにわかった。すっかり蕩けてふやけた金栄の筒の壁を、ずるずると擦る。
なんの躊躇もなく突き入れられたそれは、奥へ奥へと進んでいく大蛇のようで、やがてとんと行き止まりを突いた。
「おっ」
開いた口から思わず声が漏れる。既に泰然の下生えは金栄の袋の下を撫でていて、太く育った幹のほとんどは潤んだ粘膜のなかに飲み込まれていた。
「大丈夫か、金栄」
肘を立てたまま、思わず顔をのけぞらして奥を突かれた衝撃に震えていた金栄の腰を、泰然の両手が撫でる。それすらもぞくぞくと肌を泡立たせて、肉杭を食んだ隘路がきゅうきゅうとうごめいた。
がくがくと肘が震えて、体を起こしていられない。そのままべしゃっと背中から布団に落ちた金栄は、信じられない気持ちで自分の下腹を見た。
「はい、は、はいっ、た?」
泰然と金栄の下半身は、ほとんどぴったりとくっついている。あの太い雄蕊は姿を消し、代わりにずっしりとした重みと熱さが腹の中に居座っていた。
「入った。金栄、可愛いな」
「んあっ……あ、だめ、あ……ぁうん、ん、ふあ…」
泰然が体を倒し、腰に添えていた手を伸ばしてくる。大きな手のひらは金栄の頬をさすり、頭を撫で、いつの間にか出てしまっていた小さな角につるりと触れ、そのたびに金栄は甘い声に喉をかすれさせた。
どこもかしこも、触れられるところから気持ちがよくてたまらない。ずっと触れていてほしいとさえ思うが、今は、埋まった杭を動かしてほしくもある。けれど、それを口にしたらはしたないだろうか。
逡巡したが、結局体の方が正直だった。陰茎をずっぷりと埋め込まれた媚肉はぬちぬちとうごめいて自らを割り開くものを促し、金栄の腰は刺激を求めて緩く前後に動いた。
「金栄、腰動いてる」
「え、あ……ああー……」
指摘されるとかっと顔に熱が集まるほど恥ずかしいが、どうしようもなく体は動いてしまう。思わず両手で顔を隠そうとしたが、素早く伸びてきた泰然の両手がそれを許してはくれなかった。
左右の手をそれぞれつなぐようにして布団に縫い留められ、金栄はその晩、五度の精を体内に放たれた。金栄が達したのはそれ以上だ。布団は乱れに乱れ、寝巻は座敷に散らかされ、火鉢はいつの間にか熾火すら消えていたが、ふっくらと温かいかいまきのなかで交じり合った二人の肌は、しっとりと熱に湿った。
金栄の心配をよそに、しっかりと交歓することが出来た夜は過ぎていき、目が覚めたのは、障子の向こうが明らんだ頃だった。
背後からまわった腕に一瞬ぎょっとしたものの、腰の痛みと腹を軽くふくらませるほど注がれた精の重みを感じると、一気に昨夜のことが蘇り、白い肌はかっと赤く染まった。
(俺はなんて痴態を……)
あんなに無理だと思っていたはずなのに、もっととねだった気もするし、奥に出されたことで自分も放ったような貪婪な記憶もある。そしてその痕跡は、身体中にある。今も少し身動ぐだけで尻からはぷちゅんと空気が弾けるような音がして、奥にたっぷりと放たれたものがぷくぷくと溢れて谷間を伝っていった。
今さらいたたまれなくなって思わず丸まると、後ろから伸びていた手がもぞもぞと動いた。
「金栄……?」
おはよう、とかすれた声が背後でする。甲骨のあたりにやわらかいものが押し当てられるとびくびくと震えてしまう体はいつも通りの臆病さだが、泰然から与えられるこの震えが、恐怖や怯えではないと、金栄はもう知ってしまった。
他人に触れられるのを怖がり、逃げ惑うだけだった金栄はもういない。
そろりと振り返ると、妻として娶ったと思っていたものの、実際は金栄をしっかりと抱いた泰然がいる。
金栄は撫で牛で、平癒祈願。
泰然は耕牛で、豊作祈願。
そして丑は紐に通ずるとして、縁や絆を司る。
去年は触れあうとこすら出来なかったのに、今や同じ褥で一夜を明かす仲だ。
どうなることかと思ったものだったが、自分が加護を与えるこの丑年が、人々にとって良い縁を結ぶ年になればいいと思う。
そのためには、自分も変わっていかなければならない。
ごくんとひとつ唾を飲んで寝返りを打った金栄は、ぶるぶる震えてしまいながら、勢いをつけて泰然に口付けをした。昨日たくさんしてもらったので、初夜が明けた今朝は、頑張ろうと思ったのだ。
けれど、さすがに勢いがありすぎた。かつんと軽くはあったが、歯がぶつかった。
「いっ……た、泰然、だいじょう…」
「いって! …大丈夫か、金栄」
思わず互いに口を押さえるも、すぐに相手に手が伸びる。互いに指先が頬に触れて、思わず笑い合う。
撫で牛だと思ってたら闘牛だったかと茶化された金栄はそれこそ真っ赤になったが、あらためて口を寄せると、泰然は接吻を落としてくれた。一年ごしの初夜は、まだ続きそうな予感がした。
完
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