弄する贄は蜜を秘める

晦リリ

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11.はじめての ★

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「実りは間に合うのか」
「……んっぐ」
 朝餉を摂っているさなかだった。
 莢珂は人間なので食事をとるが、幡嶺は神であるせいか、自ら積極的に食事はしない。白湯や茶、酒を飲んでいる姿はよく見るが、食べ物は時折木の実や干した肉を食べている程度だった。
 山菜の煮びたしと白米を食べていたらこりこりと胡桃を食んでいた幡嶺がおもむろに話しかけてきたものだから、思わず喉にかかって、莢珂は慌てて茶を飲みほした。つかえていたものはわずかな苦しさをまとって胃の腑へ落ちていった。
「み、実り……ですか」
「米以外にも作ってるんだろう」
「一応……芋と豆と白菜なんかを作ってます。いただいた加護で成長は早いですが……量は間に合わないかもしれないです。干す時間もないので、今年はほとんど雪の下に隠すと思います」
 いつもなら、春夏の間に収穫した野菜を乾燥させたり塩漬けにしたり、肉や魚なら煙でいぶしたりして保存食にする。葉物の一部は藁の下に隠して雪でもかけておけば冬の間も食べることができたが、野生生物に掘り返されてしまうこともあるので、やはり保存食にする分は確保しておきたかった。
 けれど、今年はなにもかも足りない。成長が早いとは言ってもまだ収穫できるほどではないし、肉や魚を捕りに狩りに行く余裕もない。
 村では誰かが近くの街まで行って干し肉や干し魚を買ってくる案もあがっていたが、一番近くの街でも山脈を越えなければならない。行って帰ってくるだけでも四日はかかる。どの家もそれほどの人員の余裕はなく、昨日村長の家で飼育していた痩せ細った牛をつぶして解体し、わずかな量をそれぞれの家に配ったばかりだった。
 せめて猪や熊を狩りに行けたらいいのだが、莢珂は弓を引いたこともない。罠の仕掛け方でもならって、せめて兎でも捕まえられないだろうか。そんなことを考えていると、やがて幡嶺は無言で立ち去った。
(幡嶺さまにお願いしたらどうなるんだろう)
 遠ざかる廊下の軋みを聞きながら、ぼんやりと莢珂は考えた。
 幡嶺は毎日米袋を持たせてくれる。どれほどのたくわえがあるのか莢珂は知らないが、節制している様子もない。言えば多くを分け与えてくれる気もしたが、それでは幡嶺の負担になる。対価として返せるものなど思い当たりがない。
「……はあ」
 相手が神とはいえ、なんでもかんでも願って頼るのはあまりにも図々しい。呪いを解き、莢珂に加護を与え、毎日米袋を持たせてくれているというのに、これ以上を望むのは愚かしいことだ。
 ばかなことを考えてしまったと忸怩たる思いに胸を悪くしながら食事を終えた莢珂は一度部屋に戻って身支度を整え、それからいつも通り幡嶺に挨拶をしてから、村へ戻った。
 あれやこれやと考え込んでしまうものの、結局は動かなければ間に合うものも間に合わなくなる。一日しっかりと動き回り、屋敷に戻ってからも夜の勤めに向けてそそくさと動き回る。
 そうして今宵、莢珂は幡嶺の褥にいた。
「んっ、ん、ぁ、やぁ、や、ばんりょ、さま……そこ、きたない……」
 湯浴み後の火照った体に、ひんやりとする敷布が心地よい。背中にあたる上質な布のよれを感じながら、莢珂は左右に開かれた脚の間にうずくまる幡嶺の頭に触れていた。
 莢珂には性行為に関しての知識が一切ないが長く生きているという幡嶺はさすがの手練手管だ。驚くようなことを仕掛けてくるも、それは決して不快なものではない。いまもおもむろに口腔に雄の部分を含まれて驚愕したが、舌でねぶられるとたまらなくなってしまう。どろどろとした快楽が腰を中心に広がって、羞恥よりももっと欲しいという貪婪さだけが意識を焼いていくようだった。
「穢れがあるなら俺が浄めてやろう。そら、あの湖のようにお前のここはしとどだ」
「そ…じゃなくて……んひっ」
 震えて勃ちあがるものから口が離れたかと思えば、茎の下に隠された花弁に舌が差し入れられる。すでにほころんだそこは、ようやく来てくれたとばかりにぷくりと新しい蜜を吐き出した。
 ぬちぬちと舐められるとたまらない。すぐにずんと突き抜けるような感覚がして、莢珂はびくびくと体を震わせながら達した。
 抱かれるたびに、体は快楽を拾いやすくなる。入れられずとも達することは多くなった。
 触れられ、舐られ、揉まれ、入れられ、すべてが気持ちいい。大きな体に覆いかぶさられるのも最初は怖かったが、今では自然とあがった腕が幡嶺の肩口に周るようになった。肌が合わさるとほっとした。
 ふと、幡嶺はどうだろうと達した余韻でぼうっとする頭のまま、莢珂は考えた。
 莢珂は甘くとろかされて心地よいばかりだが、幡嶺にたいしてはなにもしたことがない。いつも寝台に横たわり、与えられる快楽に身をよじっては嬌声を上げるばかりだ。中に入れば締め付けがいい、心地よいと言ってくれるが、それは莢珂が意図しているわけではなくて、体が勝手にそう動いてしまっているだけだ。莢珂自身が幡嶺に心地よくなってもらおうと、あれこれしたことは一度もない。
(俺は贄なのに…されてばかりではだめな気がする……)
 幡嶺は、莢珂に良くしてくれる。贄というのだから食べられるかもしれないと思っていたが、実際は噛みついたりさえしない。舐めてとかして、なにも知らなかった肌にみだらな熱を教えるだけだ。
 なにか返せることはあるだろうかとぼんやり考えていると、幡嶺が体を起こした。莢珂の股間をしゃぶりつくした舌でべろりと口の周りを舐めながら寝台の上に膝立ちになった彼の股間は既にいきり立っている。大きな手が無造作に前を開くと、太く長いものがあらわになった。
 莢珂の体を弄っている間に幡嶺の雄はだいたい勃ちあがるが、挿入する前は何度か自分で擦り、さらにかたくそそり立たせている。それをいつも見ていたが、そうだ、と莢珂は肘をついて体を起こした。
「あの、幡嶺さま」
「なんだ」
「ば、ばん……幡嶺さまの、……その、幡嶺さまの……」
 ちらりと見やるのは開いた前からのぞく立派なものだ。莢珂の未熟なものとは比べようもない。それこそ莢珂の痩せた手首ほどもあるもので、おおよそこんな太さのものが体内に埋まるとも思えなかったが、昨夜も後ろを貫かれている。夜ごと莢珂を泣かせ、深いところまで穿つ凶器であり、ふたりが繋がるための楔でもある。
 そう思うと驚きや羞恥はするりと消えた。すっかり上体を起こして、莢珂は懇願するようにひざまずいた。
「幡嶺さまのものを……陽物を、俺にも舐めさせてくれませんか」
「………うん?」
 はっきりと口にしたつもりではあったが、幡嶺にはよく聞こえていないようだった。けれど、もう一度言葉にするのはさすがに恥ずかしくて、莢珂はそれならと体を屈めた。
 互いに湯を浴びて体は清めたが、勃起したものからぷくりと湧き上がる露のせいか、雄臭い匂いがする。けれどいやではない。ゆるく勃起したものをそろりと両手で包んで、さてと莢珂は目をまばたかせた。
 幡嶺はどうやって自分を気持ちよくしてくれていただろうか。
 舐められ、ほぐされていることはわかっていたが、よく覚えてはいない。それこそ意識すらあやふやになるほど心地よいのだ。ただただ気持ちいい、うれしいという感情で胸も頭もいっぱいになってしまって、おおよそなにも覚えていない。
 どうしようかとここにきて考えこんでしまったが、今更あとに引くことはできない。とりあえず、ちろりと出した舌でぺろりとしゃぶってみると、莢珂に押されたかたちになった幡嶺がごそりと動いて尻を寝台につけた。
「お前、なにを」
「んん……いつも、んむ……俺ばかりしていただいてるので……ん、ぅん」
 太い幹はどこもかしこも熱くて脈打つようだ。慣れないながらに必死に舐めしゃぶり、もっとかたく、もっとそそり立つように育てていく。ふしぎと嫌悪感はなく、むしろ伸びてきた手が頭を撫でてくれると、もっと頑張ろうと思えた。
「ん、ふ……ぅん、む……」
 ぞろりと舐め上げるだけのつたない舌技でも、幡嶺の陽物は露を垂らしてくれる。それを舌で受け止め、先端をそろりと口に含んだ。
 精一杯口を開いているつもりでも、傘を開いた雁先は大きく、どうにも口に入りきらない。歯を立てては痛いだろうし、かといって今以上に口を開くと、顎がはずれてしまいそうだ。仕方がないので先端にちゅ、と口づけてみると、幡嶺が身じろいでぎしりと寝台が軋んだ。
 濃ゆい白濁が迸ったのはすぐだった。顔面にびしゃりとたたきつけられたものは半開きになっていた口の中に少し入った。少し苦いようなしょっぱいような味がしたが、幡嶺が出したものだ。そのままごくりと嚥下し、顔にしたたったものも指でぬぐって舐めると、大きな手のひらが白濁のしたたる莢珂の頬を撫でた。
「なにを言い出したかと思えば、お前は……ああ、舐めるな。まずいだろう」
 幡嶺の寝着の裾でぐいぐいと頬を拭われ、そのまま開いて立てた膝の間に引きずり込まれた。
「いつも俺ばかりしてもらってるので……」
「抱かれているだろう」
「でも、俺から幡嶺さまに気持ちよくなっていただけるようにしたことはないので……」
 駄目だったろうか。毎日触れ合い、食事や湯浴みをともにすることもあるが、彼はおそれ多くも一柱の神だ。
 大それたことをしただろうかと今更体をすくめると、ゆるやかに褥に寝転がされ、脚を左右に開かれた。
「俺は毎日心地よいぞ。お前の胎は熱く狭く、俺を包んでくれる。そら、こんなふうにだ」
 ぬぷりと、さきほどまで莢珂が口をつけていた切っ先が前花に触れた。そのままずるずると狭隘を割り開きながら入ってくると、やがて最奥をとんと突いて止まった。
「んっ、うあ……お、俺は……俺は幡嶺さまに気持ちよくなっ…あう、んふ……なってほしくて……」
 密着した粘膜から、じわじわと互いの熱が侵食しあっていく。もとからそこにあったものが戻ってきたのではと思うほどぴったりと嵌まるのに、けれど少しでも動かれるとびりびりと痺れるような疼きと熱が背筋を駆け上がった。
 待ち望んだ侵略に、ぐずぐずと意識までおかされる。けれど、これだけは聞いておきたかった。
「ぁう、んっ……幡嶺、さま……お礼、少しは出来ましたか…?」
 村長からは、今日もお礼を言ってほしいと毎日言われる。少しくらいはそれに報う働きができただろうか。
 問いかけると、幡嶺は面食らったような顔をした。けれど、すぐにいつも通りの凛々しく雄々しい顔で目を細めた。
「ああ、出来た。……だが、まだお前が足りん。もっともらおう」
(幡嶺さま、笑ってる……)
 いつも真一文字に引き結ばれている幡嶺の口のはしが、ごくわずかに持ち上がっていた。
 莢珂の舌技は我ながらつたないものだとわかっていたが、それでもこうやって笑ってくれるならやった甲斐があった。
 うれしい、と微笑んだ口に幡嶺のそれが重なる。
 幡嶺は莢珂にとってのはじめてを次々と作っていく。はじめて交わした口づけは互いに荒い呼吸でままならなく、すぐに離れてしまった。けれど、すぐにまた重ねられる。やがて幡嶺が動き出して口づけは解かれたが、夜はまだ長い。
 あと何度口づけは落ちてきてくれるだろうと思った莢珂の心を聴いたように、その夜、口づけはまぐわいが終わっても繰り返された。



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