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しおりを挟む首輪はなかなかはずすことが出来なかった。
抑制剤はまだ効いている。思考はクリアで、オメガの発情期に引きずられて性衝動が全てを支配するような感覚もない。
ただただ緊張で指先が震えて、小さな鍵穴を何度かカツカツと叩いてしまったあと、ようやく鍵は穴に入った。頑健な守りにしては呆気ないほどの小さな音を立てて、首輪ははずれた。
オメガのなかには一日中首輪をつける人もいるため、中にはくっきりと日焼け跡がついている場合もある。けれど、誰にも噛まれていない真柴のうなじは綺麗に日焼けしている。それは彼が他人の来訪を怖がらずに済むほどの山奥に一人で居続けた証だった。
外した首輪を床に置き、日焼けの境目がないうなじに触れる。びくりと真柴は震えたが、逃げる様子はなかった。
ここを噛めば、アルファとオメガの関係は劇的に変わると思っていた。
けれど、今となっては何も変わらないのかもしれないと、阿賀野は思うようになっていた。
噛まなくても阿賀野は真柴を愛しているし、真柴も阿賀野を想ってくれている。
なにか変わると思っていたのは、運命のつがいでないと幸せになれないと思っていた頃の自分だけだ。
オメガである真柴の体には大きな変化があるが、二人の関係は変わらない。阿賀野は真柴を愛している。それは変わらないのだ。
腰を浮かせて両肩を手のひらで包むように掴むと、背を向けたままの真柴の体が少し強張った。
キスをするのとも、セックスをするのとも違う感覚だった。
どう言葉をかけるべきかわからないまま、口を寄せた。
はりのある肌に歯を立てる。そのままぐっと力を込めると、ぷつりと口の中に血の味が広がり、うめき声があがった。
「っう……う、ん」
ぶわりと匂いが一瞬濃さを増し、ぐらりと脳が揺れたような感覚に襲われる。肩を掴む手に力が入り、口腔から溢れた唾液が真新しい傷に垂れた。
あ、あ、と吐息のような声が漏れている。同時に真柴の体から力抜けていき。正座をしていた足も崩れた。その頃になってようやく口が離れ、阿賀野は深呼吸した。空気がどっと入ってくる。呼吸を止めてまでうなじに噛みついていたのだと自覚した。
「……真柴くん」
ぐったりともたれてくる体温の高い体を抱きしめる。
愛しいと、数分前と変わらず思った。
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