上 下
48 / 67
第四章 波乱の内政・外交編

第4話 責務

しおりを挟む
「え? 今月の税金はもう納めた??」
「ええ。我々職人が、税金の期日を破ることは絶対にありません。」
「それは心得てるつもりだけどさ……。」

ツトゴ領主、ヘンリー・カーマンから聞かされた話は、予想外のものだった。彼らは既に税金を支払ったらしいのだ。ところが、彼らが払ったはずの木材は城に着いておらず、僕たち政府が改めてツトゴ領に催促の手紙を出す。それを読んで激怒した職人たちが、一揆を起こし、木材納入の中止を要求する。そして、今に至るという訳らしいのだが…。

「なるほど…じゃあ、僕たちが二回も税金納入に関する手紙を送ったから、職人たちはみんな増税したものだと勘違いしたんだね。この、減税対象のツトゴ領で。」
「そういうことです。私の方からも、職人に、今の王様はバカなだけだからと何度も促しているんですけど、全く聞いてくれなくて。」
「おい、ヘンリー。君はどっちの味方なんだよ…」

僕のことをバカだとか言ったら、クーデターを起こされて、王位を引きずり下ろされるだろう。大臣やその他官職に従ずる人間は、僕のことを評価してくれているらしいが、いまだに国民や一般兵、事情を知らない帝国以外の国からの評価は、《無能な君主》のままだ。だからこそ、この国内の問題を解決に導くことができなければ、僕の王としての役目は、きっとそこで終わりになることだろう。だが、絶対にそれは避けたい。僕は、〈ムーン〉を解体させてから、王位を退きたいからね。

「…今のヘンリーの話、本当みたいだね。だとすると、今回の税収がうまく行かなかった原因は、1つしか無くなるんだけど…。」
「まさか、が関与しているんですか?」
「ああ、間違いないよ。証拠は無いけどね。」



現地指導員。それは、王(執政官)の命令を的確に地方に伝えたり、領主の代わりに税金を納めたり、裁判官を務めたりするなど、所謂いわゆるなんでも管理職だ。ちなみに、役柄の高低をピラミッドで表すなら、領主よりも身分が上となる。したがって、領主よりも強い権力を有せるのだ。但し、任命するのは王であり、しっかりとした功績を修めた人物以外には、この役職を任せることはないんだけどね。

「とにかく、今回の事態に関して、領主が大臣やその他政府の人間に直接訴えてもらわなければ、僕らとしても正式な調査には動けないんだ。ちょっと面倒くさいけど、一緒に来てもらって、色々と手続きをするけども、大丈夫?」
「ええ。頷くしかないですよね。もう王都行きの馬車に乗せられているんですからっ!!」

時間も無いために、嫌がるヘンリーを馬車に詰めて、僕たちは既に城へと発った。向かう間に大蔵大臣であるサガミに、現地指導員の行方を調べてもらったのだが、何処に向かったのか全く分からず。納入した筈の木材も、未だ見つからずじまい。これからやることが山積みだ。しばらく自由は無いものだと思った方が良いかもしれないな。



城へと戻った後、僕は大臣達や兄さんを集めて、報告の儀をすぐに行った。事の次第をヘンリーに説明してもらう。大臣達の顔には、驚きの表情が浮かんでいた。

「…まさか、税金が行方不明になるとは。」
「…いやはや、変なことを企む輩もいるものですな。」
「タイト様、横領された現金の行方について、目星はついているんですか?」

ウルップが、怒りに顔を真っ赤にさせながら、僕に聞いてくる。

「残念だけど、あまりついてないんだ。」
「現地指導員に関しては、把握されているのですか?」
「うん、名前だけはね。ジェノ・シャウル。元林業統一管理局の局長で、現在は仕事をやめて現地指導員だけ務めていたらしいんだけど…。」

マージが頭を下げる。

「本当に申し訳ありません! 現地指導員の管理は我々大蔵省の人間がして参りましたが、今回は我々の目が完全に行き届いておらず、このような事態を引き起こしてしまいましたっ!!」
「仕方がないさ、マージ。今回の不祥事の原因は君じゃないさ。しっかりと地方に目を向け、完璧に仕事をこなした人たちを誰が責めるの?」

マージはまだ俯いていた。

「それに、今回の発端はジェノという指導員が上に報告を怠ったことだよ。奴はたくさんの人々に迷惑をかけると知りながら、木材を全て横領したんだからね。ツトゴ領の人々だって、多大な被害を被ったんだ。この仕組みを考案して、人々にやらせたのは紛れもない僕ら中央の人間だ。みんな、国民の信頼を得る意味でも、罪滅ぼしをするという意味でも、必ず責務を果たすよ!!」
「「おお!!!」」

絶対に見つけてやるぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

前世を思い出したのでクッキーを焼きました。〔ざまぁ〕

ラララキヲ
恋愛
 侯爵令嬢ルイーゼ・ロッチは第一王子ジャスティン・パルキアディオの婚約者だった。  しかしそれは義妹カミラがジャスティンと親しくなるまでの事。  カミラとジャスティンの仲が深まった事によりルイーゼの婚約は無くなった。  ショックからルイーゼは高熱を出して寝込んだ。  高熱に浮かされたルイーゼは夢を見る。  前世の夢を……  そして前世を思い出したルイーゼは暇になった時間でお菓子作りを始めた。前世で大好きだった味を楽しむ為に。  しかしそのクッキーすら義妹カミラは盗っていく。 「これはわたくしが作った物よ!」  そう言ってカミラはルイーゼの作ったクッキーを自分が作った物としてジャスティンに出した…………──  そして、ルイーゼは幸せになる。 〈※死人が出るのでR15に〉 〈※深く考えずに上辺だけサラッと読んでいただきたい話です(;^∀^)w〉 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。 ※女性向けHOTランキング14位入り、ありがとうございます!!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...