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第二章 第一次〈ムーン〉制圧作戦編

第10話 まさか、こいつが

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「お前らは……いや、お前は人々の期待を裏切り、私利私欲のために悪事を行い、かつての〈ムーン〉を最悪のテロリスト集団へと貶めた。ドラゴンを信仰し、それを嫌がるものを抹殺するのは、まだ過激だが、宗教としては少しは理解できる。だけれども……全く関係のない人々を攻撃するのだけは絶対に許さない…!ましてや、国民を。家族を。……父親を!!」


僕は、指導者に向けてメガファイアボールを放つ。奴はそれを軽々とよける。


「残念ですね……我々の崇高な考えを理解できないとは。」

「人々を皆殺しにするのが、お前らの崇高な考えだというのかっ!?」

「違うっ!そんなわけがないでしょう!」


指導者は、声を荒げて言う。


「じゃあ何故、お前ら〈ムーン〉はテロ行為へと走った?…何故、関係のない人々を巻き込んでまで極大魔法を放った!!」

「関係ないわけではなかったのだ!!」


大きく手を広げ、叫ぶ。


「我々は、人殺しなどをしたくはなかった。」

「何を言う!お前らは…」

「黙れ!!」


指導者は、ものすごい剣幕で怒鳴った。


「確かに、我々は手荒な真似をしてそなたの父上を殺しました。酒に酔った勢いで、私の部下がルーク王を侮辱したことに関しては謝ります。」


本当にすみませんでした、と付け加える。


「だが奴は、我々の考えを理解しようとしなかったのです。」

「考えって……?」


僕は〈ムーン〉をよく知らない。父から伝説程度にかつてのことを聞いただけで、僕は本当に何も知らないのだ。


「我々は………我々は、かつて人々のためにその身を捧げました。あなたでも、この名前くらいは分かるでしょう。勇者カルメンを。」

「ああ、かつて4つの陣営に別れて戦った時、人々の世界の平和を守ったと言われている伝説の勇者様じゃ?」

「勇者カルメンは、――私のことです。」

「!!??」


それは、とんでもない告白だった。今、世界を脅威で脅かしているテロ組織のリーダーが、かつてこの世界を救った勇者だと?誰が信じられるものか。

でも、彼の言葉に嘘はないような気がした。


「でも、なんでそんな勇者が悪事を行うんだ!?」

「悪事とは失礼な。手荒ではあるが、まともなことを私はしているつもりだ。理解しなかったのは、あの男だけだとね。」

「父さんがなんだっていうんだ?テロ行為に理解を示す者などいないぞ!」

「………あなたには伝えるべきかもしれませんね。この国と、かつての《大災厄》のことを。」

「大災厄?」


大災厄って……あのバッタの大量発生のことを言ってるのか?


「話を始める前に、改めて…」


身にまとっていた黒い布をバッと外し、中に着ている服が表に出た。

それは……タールランドの王族のものだった。

そして、頭に被っていた黒い布を外す。


「ま、まさかあんたは…」

「私の名前、通り名は、勇者カルメン。本名は、カルメン・タール。かつての王、ルークの兄です。」


信じられなかった。この男は、父に顔が瓜二つだった。

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