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第三章 冒険者ギルドの宿命 編
22 同志よ
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「頼む、頼むよ……“双腕”! 君の力が必要なんだ……!!」
物凄く失礼なことを言わせてもらおう。
こいつは本当に大国の皇帝なのか。目の前にいるこいつは、一部では劣等だと揶揄されるような仕事をする一般人に土下座をしている。兎に角、頭を上げていただかなければ。
「……頭をお上げください、皇帝陛下。何故私めのような者に頭を下げられるのですか。」
「すまん、いつもの癖でつい…。」
ノブルム帝は、頭をかく。再び、席に座りなおす。
「…陛下、何故私のような者に頼まれるのですか。陛下の周りには、沢山の優秀な家来の方がいらっしゃるでしょう。」
「兄ちゃん、さっき言っただろう。人々を主導すべき王族は一体何をしているんだ!……と。」
「いや、そのそれは……!」
ノブルム帝は、カップを握る力を強くする。
「たしかに、兄ちゃんの言う通りかもしれない。先帝亡き今、この国を引っ張っていき、帝国の民に安寧を約束するのは私の役目だ。だが、現実は違う。主導権を帝国議会に握られ、皇帝としての威厳もなく、帝国の民たちは皆不安になっている。結果だけで言えば、俺は……役立たずの人間なのかもしれない。」
「…………………。」
俺は、酒をグイっと飲み干す。口を拭い、皇帝に顔を向ける。
「……数日前、俺はある村で魔物退治をしていたんですがね…。」
店主に、水を頼む。やはり何も言わないまま、カップにゆっくり注いだ。
俺は、そこであったことをあるがままに語る。ノブルム帝は如何せず聞いていた。全てを語ると、皇帝は拳を強く強く握りしめる。
「そうか、騎士団はそんなことを……。」
「…………………。」
店主がカップを目の前に置く。無言のままでいるノブルム帝に目をやると、顔を俯け表情が見えなかった。……だが、色々な感情が渦巻き、ぐちゃぐちゃになっているのは分かった。
ガウル帝国皇帝として、帝国の民が皆幸せに暮らせるように努めたいと願う、ノブルム帝。だが、帝国騎士団はその思いとは裏腹に、人々を苦しめる行いをしている。皇帝の権力でどうこうできる問題ではないことは、誰にでも分かっている。だが、皇帝は責任を感じているのだ。それをフォローするわけでないが、もう一つの真実を告げる。
「でもね、陛下。その村人は、陛下のことを恨んでなんかいませんでしたよ。むしろ、感謝していたくらいです。」
「……なんだと?」
――あの時。
騎士団は、決められずにいる村人に、こう言った。
『……成程、国のために働く我らを蔑ろにするというわけだな。これでは、皇帝陛下の顔に泥を塗ることになる。貴様らがやっていることを改めて考え直した方が身のため……』
高尚な態度で迫る騎士。それに村長は、激怒した。
『あんた方が………陛下を語るんじゃあないっ!!』
その言葉に、騎士団皆驚愕する。騎士団に口答えをすることでさえ、この国では重大なことだ。時には罪に問われることもある。それを顧みることなく、村長は叫んだのだ。
『あんた方はな、皇帝陛下がどれだけ我らのことを考えていなさっているか、御存じないであろう。あの方はな、先帝の大きな威光による重圧を抱えながらも、自分を顧みずに、わしらに優しく接してくださる。その結果、帝都においては平民に媚びを売る愚帝などと揶揄されておるが、そんなことは決してない! そなたらは、何故皇帝陛下がそのような態度でおられるか、知らんだろう!』
『知るわけがないであろう!何故そんなことを……!』
『知るはずもなかろうて。陛下はな、わしらの目線に立つことで、国をより良くしていこうと考えておられるのだ。そなたたちのように、権力を振り回すことなくな!』
『……なんだと!? 貴様、口を慎め!』
『わしはな、初めてみたよ。何十年も生きてきて、困窮していることを謝罪するために、平民に頭を下げる君主を。威厳がないと言われることも、厭わずな。……わしはな、形は違えども、ノブルム陛下も素晴らしきお方だと思っている。だからこそ、お前たちのような人物に皇帝陛下を語ってほしくない。語る資格もないわ!!』
その言葉に、騎士団は怯む。団長は、チッと舌打ちした。
『……貴様、今日の言動がどのようなことになるか……覚えておけっ!!』
そして、騎士団を引き連れ去っていった。
「そうか、そうだったのか……。」
ノブルム帝の声は震えていた。顔は見えずとも、どんな表情をしているかは、伝わってきた。
一息つき、水を飲む。そして、続ける。
「それに、役立たずの人間なんてのは絶対にいない。もしかしたら、やっていることが空回りになっているのかもしれない。だけど、結果的には失敗していようとも、その思いは絶対に、誰かには伝わっているのだから……。」
『君のことを慕ってくれる人を見捨てるのか。』
俺に向けた、コンキスの言葉。村での出来事を改めて思い出し、言葉に表した今、その言葉の意味を改めて分かった気がした。他人事のようで、自分の事であったのだろう。
自分の思いを、重ね合わせる。
ノブルム帝は、決意した目で俺の方を向く。
「“双腕”。全てを理解した上で、改めてお願いしたい。どうか、俺を……いや、俺たちの国のために、どうかその力を貸してくれ。」
熱い意思の灯る目。国の事を考え、国民を思うその目は、正に威厳ある君主の目であった。
「……俺のやり方は、少し荒っぽいものになる。何せ、冒険者なもんでな。“無謀”に“挑戦”するには、それ相応の代償が必要となる。」
「分かっている。民が幸せに暮らせるならば、この帝位も返上するつもりだ。」
「そうか……。それと、もう一つ留意してもらいたいのだが……。」
「それも把握している。頼む相手がツィレンバルの民であろうと、俺は怯みはしない。」
「そうか……。」
思えば、この時から俺は、“立て直し”という言葉に縁があるのかもしれない。最も、今とは規模が違うが、な。
「まあ、その…なんだ。俺も一つ、願いを聞いてほしいんだが……。」
「ああ、冒険者の作る冒険者のための組織のことだな。それなら、俺だって無理な願いを聞いてもらうんだ。支援はお安い御用さ。」
「交渉成立、だな。」
ガシッと、手を組む。俺たちは互いに、微笑みあった。
「……それと、まあ別にいいんだが……敬語、どこいったの?」
「あっ、しまった! すま、申し訳ございません!!」
「ガッハッハ、良いんだ気にするな! 俺たちは同志だ。立場は違えど、俺は民を、“双腕”は冒険者を、より良くしたいという、な。」
「同志………か。」
俺は、組み交わした手を凝視する。…そして、握りしめる。
気を引き締めて、かかろう。
いつか、互いに公に笑いあえるように。
そして、慕う人々とも笑えるように。
◇
「というわけだ。ノブルム帝が熱意ある君主だとわかっただろう? だから、俺もその期待に応えようと、この二十年もの間、ずっと計画を練ってきた。だがな、この計画は場合によっては、俺たちが失職するきっかけにもなりえるかもしれない。そう思って、ずっとお前たちに伝えることができなかったんだ。」
下を向く。三人は、この事実についてどう思うだろう。戸惑っているだろう。ここで計画から降りても良い。
そう考えていたが……。
顔を上げる。俺の考えは間違っていた。ヤツらの顔には笑顔が灯っていた。
「何を仰っているんですか! 私たちは、支部長に助けられたんです………だから、気にせず、思う存分巻き込んでください!」
ミヨは、親指を立てる。
「僕も同じですよ。希望が見えないユンクレア支部に、再び光を灯してくれたのは、支部長です。それに、ずっと報いたかったんですよ。」
スバルは、ピースをする。
「僕のような冒険者が、今安定して生活できるのは、紛れもなく支部長のおかげです。僕たちでは力不足かもしれませんが、お手伝いさせてください!」
フラットは、内心怖さもあるのだろう。だが、それを見せることはしなかった。寧ろ、笑顔溢れていた。
三人の仲間たちの思いに、暖かさに、俺は包まれた。前にも言ったが、改めて言わせてもらおう。
「お前たちのような仲間を持てて、俺は幸せだよ。」
俺も、皆に笑顔を向ける。三人とも、三者三様の表現で、俺に思いを伝えてくれた。
今回は、その言葉に甘えさせてもらうことにしよう。
三人もまた、俺に笑顔を見せてくれた。
「それじゃあ、緊急ミーティングを始めよう。騎士団との対決に向けて、作戦を立てるとするか。」
「「「はいっ!!!!!」」」
今日、俺たち冒険者ギルドユンクレア支部は、無謀な挑戦状を叩きつけた。
◇
「ノブルム帝、あんたに俺の本名を明かそう。俺の名は……フーガ。フーガ・ラドカルトだ。」
「…そうか、そうだったのか。ラドカルト……お前が本名を隠す理由が良く分かったよ。」
何も言わず、ノブルム帝は、俺の肩を叩く。
同志との誓い、何があっても俺は守ろう。
コンキスの時と、同じように。
物凄く失礼なことを言わせてもらおう。
こいつは本当に大国の皇帝なのか。目の前にいるこいつは、一部では劣等だと揶揄されるような仕事をする一般人に土下座をしている。兎に角、頭を上げていただかなければ。
「……頭をお上げください、皇帝陛下。何故私めのような者に頭を下げられるのですか。」
「すまん、いつもの癖でつい…。」
ノブルム帝は、頭をかく。再び、席に座りなおす。
「…陛下、何故私のような者に頼まれるのですか。陛下の周りには、沢山の優秀な家来の方がいらっしゃるでしょう。」
「兄ちゃん、さっき言っただろう。人々を主導すべき王族は一体何をしているんだ!……と。」
「いや、そのそれは……!」
ノブルム帝は、カップを握る力を強くする。
「たしかに、兄ちゃんの言う通りかもしれない。先帝亡き今、この国を引っ張っていき、帝国の民に安寧を約束するのは私の役目だ。だが、現実は違う。主導権を帝国議会に握られ、皇帝としての威厳もなく、帝国の民たちは皆不安になっている。結果だけで言えば、俺は……役立たずの人間なのかもしれない。」
「…………………。」
俺は、酒をグイっと飲み干す。口を拭い、皇帝に顔を向ける。
「……数日前、俺はある村で魔物退治をしていたんですがね…。」
店主に、水を頼む。やはり何も言わないまま、カップにゆっくり注いだ。
俺は、そこであったことをあるがままに語る。ノブルム帝は如何せず聞いていた。全てを語ると、皇帝は拳を強く強く握りしめる。
「そうか、騎士団はそんなことを……。」
「…………………。」
店主がカップを目の前に置く。無言のままでいるノブルム帝に目をやると、顔を俯け表情が見えなかった。……だが、色々な感情が渦巻き、ぐちゃぐちゃになっているのは分かった。
ガウル帝国皇帝として、帝国の民が皆幸せに暮らせるように努めたいと願う、ノブルム帝。だが、帝国騎士団はその思いとは裏腹に、人々を苦しめる行いをしている。皇帝の権力でどうこうできる問題ではないことは、誰にでも分かっている。だが、皇帝は責任を感じているのだ。それをフォローするわけでないが、もう一つの真実を告げる。
「でもね、陛下。その村人は、陛下のことを恨んでなんかいませんでしたよ。むしろ、感謝していたくらいです。」
「……なんだと?」
――あの時。
騎士団は、決められずにいる村人に、こう言った。
『……成程、国のために働く我らを蔑ろにするというわけだな。これでは、皇帝陛下の顔に泥を塗ることになる。貴様らがやっていることを改めて考え直した方が身のため……』
高尚な態度で迫る騎士。それに村長は、激怒した。
『あんた方が………陛下を語るんじゃあないっ!!』
その言葉に、騎士団皆驚愕する。騎士団に口答えをすることでさえ、この国では重大なことだ。時には罪に問われることもある。それを顧みることなく、村長は叫んだのだ。
『あんた方はな、皇帝陛下がどれだけ我らのことを考えていなさっているか、御存じないであろう。あの方はな、先帝の大きな威光による重圧を抱えながらも、自分を顧みずに、わしらに優しく接してくださる。その結果、帝都においては平民に媚びを売る愚帝などと揶揄されておるが、そんなことは決してない! そなたらは、何故皇帝陛下がそのような態度でおられるか、知らんだろう!』
『知るわけがないであろう!何故そんなことを……!』
『知るはずもなかろうて。陛下はな、わしらの目線に立つことで、国をより良くしていこうと考えておられるのだ。そなたたちのように、権力を振り回すことなくな!』
『……なんだと!? 貴様、口を慎め!』
『わしはな、初めてみたよ。何十年も生きてきて、困窮していることを謝罪するために、平民に頭を下げる君主を。威厳がないと言われることも、厭わずな。……わしはな、形は違えども、ノブルム陛下も素晴らしきお方だと思っている。だからこそ、お前たちのような人物に皇帝陛下を語ってほしくない。語る資格もないわ!!』
その言葉に、騎士団は怯む。団長は、チッと舌打ちした。
『……貴様、今日の言動がどのようなことになるか……覚えておけっ!!』
そして、騎士団を引き連れ去っていった。
「そうか、そうだったのか……。」
ノブルム帝の声は震えていた。顔は見えずとも、どんな表情をしているかは、伝わってきた。
一息つき、水を飲む。そして、続ける。
「それに、役立たずの人間なんてのは絶対にいない。もしかしたら、やっていることが空回りになっているのかもしれない。だけど、結果的には失敗していようとも、その思いは絶対に、誰かには伝わっているのだから……。」
『君のことを慕ってくれる人を見捨てるのか。』
俺に向けた、コンキスの言葉。村での出来事を改めて思い出し、言葉に表した今、その言葉の意味を改めて分かった気がした。他人事のようで、自分の事であったのだろう。
自分の思いを、重ね合わせる。
ノブルム帝は、決意した目で俺の方を向く。
「“双腕”。全てを理解した上で、改めてお願いしたい。どうか、俺を……いや、俺たちの国のために、どうかその力を貸してくれ。」
熱い意思の灯る目。国の事を考え、国民を思うその目は、正に威厳ある君主の目であった。
「……俺のやり方は、少し荒っぽいものになる。何せ、冒険者なもんでな。“無謀”に“挑戦”するには、それ相応の代償が必要となる。」
「分かっている。民が幸せに暮らせるならば、この帝位も返上するつもりだ。」
「そうか……。それと、もう一つ留意してもらいたいのだが……。」
「それも把握している。頼む相手がツィレンバルの民であろうと、俺は怯みはしない。」
「そうか……。」
思えば、この時から俺は、“立て直し”という言葉に縁があるのかもしれない。最も、今とは規模が違うが、な。
「まあ、その…なんだ。俺も一つ、願いを聞いてほしいんだが……。」
「ああ、冒険者の作る冒険者のための組織のことだな。それなら、俺だって無理な願いを聞いてもらうんだ。支援はお安い御用さ。」
「交渉成立、だな。」
ガシッと、手を組む。俺たちは互いに、微笑みあった。
「……それと、まあ別にいいんだが……敬語、どこいったの?」
「あっ、しまった! すま、申し訳ございません!!」
「ガッハッハ、良いんだ気にするな! 俺たちは同志だ。立場は違えど、俺は民を、“双腕”は冒険者を、より良くしたいという、な。」
「同志………か。」
俺は、組み交わした手を凝視する。…そして、握りしめる。
気を引き締めて、かかろう。
いつか、互いに公に笑いあえるように。
そして、慕う人々とも笑えるように。
◇
「というわけだ。ノブルム帝が熱意ある君主だとわかっただろう? だから、俺もその期待に応えようと、この二十年もの間、ずっと計画を練ってきた。だがな、この計画は場合によっては、俺たちが失職するきっかけにもなりえるかもしれない。そう思って、ずっとお前たちに伝えることができなかったんだ。」
下を向く。三人は、この事実についてどう思うだろう。戸惑っているだろう。ここで計画から降りても良い。
そう考えていたが……。
顔を上げる。俺の考えは間違っていた。ヤツらの顔には笑顔が灯っていた。
「何を仰っているんですか! 私たちは、支部長に助けられたんです………だから、気にせず、思う存分巻き込んでください!」
ミヨは、親指を立てる。
「僕も同じですよ。希望が見えないユンクレア支部に、再び光を灯してくれたのは、支部長です。それに、ずっと報いたかったんですよ。」
スバルは、ピースをする。
「僕のような冒険者が、今安定して生活できるのは、紛れもなく支部長のおかげです。僕たちでは力不足かもしれませんが、お手伝いさせてください!」
フラットは、内心怖さもあるのだろう。だが、それを見せることはしなかった。寧ろ、笑顔溢れていた。
三人の仲間たちの思いに、暖かさに、俺は包まれた。前にも言ったが、改めて言わせてもらおう。
「お前たちのような仲間を持てて、俺は幸せだよ。」
俺も、皆に笑顔を向ける。三人とも、三者三様の表現で、俺に思いを伝えてくれた。
今回は、その言葉に甘えさせてもらうことにしよう。
三人もまた、俺に笑顔を見せてくれた。
「それじゃあ、緊急ミーティングを始めよう。騎士団との対決に向けて、作戦を立てるとするか。」
「「「はいっ!!!!!」」」
今日、俺たち冒険者ギルドユンクレア支部は、無謀な挑戦状を叩きつけた。
◇
「ノブルム帝、あんたに俺の本名を明かそう。俺の名は……フーガ。フーガ・ラドカルトだ。」
「…そうか、そうだったのか。ラドカルト……お前が本名を隠す理由が良く分かったよ。」
何も言わず、ノブルム帝は、俺の肩を叩く。
同志との誓い、何があっても俺は守ろう。
コンキスの時と、同じように。
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