51 / 64
第三章 冒険者ギルドの宿命 編
19 真相②
しおりを挟む
「ガウル帝国騎士団……? で、でもそれって…!」
「召喚紋を使い、かつて討伐した“迷宮溢れ”を再び召喚する。それは自滅を招くことに等しいだろうな。」
スバルが言いたいことは分かる。というよりも、帝国騎士団の持つ恨みを知らなければ、誰しもがそう思うだろう。
「だが、あえてヤツらはそれをやってのけた。…俺は以前、ガウル帝国が…いや、皇帝が冒険者への支援を決めたのは、“勢力維持”のためだと言った。それが持つ意味は何だろう。」
俺の言葉に、スバルはムムム…と頭に手を当て、ミヨは人差し指で何かシミュレーションをしながら、フラットは目をつぶってぶつぶつと呟いて考える。
すると、ミヨがハッと何かに気づいた顔をする。
「……もしかして、冒険者を倒すため…ですか?」
「ちょ、ちょっとミヨさん!? それはいくらなんでもないでしょう! 第一、何で騎士団が冒険者を狙う必要があるんですか!? 魔物を倒して、国を………守って…いる…のに…?」
ミヨもスバルも、どうやら真実に行き着いたようだ。顔から、血の気が引いていく。そのやり取りで察したフラットも、驚きの表情を浮かべる。
「し、支部長……ま、まさか………逆恨みじゃないですよね……?」
ふぅ…とため息をつく。
「そのまさかなんだよ……。」
「「「え………?」」」
それが、真実だからだ。
◇
「全く、レーグも相変わらずだなぁ……。」
クラムは、先刻レーグリッヒから託された紙を脇に抱え、アスタル王都マーゼの街道を歩いていた。
あ~あ、と呟き、周りに目をやる。いつもなら、クラムの歩く中央街道は露店で賑わい、沢山の人々が行き交う、正に多文化共生の象徴とも呼べる通りであるはずだった。しかし、その様子はまるで別物。人も疎らで、店も全然出ていない。特段天気が悪いわけでもない。おかしな光景だった。だが、全くもっていつもと違うわけでもなかった。武器を扱う商人は店を出しており、防具や魔道具を扱う者たちもまた同様である。これが意味するもの……それは、自明の理であった。
「号外、号外っ!! ルシアス区、エイル自治領にて、“迷宮溢れ”現れたりっ!!」
日刊アスタルという新聞社の記者らしき男が、そう叫び、号外紙を散らしながら街道を走り去っていく。その声につられて、家にいたのであろうマーゼの人々が外に出てきて、紙をとってまた帰っていった。その人々の表情は――憔悴。アスタル王国においても、比較的豊かな人々が暮らしているのが、ここマーゼ。その人々がやつれているのもまた、異常であった。号外紙を拾い上げ、その内容に目を通す。ちなみに、ルシアス区というのは、アスタル王国の西の外れにある。ガウル帝国の国境を有する、巨大な都市だ。かつてはモガート自治領と合わせて、ライデンという一つの主権国家であったのだが、何年か前に、アスタル王国と盟約を結び、二つの自治領に分割され、吸収された。その二つの自治領を合わせて、ルシアス区と呼んでいる。かつて国だった名残もあって、都市ルシアス区には有力な冒険者が集まっている。そこに“迷宮溢れ”が現れたらしいが、すぐに討伐されるだろう。
だが……。
「なんで……なんで、こんなに“迷宮溢れ”が現れるの…? 無事に…無事に帰ってきて…!」
「大丈夫よ、お母さん。お父さんはすぐに帰ってくるって……。」
建物の陰から、そんな会話がきこえてくる。
…王都マーゼの人々が豊かな理由。それは、彼らの家族が“冒険者”だからだ。アスタル王国は、主要産業が魔法迷宮ということもあって、沢山の冒険者が集っている。王都に住む人々が、そんな冒険者の家族になるのは必然。彼らがやつれてしまっているのは、こんなにも活気がないのは、“迷宮溢れ”によって彼らの家族の命が脅かされているからだろう。
…ガウル帝国騎士団の思い描く景色は、完成している。今頃、帝国から高みの見物でもしているのだろう。ヤツらが憎む冒険者が多く集まるこのアスタル王国を襲うことは、ヤツらの本望なのだから。
「はあ……。」
胸糞悪い。早くユンクレアに戻ろう。
「召喚紋を使い、かつて討伐した“迷宮溢れ”を再び召喚する。それは自滅を招くことに等しいだろうな。」
スバルが言いたいことは分かる。というよりも、帝国騎士団の持つ恨みを知らなければ、誰しもがそう思うだろう。
「だが、あえてヤツらはそれをやってのけた。…俺は以前、ガウル帝国が…いや、皇帝が冒険者への支援を決めたのは、“勢力維持”のためだと言った。それが持つ意味は何だろう。」
俺の言葉に、スバルはムムム…と頭に手を当て、ミヨは人差し指で何かシミュレーションをしながら、フラットは目をつぶってぶつぶつと呟いて考える。
すると、ミヨがハッと何かに気づいた顔をする。
「……もしかして、冒険者を倒すため…ですか?」
「ちょ、ちょっとミヨさん!? それはいくらなんでもないでしょう! 第一、何で騎士団が冒険者を狙う必要があるんですか!? 魔物を倒して、国を………守って…いる…のに…?」
ミヨもスバルも、どうやら真実に行き着いたようだ。顔から、血の気が引いていく。そのやり取りで察したフラットも、驚きの表情を浮かべる。
「し、支部長……ま、まさか………逆恨みじゃないですよね……?」
ふぅ…とため息をつく。
「そのまさかなんだよ……。」
「「「え………?」」」
それが、真実だからだ。
◇
「全く、レーグも相変わらずだなぁ……。」
クラムは、先刻レーグリッヒから託された紙を脇に抱え、アスタル王都マーゼの街道を歩いていた。
あ~あ、と呟き、周りに目をやる。いつもなら、クラムの歩く中央街道は露店で賑わい、沢山の人々が行き交う、正に多文化共生の象徴とも呼べる通りであるはずだった。しかし、その様子はまるで別物。人も疎らで、店も全然出ていない。特段天気が悪いわけでもない。おかしな光景だった。だが、全くもっていつもと違うわけでもなかった。武器を扱う商人は店を出しており、防具や魔道具を扱う者たちもまた同様である。これが意味するもの……それは、自明の理であった。
「号外、号外っ!! ルシアス区、エイル自治領にて、“迷宮溢れ”現れたりっ!!」
日刊アスタルという新聞社の記者らしき男が、そう叫び、号外紙を散らしながら街道を走り去っていく。その声につられて、家にいたのであろうマーゼの人々が外に出てきて、紙をとってまた帰っていった。その人々の表情は――憔悴。アスタル王国においても、比較的豊かな人々が暮らしているのが、ここマーゼ。その人々がやつれているのもまた、異常であった。号外紙を拾い上げ、その内容に目を通す。ちなみに、ルシアス区というのは、アスタル王国の西の外れにある。ガウル帝国の国境を有する、巨大な都市だ。かつてはモガート自治領と合わせて、ライデンという一つの主権国家であったのだが、何年か前に、アスタル王国と盟約を結び、二つの自治領に分割され、吸収された。その二つの自治領を合わせて、ルシアス区と呼んでいる。かつて国だった名残もあって、都市ルシアス区には有力な冒険者が集まっている。そこに“迷宮溢れ”が現れたらしいが、すぐに討伐されるだろう。
だが……。
「なんで……なんで、こんなに“迷宮溢れ”が現れるの…? 無事に…無事に帰ってきて…!」
「大丈夫よ、お母さん。お父さんはすぐに帰ってくるって……。」
建物の陰から、そんな会話がきこえてくる。
…王都マーゼの人々が豊かな理由。それは、彼らの家族が“冒険者”だからだ。アスタル王国は、主要産業が魔法迷宮ということもあって、沢山の冒険者が集っている。王都に住む人々が、そんな冒険者の家族になるのは必然。彼らがやつれてしまっているのは、こんなにも活気がないのは、“迷宮溢れ”によって彼らの家族の命が脅かされているからだろう。
…ガウル帝国騎士団の思い描く景色は、完成している。今頃、帝国から高みの見物でもしているのだろう。ヤツらが憎む冒険者が多く集まるこのアスタル王国を襲うことは、ヤツらの本望なのだから。
「はあ……。」
胸糞悪い。早くユンクレアに戻ろう。
0
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる