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第三章 冒険者ギルドの宿命 編

19 真相②

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「ガウル帝国騎士団……? で、でもそれって…!」
「召喚紋を使い、かつて討伐した“迷宮溢れ”を再び召喚する。それは自滅を招くことに等しいだろうな。」

スバルが言いたいことは分かる。というよりも、帝国騎士団の持つを知らなければ、誰しもがそう思うだろう。

「だが、あえてヤツらはそれをやってのけた。…俺は以前、ガウル帝国が…いや、皇帝が冒険者への支援を決めたのは、“勢力維持”のためだと言った。それが持つ意味は何だろう。」

俺の言葉に、スバルはムムム…と頭に手を当て、ミヨは人差し指で何かシミュレーションをしながら、フラットは目をつぶってぶつぶつと呟いて考える。
すると、ミヨがハッと何かに気づいた顔をする。

「……もしかして、冒険者を倒すため…ですか?」
「ちょ、ちょっとミヨさん!? それはいくらなんでもないでしょう! 第一、何で騎士団が冒険者を狙う必要があるんですか!? 魔物を倒して、国を………守って…いる…のに…?」

ミヨもスバルも、どうやら真実に行き着いたようだ。顔から、血の気が引いていく。そのやり取りで察したフラットも、驚きの表情を浮かべる。

「し、支部長……ま、まさか………逆恨みじゃないですよね……?」

ふぅ…とため息をつく。

「そのまさかなんだよ……。」
「「「え………?」」」

それが、真実だからだ。



「全く、レーグも相変わらずだなぁ……。」

クラムは、先刻レーグリッヒから託された紙を脇に抱え、アスタル王都マーゼの街道を歩いていた。
あ~あ、と呟き、周りに目をやる。いつもなら、クラムの歩く中央街道は露店で賑わい、沢山の人々が行き交う、正に多文化共生の象徴とも呼べる通りであるはずだった。しかし、その様子はまるで別物。人もまばらで、店も全然出ていない。特段天気が悪いわけでもない。おかしな光景だった。だが、全くもっていつもと違うわけでもなかった。武器を扱う商人は店を出しており、防具や魔道具を扱う者たちもまた同様である。これが意味するもの……それは、自明の理であった。

「号外、号外っ!! ルシアス区、エイル自治領にて、“迷宮溢れ”現れたりっ!!」

日刊アスタルという新聞社の記者らしき男が、そう叫び、号外紙を散らしながら街道を走り去っていく。その声につられて、家にいたのであろうマーゼの人々が外に出てきて、紙をとってまた帰っていった。その人々の表情は――憔悴。アスタル王国においても、比較的豊かな人々が暮らしているのが、ここマーゼ。その人々がやつれているのもまた、異常であった。号外紙を拾い上げ、その内容に目を通す。ちなみに、ルシアス区というのは、アスタル王国の西の外れにある。ガウル帝国の国境を有する、巨大な都市だ。かつてはモガート自治領と合わせて、ライデンという一つの主権国家であったのだが、何年か前に、アスタル王国と盟約を結び、二つの自治領に分割され、吸収された。その二つの自治領を合わせて、ルシアス区と呼んでいる。かつて国だった名残もあって、都市ルシアス区には有力な冒険者が集まっている。そこに“迷宮溢れ”が現れたらしいが、すぐに討伐されるだろう。
だが……。

「なんで……なんで、こんなに“迷宮溢れ”が現れるの…? 無事に…無事に帰ってきて…!」
「大丈夫よ、お母さん。お父さんはすぐに帰ってくるって……。」

建物の陰から、そんな会話がきこえてくる。
…王都マーゼの人々が豊かな理由。それは、彼らの家族が“冒険者”だからだ。アスタル王国は、主要産業が魔法迷宮ダンジョンということもあって、沢山の冒険者が集っている。王都に住む人々が、そんな冒険者の家族になるのは必然。彼らがやつれてしまっているのは、こんなにも活気がないのは、“迷宮溢れ”によって彼らの家族の命が脅かされているからだろう。
…ガウル帝国騎士団の思い描く景色は、完成している。今頃、帝国から高みの見物でもしているのだろう。ヤツらが憎む冒険者が多く集まるこのアスタル王国を襲うことは、ヤツらの本望なのだから。

「はあ……。」

胸糞悪い。早くユンクレアに戻ろう。
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