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4章

60話 私は伯爵令嬢でした

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 夢を見た。セルナと、お父様と、お母様と、屋敷の人達と、ライアーが笑い合っていた。
険悪な空気なんてどこにも無かった。温かい、平和そのものといえる家庭があった。
そこには私もいた。お父様とお母様は私のことも愛してくれていた。セルナと同じように、私の事もたくさん可愛がってくれていた。

 そんな、信じられないくらい優しくて幸せな夢。
この夢が現実であればどれほど良かったのだろうか。
この夢が現実では無い夢だという事を、私は知っていた。分かっていた。
私に向けて笑いかけてくれるお父様達を見た瞬間に「あぁ、これは夢なんだ」と理解した。
信じられないくらい優しくて幸せな夢だった。
信じられないくらい残酷で悲しい夢だった。

 だって私にはもう──ううん。最初から、あの輪に入る資格なんて無いのだから。
あったかもしれない可能性とかじゃなくて、ありえない可能性を見ても感じるのはくらいだった。

 私には何も無い。だけど、何も無かったからこそ私は何でも手に入れられる。
何かを得ることが出来る。そう考える事にした。
冤罪で処刑されてしまったから。
大丈夫。私は独りじゃない。ライアーが傍にいてくれる。
だから頑張れる。生きていられる。

 さぁ、そろそろ目を覚まさないと。
きっとライアーが待ってくれているから。
またライアーと一緒にやりたい事をやって自由に生きていく為に。

起きなさいセレスティア…いや──リリィ。

「……ん…ふぁ…ここ、どこだろう…?」

 ゆっくりと瞼を開くと、目の前には木目の天井があった。
壁の窓から差し込む明るい光から、今が朝だということは分かった。
しかし、場所は分からずじまい。天井以外に視界に映るものといえば、花瓶に飾られたお花や壁にかけられた黒い燕尾服くらいだった。

「よっ……と…!う、体が痛い…筋肉痛かな」

 腕に力を込めて上半身を起こす。
その際に体の節々が痛むのを感じた。あの怪物の一件で私は何かをした訳でもないのに、筋肉痛になるのはおかしい話だと思うけど。
自分が眠っていたベッドに座り込んで、私はぼーっと周りを見つめる。
そこで気づいたのだが、ここは私とライアーが宿として借りていた一室だった。
だから、壁にライアーの燕尾服がかけられているのだろう。

「ライアー、どこに行っちゃったんだろう…」

 しかし部屋にはライアーの姿は見当たらない。
だから少し不安になってしまった。ライアーはどこなんだろうって、気になって無意識のうちにそう言葉を吐露してしまっていた。
前までなら不安に襲われてしまっていただろう。だけど、今はどうしてか大丈夫だった。

 ライアーは一緒にいてくれるって言っていた。そう約束してくれた。
ライアーが約束を破るはずが無い。だから、だから安心できるんだ。
もうあんな風に不安に押し潰される事無くいられるのだ。
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