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3章

54話 戦いましょう

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「ふざけるのも程々にしてください、名も知らない方」
「いやお前のせいだからな?ていうかさっきリリィが言ってたから俺の名前知ってるだろ」

 口を開けばすぐにいがみ合い言い争いをする。
リリィはその様子を眺めては微笑ましそうに瞳を細めていた。

(………こんな状況なのに変なの。何でか分からないけど、凄く…見ていてほっとする…こんな子供っぽいライアー……今まで見たこと無かったからかな)

 そもそもとして、ダンジョンに封印された古の怪物たる巨人兵マンアゴーレムが地上に這い出て暴れているこの状況で、この3人は一体何をしているんだという話だ。
 3人共──特に、雨によってすぐに傷が癒えてしまうライアーとディルレッドは忘れがちだが、ここは巨人兵マンアゴーレムが暴れる最前線だ。

 つい先程まで地獄のような痛みに襲われていたにも関わらず、その傷がまるで無かった事のように癒えてしまったため、無意識下で忘れてしまっているらしい。
その傷の原因たる怪物の存在を。

「それはともかく──お嬢様、これからどうなされますか?」

 1人叫ぶディルレッドを無視し、ライアーはリリィにそう伺った。
それはこの状況をどう打破するのかという問だった。

「えっと……どうするって、うん、あのモンスターの事…だよね。そりゃ倒したい…けど……ライアーでも倒せないモンスターを本当に倒せるのかな…」

 リリィは考えた。巨人兵マンアゴーレムを倒せる可能性があるのかと。
そして考えた結果、自身より遥かに強いライアーが足止めしか出来なかったモンスターを倒せるわけが無いという結論に至ったのだ。

「…お嬢様。その事なのですが……」

 不安に落ち込むリリィに向けて、ライアーが後込しながら言う。

「確かに僕はあのモンスターをは出来ません…ですが、なら……出来るかもしれません」
「どう、いうこと…?」
「倒すことは出来なくても殺すことなら…ね……ややこしい事言うな、お前」

 ライアーの発言にリリィとディルレッドは頭を悩ませる。
それを受けてライアーが話を続ける。

「倒すのはとても難しいですが…殺すだけなら。…きっと、僕にも出来ます」
「つまり、アイツを倒す算段は無いけど殺す算段ならあるって事か?」
「…まぁ…はい。その通りです」
「俺が答えたからってそんな不服そうな顔するなよ。結構分かりやすいなお前…」

 倒すことよりも殺す事の方が簡単だとライアーは言った。
リリィよりも先にディルレッドが返事をしたため、少しばかり機嫌を損ねてしまったが。

「ですのでお嬢様、今一度僕に任せては頂けないでしょうか?今度こそ必ずやあのモンスターを地獄に落としてみせます」

 気を取り直したライアーは、片膝をつき胸元に手を当ててリリィを見上げる。
その光景は、久方振りに見た『お嬢様と執事』らしいものだった。

「……それって危険じゃないの?ライアーが危険な目にあうのなら、やって欲しくない」
「大丈夫ですよ。あれを止めようなどとしていたから、先程は深手を負いましたが…次はそうはいきませんよ」
「本当に、本当に大丈夫なの?ライアー1人に任せていいの?」
「お嬢様の最高の執事たる僕を、信じて頂けませんか?」
「…わかった。信じるね。絶対、絶対に危険な事はしないでね」
「はい。お嬢様の仰せのままに」

 
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