54 / 73
3章
47話 衝突しました
しおりを挟む
そしてその男は叫んだ。無数の傷のある顔を真っ青にして。
本気で怒っているような声で…いや、間違いなく怒っているのだろう。
御身を思って傍を離れる決意をし、心を鬼にして強引に置いていったはずのお嬢様が、リリィが、よりにもよってこんな所に現れたのだから。
その男の──ライアーの怒りは正当なものである。
しかし、リリィは何も答えなかった。ただただその虚ろな瞳から涙を溢れさせたのだ。
そしてそんな様子のリリィを見たライアーは、どうしようもないその怒りの矛先を、自分の主人を抱えている見知らぬ男へと向けた。
「……貴方ですか?お嬢様を、このような場所へ連れてきたのは…!!」
ディルレッドに向け怒りをあらわにして、蛇のような竜のような鋭い瞳孔で睨んでいた。
「そうだけど。じゃあ、お前がライアーだな?」
その剣幕に怯むことなく、ディルレッドは答えた。
静かに泣いているリリィの事をゆっくりと降ろし、その肩に手を回して支えながらライアーへと問い返す。
「…っ、僕の質問に答えてください!どうして、お嬢様をこの場にお連れしたのですか?それに……お嬢様の様子だって…!!」
「ここに来たのはお前に用があったからだよ。リリィの様子に関しては…俺が聞きたいくらいだ。急におかしくなったからな」
柄にもなく怒りや焦りを見せるライアーと一転して、ディルレッドは恐ろしいくらい落ち着いていた。
その視線は、今もなお自分の腕の中で涙を流し続けるリリィに落とされていた。
(さて…これでこの男がどう出るか。ていうかこいつ……真面目に美形じゃね?しかも明らかに人間じゃない…リリィが何回も名前呼んでたってのもなんか腹立つな)
(この人が何を考えているのか分からない上にお嬢様を人質とされる可能性がある以上、下手に手は出せない…だがこの人は嘘をついている様子がない……一体どうするべきか…)
互いに相手に対する情報がほとんど無いため、ほとんど予想だけのものになるのは致し方無い。
しかしこの2人…見事に謎の心理戦を始めたかのように見えたが、その実全く心理戦などしていなかった。
確かにライアーは心理戦をしているのだが、ディルレッドは全くしていなかった。
しかけてはいたのだけれど、その思考は途中からただの妬みへと変わってしまった。
「………とにかく、お嬢様をこちらに引き渡していただけますか?大事なお嬢様を見知らぬ人間に任せるわけにはいきませんので」
冷静になるために大きく深呼吸をし、ライアーはディルレッドに向き直った。
どんな理由があるかまだ分からないが、今1番優先すべき事はリリィだということはライアーにとって当然の事だった。
何があろうと変わらない、普遍的な決まり。
お嬢様至上主義。それがライアーの信念…に近しいものだったからだ。
なればこそ、ライアーは何よりもまずリリィの奪還を目論んだ。
それが今最も行うべき言動だと気づいたから。
本気で怒っているような声で…いや、間違いなく怒っているのだろう。
御身を思って傍を離れる決意をし、心を鬼にして強引に置いていったはずのお嬢様が、リリィが、よりにもよってこんな所に現れたのだから。
その男の──ライアーの怒りは正当なものである。
しかし、リリィは何も答えなかった。ただただその虚ろな瞳から涙を溢れさせたのだ。
そしてそんな様子のリリィを見たライアーは、どうしようもないその怒りの矛先を、自分の主人を抱えている見知らぬ男へと向けた。
「……貴方ですか?お嬢様を、このような場所へ連れてきたのは…!!」
ディルレッドに向け怒りをあらわにして、蛇のような竜のような鋭い瞳孔で睨んでいた。
「そうだけど。じゃあ、お前がライアーだな?」
その剣幕に怯むことなく、ディルレッドは答えた。
静かに泣いているリリィの事をゆっくりと降ろし、その肩に手を回して支えながらライアーへと問い返す。
「…っ、僕の質問に答えてください!どうして、お嬢様をこの場にお連れしたのですか?それに……お嬢様の様子だって…!!」
「ここに来たのはお前に用があったからだよ。リリィの様子に関しては…俺が聞きたいくらいだ。急におかしくなったからな」
柄にもなく怒りや焦りを見せるライアーと一転して、ディルレッドは恐ろしいくらい落ち着いていた。
その視線は、今もなお自分の腕の中で涙を流し続けるリリィに落とされていた。
(さて…これでこの男がどう出るか。ていうかこいつ……真面目に美形じゃね?しかも明らかに人間じゃない…リリィが何回も名前呼んでたってのもなんか腹立つな)
(この人が何を考えているのか分からない上にお嬢様を人質とされる可能性がある以上、下手に手は出せない…だがこの人は嘘をついている様子がない……一体どうするべきか…)
互いに相手に対する情報がほとんど無いため、ほとんど予想だけのものになるのは致し方無い。
しかしこの2人…見事に謎の心理戦を始めたかのように見えたが、その実全く心理戦などしていなかった。
確かにライアーは心理戦をしているのだが、ディルレッドは全くしていなかった。
しかけてはいたのだけれど、その思考は途中からただの妬みへと変わってしまった。
「………とにかく、お嬢様をこちらに引き渡していただけますか?大事なお嬢様を見知らぬ人間に任せるわけにはいきませんので」
冷静になるために大きく深呼吸をし、ライアーはディルレッドに向き直った。
どんな理由があるかまだ分からないが、今1番優先すべき事はリリィだということはライアーにとって当然の事だった。
何があろうと変わらない、普遍的な決まり。
お嬢様至上主義。それがライアーの信念…に近しいものだったからだ。
なればこそ、ライアーは何よりもまずリリィの奪還を目論んだ。
それが今最も行うべき言動だと気づいたから。
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
中途半端な私が異世界へ
波間柏
恋愛
全てが中途半端な 木ノ下 楓(19)
そんな彼女は最近、目覚める前に「助けて」と声がきこえる。
課題のせいでの寝不足か、上手くいかない就活にとうとう病んだか。いやいや、もっと不味かった。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
続編もあるので後ほど。
読んで頂けたら嬉しいです。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。
蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。
此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。
召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。
だって俺、一応女だもの。
勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので…
ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの?
って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!!
ついでに、恋愛フラグも要りません!!!
性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。
──────────
突発的に書きたくなって書いた産物。
会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。
他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。
4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。
4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。
4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。
21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!
【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。
巻き戻り聖女はもう王子様の夢を見ない
雪菊
恋愛
ある日、聖女として召し上げられたマーガレットは、自国の第二王子と恋に落ちてしまった。
そんな彼女は魔女の汚名を着て、処刑され、その瞬間に子供時代の自分に戻っていた。
自分さえ居なくなれば恋した人は無事で居られると、国を出る選択をしたマーガレットと、何もかもを擲ってもたった一人を愛した王子。
──二人の道は再び交わるのか。
バッドエンドから始まるハッピーエンドを手繰り寄せる物語。
※緩い感じで読んでください。
※週に一〜二回の更新を予定しています。
※なろうで出したものの連載版になります。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。
二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる