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3章

39話 体調は悪いままです

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「ぁ……」

 しかし脚や手に思ったように力が入らず、起き上がって直ぐにディルレッドの方へとふらっと倒れ込む。

「急に立ち上がろうとしてどうしたんだ?大丈夫か?」

 それをディルレッドは優しく受け止めた。
目の前の酷い顔をした少女の奇行を訝しむ様子もなく、ディルレッドはその倒れ込んできた体を支えた。
心配そうに顔を覗き込むが、その顔には一向に光がさす気配は無かった。
むしろ、時間が経てば経つほど悪くなっていくその顔色に、ディルレッドは不審感を覚えた。

「大丈夫…です……から、離してください」

 リリィはディルレッドから離れようと両腕に力を入れて小刻みに震わせる。
しかしやはりその体に力は残ってなく、どれだけディルレッドから離れようと努力しても、その努力は全て無いに等しく。

「離すのはいいけどさ、今手離したらあんた倒れそうだろ?だからせめて俺の事を支えとして使ってくれるなら離すけど」

 ディルレッドの言う通りだった。
たしかに今この状態で手を離されてしまえば、リリィの体は間違いなく地面に沈みこんでしまう。
それはリリィ本人がよく分かっている。

(せめて…治癒魔法が自分に使えたら……今すぐにでも、離れられたのに)

 聖天雨ホーリーレイン同様、治癒魔法というものは基本的に不便なことに自分自身に使えないのだ。
光属性の魔法というだけでも珍しいのに、その中でも治癒魔法が使える者はとても希少で、だいたい王宮に囲われて宮廷魔導師となりそれはもう大事にされる。
あらゆる障害から守らなければならない存在。それが治癒魔法を使える者だった。

 なぜなら、その魔導師は他人を癒すことは出来ても自分自身を癒すことは出来ないから。
どんな傷どんな病でも癒す事ができるとされる治癒魔法の最大の代償は──やはりそのデメリットに尽きる。
どれだけ人々を癒す力を持とうと、自分自身が傷つき死に果ててしまえばそれで終わりなのだから。
治すすべを知っているというのに、いかに苦しかろうとそれを自分にだけは使えないという絶望感は、その魔導師にしか理解出来ないものだ。

 そして…リリィがまさに今その状況におかれている。
ディルレッドから離れないといけないと直感的に理解していても、体が全く言う事をきかない。
治癒魔法が使えるのに、自然回復でしか体調の復帰を見込めないというのは、どれほどもどかしい事なのか。
我々には計り知れない事だ。

「…わかり、ました。腕を、お借りしても良いですか?」

 今の自分ではディルレッドから離れる事は不可能だと判断したらしく、リリィはそう小さく問いかけた。
それにディルレッドは満足そうに笑顔を作って快諾する。

「あぁ、どうぞお使いくださいまし。貴女のような美しい女性に手をかけてもらえるのならこれ以上無いくらいの誉れだ」
「ずいぶんと……調子のいいことを、おっしゃるんですね…」

 大口で茶化し始めるディルレッドに、リリィは呆れたように言った。
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