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3章
37話 俺の名前は──。
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その視線の先には、距離があるにも関わらず大きく見える謎の怪物がいた。
そして冒険者達の説明を聞かずとも、おおよその事態を予測した。
(これは──本当にまずいやつだな)
本能で何となくそう察したらしい男は、どうしたものかと人集りの中を進んで行った。
その中で男はある人間にぶつかりそうになってしまった。
咄嗟に慌てて避けて、大事には至らなかったと確認する。
「あっぶな…なんでこんな所に人が座ってる…ん──」
そして、何故かこの場にてしゃがみ込んでいた人間を見下ろす。
男に気づいてゆっくりと顔を上げた人間と目が合う。
その瞬間、男の体は雷に打たれたような衝撃に見舞われた。
その顔には見覚えがあった気がしたから。
何なら、自分が10年近く探していた、過去のあの少女がそのまま成長したような姿だったから。
あの果実のような赤毛では無いし、服装も何だか質素なものになっている。
もちろん過去に見たあの少女と違う所は沢山あった。
だけど。男はどうしてもこの女性と記憶の奥底の少女を結び付けずにはいられなかった。
「だ…ぁ──あんた、まさか……?!」
男は夢だ信じられないと言わんばかりに目を丸くした。
髪や服を雨に濡らして、赤く晴れてしまった瞳が目立つその綺麗な顔。
その顔をもっと間近で見ようと男は膝を曲げる。
そして、何かを確信したかのように詰め寄った。
「あんたに…いや、貴女に一つ聞きたい事があるんだ。貴女は──セレスティア・アルセリアであっているか?」
その言葉に、既に精神や神経をすり減らしていたセレスティア──もといリリィは、驚いて力無く首を横に振る事しか出来なかった。
脳が働かない。心が苦しい。息がしづらい。疲れた。何もかも疲れてしまった。寂しい。悲しい。すごく、すごく辛い。
リリィはライアーに置いて行かれたショックで、そういったネガティブなモノに飲み込まれてしまっていたのだ。
「…ちがいます……私は、私は…もう、セレスティアじゃ、ありません」
今にも泣き出しそうな顔で、震える手と手を握り合わせながらぽつりぽつりと言葉を落としていく。
この状況下において、リリィの頭はあまり機能していなかった。
だからだろう、彼女が馬鹿正直にもうと答えてしまったのは。
その返事を聞いた男はふと笑いをこぼした。
しかしその顔は笑いに染まっているというよりかは、安堵や喜びに染まっていると形容した方が正しい。
「もう、ね……そうか。セレスティアじゃないのか。じゃあ改めて貴女の名前をお聞きしても?」
雨避けなどを用意せずにしゃがんで低い位置に目線を合わせ、近い距離で会話する。
見知らぬ男にそう言われて戸惑うリリィを見て、男は間を置いて口を開いた。
「あー…いやすまん。淑女に名前を聞く時はまず自分からってのが普通だったな。そういうわけだから、改めて」
膝を曲げるだけにしていた足を片方地面に着けて、まるでおとぎ話の王子様のように。まるでライアーのような執事のように男が自己紹介をする。
「俺の名前は── ディルレッド。見ての通り元騎士だ。気軽にディルって呼んでくれ」
端正で整った顔で素晴らしい笑顔を作り出す。
腰に携えた剣の柄に手をかけて言う。
そして冒険者達の説明を聞かずとも、おおよその事態を予測した。
(これは──本当にまずいやつだな)
本能で何となくそう察したらしい男は、どうしたものかと人集りの中を進んで行った。
その中で男はある人間にぶつかりそうになってしまった。
咄嗟に慌てて避けて、大事には至らなかったと確認する。
「あっぶな…なんでこんな所に人が座ってる…ん──」
そして、何故かこの場にてしゃがみ込んでいた人間を見下ろす。
男に気づいてゆっくりと顔を上げた人間と目が合う。
その瞬間、男の体は雷に打たれたような衝撃に見舞われた。
その顔には見覚えがあった気がしたから。
何なら、自分が10年近く探していた、過去のあの少女がそのまま成長したような姿だったから。
あの果実のような赤毛では無いし、服装も何だか質素なものになっている。
もちろん過去に見たあの少女と違う所は沢山あった。
だけど。男はどうしてもこの女性と記憶の奥底の少女を結び付けずにはいられなかった。
「だ…ぁ──あんた、まさか……?!」
男は夢だ信じられないと言わんばかりに目を丸くした。
髪や服を雨に濡らして、赤く晴れてしまった瞳が目立つその綺麗な顔。
その顔をもっと間近で見ようと男は膝を曲げる。
そして、何かを確信したかのように詰め寄った。
「あんたに…いや、貴女に一つ聞きたい事があるんだ。貴女は──セレスティア・アルセリアであっているか?」
その言葉に、既に精神や神経をすり減らしていたセレスティア──もといリリィは、驚いて力無く首を横に振る事しか出来なかった。
脳が働かない。心が苦しい。息がしづらい。疲れた。何もかも疲れてしまった。寂しい。悲しい。すごく、すごく辛い。
リリィはライアーに置いて行かれたショックで、そういったネガティブなモノに飲み込まれてしまっていたのだ。
「…ちがいます……私は、私は…もう、セレスティアじゃ、ありません」
今にも泣き出しそうな顔で、震える手と手を握り合わせながらぽつりぽつりと言葉を落としていく。
この状況下において、リリィの頭はあまり機能していなかった。
だからだろう、彼女が馬鹿正直にもうと答えてしまったのは。
その返事を聞いた男はふと笑いをこぼした。
しかしその顔は笑いに染まっているというよりかは、安堵や喜びに染まっていると形容した方が正しい。
「もう、ね……そうか。セレスティアじゃないのか。じゃあ改めて貴女の名前をお聞きしても?」
雨避けなどを用意せずにしゃがんで低い位置に目線を合わせ、近い距離で会話する。
見知らぬ男にそう言われて戸惑うリリィを見て、男は間を置いて口を開いた。
「あー…いやすまん。淑女に名前を聞く時はまず自分からってのが普通だったな。そういうわけだから、改めて」
膝を曲げるだけにしていた足を片方地面に着けて、まるでおとぎ話の王子様のように。まるでライアーのような執事のように男が自己紹介をする。
「俺の名前は── ディルレッド。見ての通り元騎士だ。気軽にディルって呼んでくれ」
端正で整った顔で素晴らしい笑顔を作り出す。
腰に携えた剣の柄に手をかけて言う。
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