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3章
34話 またの名を絶望という
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巨人兵。その名前は私も聞いたことがあった。
過去の大戦や神話を面白おかしく記した物語や、叙事詩など……様々なものを読んできたけれど、その中にそれは度々出てきた。
神々によって造られた戦争の兵器。
しかし、その敵味方問わず握り潰すという思いもよらぬ凶悪性に手を焼いた神々が、地上に捨てたという最強の兵士。
それを、数100年前の人間達が命懸けでダンジョンに封印したという。
そんなモンスターが、どういうわけか今ここに。地上に現れた。
自らを封印しているはずのダンジョンを突き破って這い上がって来た。
直感的に理解した。さっきの地響きは──この怪物が地上へと這い上がるための、今一度地上に産まれる際の産声だったのだ。
断裂から這い出て、その怪物はついに地上へとその巨大な両脚を置いた。
そして空を仰ぎ見る。その空虚のようでありながら仄暗い炎が宿る瞳は、どこか宙を見つめていて。
「──ゥ、ァアアアアアアアアアッ」
巨人兵が大きく口を開けて叫び声を上げる。
その叫び声は、最早ただの声ではなく咆哮と呼ぶに相応しいものだった。
形を持たないそれは、まるで質量を持っているかのように私達に襲いかかる。
「~~っ?!!」
「くっ…!!」
また耳が張り裂けそうになる。耳を貫通して、その叫び声は頭蓋にまで響いてくる。
そのあまりの痛みに、正気を保つ事さえ難しくなってきた。
ライアーが庇ってくれているにも関わらずこれなのだから、きっとライアーがいなければ私はもうとっくに死んでいた。
そして当のライアーはというと、私を横向きに抱えているせいで両手が塞がってしまっている。
だから、きっと私よりもずっとつらい目に遭っているはずだ。
翼を動かして滞空していたライアーが、咆哮をその全身に受けてバランスを崩してしまう。
当然だが…飛ぶことの出来ない私は、ライアーから離れて落ちそうになる。
ビリビリと体の奥底まで響くそれに体の自由を奪われながら私は思う。
──これは、紛れもない絶望だと。
身をもって体感した。理解してしまったのだ。
「ぅ……あ…痛い…ライアー、大丈夫…?」
ひとしきり叫び声が消えた所で、私はまともに発音出来ているかも分からない声でライアーへと声を投げかけた。
何せ、耳が痛くて痛くて仕方がない。まだずっとさっきの影響で耳鳴りが止まず、ろくに周りの音が聞こえなくなってしまっているのだから。
それに視界を広げる程の余裕も無く、うっすらとぼやける視界に見えるのは、項垂れるように下を向くライアーの横顔で。
その頬や首には耳から伝った赤い跡のようなものも見えた気がした。
私を抱えたまま滞空を続ける彼からは、先程までの安定や余裕が消えてしまっていて。
それなのに、ふらふらと滞空しながらも私を抱える手はより一層強くなっていた。
「……大丈夫です。お嬢様…聞こえます、まだ、お嬢様の声が聞こえますから…僕は、大丈夫です」
耳鳴りの中、ほんの少しだけそう聞こえた気がした。
もう一度頑張って視界を広げると、ライアーの横顔にはさっきまでは無かった微笑があった。
過去の大戦や神話を面白おかしく記した物語や、叙事詩など……様々なものを読んできたけれど、その中にそれは度々出てきた。
神々によって造られた戦争の兵器。
しかし、その敵味方問わず握り潰すという思いもよらぬ凶悪性に手を焼いた神々が、地上に捨てたという最強の兵士。
それを、数100年前の人間達が命懸けでダンジョンに封印したという。
そんなモンスターが、どういうわけか今ここに。地上に現れた。
自らを封印しているはずのダンジョンを突き破って這い上がって来た。
直感的に理解した。さっきの地響きは──この怪物が地上へと這い上がるための、今一度地上に産まれる際の産声だったのだ。
断裂から這い出て、その怪物はついに地上へとその巨大な両脚を置いた。
そして空を仰ぎ見る。その空虚のようでありながら仄暗い炎が宿る瞳は、どこか宙を見つめていて。
「──ゥ、ァアアアアアアアアアッ」
巨人兵が大きく口を開けて叫び声を上げる。
その叫び声は、最早ただの声ではなく咆哮と呼ぶに相応しいものだった。
形を持たないそれは、まるで質量を持っているかのように私達に襲いかかる。
「~~っ?!!」
「くっ…!!」
また耳が張り裂けそうになる。耳を貫通して、その叫び声は頭蓋にまで響いてくる。
そのあまりの痛みに、正気を保つ事さえ難しくなってきた。
ライアーが庇ってくれているにも関わらずこれなのだから、きっとライアーがいなければ私はもうとっくに死んでいた。
そして当のライアーはというと、私を横向きに抱えているせいで両手が塞がってしまっている。
だから、きっと私よりもずっとつらい目に遭っているはずだ。
翼を動かして滞空していたライアーが、咆哮をその全身に受けてバランスを崩してしまう。
当然だが…飛ぶことの出来ない私は、ライアーから離れて落ちそうになる。
ビリビリと体の奥底まで響くそれに体の自由を奪われながら私は思う。
──これは、紛れもない絶望だと。
身をもって体感した。理解してしまったのだ。
「ぅ……あ…痛い…ライアー、大丈夫…?」
ひとしきり叫び声が消えた所で、私はまともに発音出来ているかも分からない声でライアーへと声を投げかけた。
何せ、耳が痛くて痛くて仕方がない。まだずっとさっきの影響で耳鳴りが止まず、ろくに周りの音が聞こえなくなってしまっているのだから。
それに視界を広げる程の余裕も無く、うっすらとぼやける視界に見えるのは、項垂れるように下を向くライアーの横顔で。
その頬や首には耳から伝った赤い跡のようなものも見えた気がした。
私を抱えたまま滞空を続ける彼からは、先程までの安定や余裕が消えてしまっていて。
それなのに、ふらふらと滞空しながらも私を抱える手はより一層強くなっていた。
「……大丈夫です。お嬢様…聞こえます、まだ、お嬢様の声が聞こえますから…僕は、大丈夫です」
耳鳴りの中、ほんの少しだけそう聞こえた気がした。
もう一度頑張って視界を広げると、ライアーの横顔にはさっきまでは無かった微笑があった。
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