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3章

20話 王都にて。セルナフィア視点

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 お姉様が死んでしまった。冤罪で処刑されてしまった。
わたしのお姉様が。たった1人の大切なお姉様が。

「………待っててください、お姉様。お姉様を死なせたこの世界を壊してから…わたしも、お姉様の元に逝きますから」

 実行犯である第三王子を殺すのは後にしよう。
下手に王族に手を出せば事態がややこしくなってしまうから。

「それにしても…人が多いですわ。市街というものは、馬車でなければこれ程までに通行の難しい所でしたの……?」

 人の波に押されながらも懸命に前へ前へと足を進める。
目深く頭から被ったマントを、人混みに持っていかれないよう押さえる。

 あの人達が大慌てで辺境の男爵領へ逃げようとした時にこっそりと家を抜け出して来たから、どこにいてもわたしの姿を見られるわけにはいかなかった。

 だからこれを被ることにした。路銀にしようかと適当に家から持ってきた焦げ茶色のマントだったけど、意外と役に立っている。

「ねぇ、悪魔さん。あなたは結局わたしに何をくれたの?」

 ようやく人混みを抜けることが出来て、人があまりいない小さな噴水広場のような場所に出た。
そこで一息つこうと噴水の縁に腰をかける。

 そしてわたしの中に突然現れたに問いかける。

『ん?簡単なものだ。お前はどうやら元々魔法を扱う素質はあったみたいだからな。半永久的に尽きない魔力と悪魔の力…それらが、われがお前に与えたものさ』

 カッカッカッと気持ちよさそうな高笑いを上げながら、悪魔さんが語る。

『お前のその憎悪はとても美味だ。こうしてお前の精神世界に根を張り棲みついてみたが……かなり歪んだ感情を持ち合わせているようでな、中々に心地よい』

 悪魔さんの声はわたしにしか聞こえないらしい。
何せ彼はわたしの精神世界とやらに巣食った悪性の腫瘍のようなものだから。

 地響きのように脳内に鳴り響く悪魔の声。
それはただの言語とて全てが悪魔の囁き…甘言となってしまう。

『いくら力を抑制しているとはいえ、この我の声を聞いてまともな思考を保てている方が凄いのだがな』

 どうしてわたしは耐えられるのか分からないけれど、無事なら無事でそれで構わない。
わたしがわたしでいられるのならそれで。

『して我が眷属よ。この後はどうする?お前の姉の首を刎ねた男はまだ殺さぬのだろう?お前はこれよりどのようにして復讐の炎で世界を侵すのだ』
 
 表情は分からないけど、声だけでも分かる。
悪魔は笑っている。わたしの憎悪を、恨みの行く末を想像して嗤っている。

「……とにかく、わたしはこれから辺境へと向かいます」
『せっかく親元を抜け出したのにか?』
「えぇ。あれらはお姉様を苦しめた粗悪ですから。この世にあってはなりません」
『だからわざわざ殺しに行ってやるのか。存外優しいのだな、お前は』
「身内の存在が世界にとって不要物のようなものですから」
『ふはっ、もうなどと思ってはいないくせによく言うよな』

 淡々と会話を繰り返す。
その中でわたしはおもむろに立ち上がり、その場を後にする。

 辺境へと行くには時間も金も食糧も必要だ。
幸い金は屋敷から持ち出してきたものがまだかなりあるけれど、食糧は無い。
この金を使ってどこかで調達する必要がある。

 この近くの大通りには飲食店や食材を扱う店が多くあるみたいだから、そこでどうにかいい具合に情報と食糧を手に入れたい。
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