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2章
19話 王都にて。第3王子の願い
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大罪人、セレスティア・アルセリアが公開処刑をされてから数日。
王都では未だにその関連の話題で持ち切りだった。
国家に仇なした令嬢がいたという事により、伯爵家そのものに国家反逆罪の嫌疑がかかり、アルセリア伯爵家は爵位を剥奪される。
アルセリア家の人間は王都を追われ、血縁にあたる辺境の男爵家に身を寄せたという。
そして。その一連の出来事を主導していたのは──第3王子、エルリデュース・サンディライトカ。
幼少期よりあまり表舞台に姿を表さなかった、末弟の王子殿下。
数年前に突如社交界に現れてから、その絵に書いたようなクソ野郎っぷりで周囲からの評判は最悪だった。
今回の出来事も、一部ではあのクソ王子の趣味の悪い娯楽だろうと言う意見もあった。
しかし、その割には証拠が揃いすぎていた。
それが事実だと誰もが認めざるを得ない程に、その暗殺未遂に関する証拠が多く発見されたのだ。
その事に怒りを起こした第3王子による、独断での公開処刑…という事になっている。
「以上が一連の件に対する市井の反応にございます。王子殿下」
ペラペラと紙を捲る音が部屋に響く。
資料として提出されたそれに視線を落としながら、王子──エルリデュースは小さく息を吐いた。
「特に怪しむ様子は無し、か…証拠や書類の用意をお前にやらせて正解だったよ。ハルドフ」
「お褒めに預かり光栄です」
エルリデュースより賜ったその評価の言葉に、ハルドフと呼ばれた文官のような風体をした糸目の男は頭を垂れる。
「それで。検死の結果はどうだった」
「そちらに関しては…やはり王子殿下の予想通りでした。断頭された令嬢の死体も、牢獄にて首を吊った執事の死体も──どちらも魔力で作られた偽物でした」
気を張っていたエルリデュースの顔が少し綻び、そこに安堵が浮かび始める。
「……これで、あの女は自由になれただろうか。オレは…上手くやれただろうか」
どこか願い縋るように、複雑な表情を以て呟く。
遠い過去に見た、1人の少女の微笑みを胸に抱えてはそれを押し込むようにして胸を掴む。
「およそ2年近くの間、お疲れ様でした王子殿下。それはもう素晴らしい嫌われ者の演技でしたよ。見事大多数の人間に嫌われる事に成功しましたね!」
ハルドフが嬉嬉として語る。
確実に面白がっているような口調だった。
呆れたような表情を浮かべて、エルリデュースは言葉を発する。
「その微妙に気に触る喋り方はやめろ。しかし……オレ達の予想通りに、あの執事はあの女を逃がす事ができる力を持っていたな。賭けはオレ達の勝利という訳だ」
「そうですね…強引に投獄したり兵を配置しなかったりしましたが、それら全てがあなた様の難のある人格によるものと思われていたでしょうから。なるべく自然に彼女達を自由に出来ましたし、彼の執事の実力様々ですね」
ハルドフが服の裾で口元を隠しながら笑窪を作る。
彼らのその話は、まるで最初からセレスティア・アルセリアを処刑するつもりが無かったかのように聞こえる。
「長らく時間を掛けて準備した甲斐があったな……もうアイツが、我慢して無理やり笑わなくても良くなるよな」
「きっとなるでしょう」
「あの酷い両親に苦しめられる事もなくなるよな」
「元伯爵と伯爵夫人は辺境へと赴いたそうです。逃げ出した彼女達が遭遇しない限り問題ないでしょう」
「そう、だよな……」
エルリデュースの瞳から一雫の涙が溢れ出す。
「──お疲れ様です、王子殿下」
彼は、幼い頃に出会った1人の少女を思い続けた。
自分と同じひとりぼっちの少女。彼女の顔が忘れられなくて、自分の分まで彼女の自由を願った。
それが叶うように何年も努力した。
たとえ罵られようとも。たとえ嫌われようとも。
彼は──たった1人の少女ために、嫌われ者を演じ続けたのだ。
王都では未だにその関連の話題で持ち切りだった。
国家に仇なした令嬢がいたという事により、伯爵家そのものに国家反逆罪の嫌疑がかかり、アルセリア伯爵家は爵位を剥奪される。
アルセリア家の人間は王都を追われ、血縁にあたる辺境の男爵家に身を寄せたという。
そして。その一連の出来事を主導していたのは──第3王子、エルリデュース・サンディライトカ。
幼少期よりあまり表舞台に姿を表さなかった、末弟の王子殿下。
数年前に突如社交界に現れてから、その絵に書いたようなクソ野郎っぷりで周囲からの評判は最悪だった。
今回の出来事も、一部ではあのクソ王子の趣味の悪い娯楽だろうと言う意見もあった。
しかし、その割には証拠が揃いすぎていた。
それが事実だと誰もが認めざるを得ない程に、その暗殺未遂に関する証拠が多く発見されたのだ。
その事に怒りを起こした第3王子による、独断での公開処刑…という事になっている。
「以上が一連の件に対する市井の反応にございます。王子殿下」
ペラペラと紙を捲る音が部屋に響く。
資料として提出されたそれに視線を落としながら、王子──エルリデュースは小さく息を吐いた。
「特に怪しむ様子は無し、か…証拠や書類の用意をお前にやらせて正解だったよ。ハルドフ」
「お褒めに預かり光栄です」
エルリデュースより賜ったその評価の言葉に、ハルドフと呼ばれた文官のような風体をした糸目の男は頭を垂れる。
「それで。検死の結果はどうだった」
「そちらに関しては…やはり王子殿下の予想通りでした。断頭された令嬢の死体も、牢獄にて首を吊った執事の死体も──どちらも魔力で作られた偽物でした」
気を張っていたエルリデュースの顔が少し綻び、そこに安堵が浮かび始める。
「……これで、あの女は自由になれただろうか。オレは…上手くやれただろうか」
どこか願い縋るように、複雑な表情を以て呟く。
遠い過去に見た、1人の少女の微笑みを胸に抱えてはそれを押し込むようにして胸を掴む。
「およそ2年近くの間、お疲れ様でした王子殿下。それはもう素晴らしい嫌われ者の演技でしたよ。見事大多数の人間に嫌われる事に成功しましたね!」
ハルドフが嬉嬉として語る。
確実に面白がっているような口調だった。
呆れたような表情を浮かべて、エルリデュースは言葉を発する。
「その微妙に気に触る喋り方はやめろ。しかし……オレ達の予想通りに、あの執事はあの女を逃がす事ができる力を持っていたな。賭けはオレ達の勝利という訳だ」
「そうですね…強引に投獄したり兵を配置しなかったりしましたが、それら全てがあなた様の難のある人格によるものと思われていたでしょうから。なるべく自然に彼女達を自由に出来ましたし、彼の執事の実力様々ですね」
ハルドフが服の裾で口元を隠しながら笑窪を作る。
彼らのその話は、まるで最初からセレスティア・アルセリアを処刑するつもりが無かったかのように聞こえる。
「長らく時間を掛けて準備した甲斐があったな……もうアイツが、我慢して無理やり笑わなくても良くなるよな」
「きっとなるでしょう」
「あの酷い両親に苦しめられる事もなくなるよな」
「元伯爵と伯爵夫人は辺境へと赴いたそうです。逃げ出した彼女達が遭遇しない限り問題ないでしょう」
「そう、だよな……」
エルリデュースの瞳から一雫の涙が溢れ出す。
「──お疲れ様です、王子殿下」
彼は、幼い頃に出会った1人の少女を思い続けた。
自分と同じひとりぼっちの少女。彼女の顔が忘れられなくて、自分の分まで彼女の自由を願った。
それが叶うように何年も努力した。
たとえ罵られようとも。たとえ嫌われようとも。
彼は──たった1人の少女ために、嫌われ者を演じ続けたのだ。
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