上 下
21 / 73
2章

18話 取得試験受験者、リリィ続き

しおりを挟む
「まぁたまにある事だが…しくったな……これじゃあろくに魔法使えないは…ず………」

 試験官の顔が赤橙色に照らされる。そこには驚愕が色濃く浮かんでいた。
それは、宙に君臨した巨大な爆炎の球体によるものだった。
その真下には魔法陣を維持する事に注力する少女が1人。

 彼女は落ちこぼれであろうとした。
しかし彼女には、その努力を嗤うかのような強大な魔力とそれを操る技術があった。

 だが今は違う。もう落ちこぼれである必要は無くなった。
彼女は──常識と自重を知らなかった。
更に、過度に勘違いを重ねてしまっていた。
 物語のような冒険者に憧れて、冒険者が全てそうだと思い込む彼女は、最初からを出してしまった。

 それは爆心地を無理やり炎の檻で閉じ込めたかのような火属性の
多大な魔力と引替えに、街一つ滅ぼす程の火力を地に降らす災厄の魔法。
 そうとは知らずに、彼女は使ってしまったのだ。人々にを押し付けるその魔法を。

「『煉獄の果てに朽ち果てよ!炎──』」

 その巨大な球体を試験官へと向け振らせようとする。
彼女に悪気は無い。悪意だって無い。ただ純粋に、盛大に、異常に空回りしてしまっているだけなのだから。

 それが試験官に降り注ぐ直前、その魔法は一瞬にして気化してしまった。
身動きひとつ取れず呆然と立ち尽くす試験官の前に佇むは、黒い燕尾服を身に纏うで。

「──お嬢様、流石にこれはやりすぎですよ」

 あれほどの質量と魔力を持った魔法を、一体どうやって刹那のうちに消滅させたのか。
しかし執事にとってはそんなもの些細な事だった。

 突如ライアーは試験を無視してリリィへとお小言を並べ始めた。
魔力配分がおかしいだの規模がおかしいだの…言ってることが全て自分の体を気にしての事だから、リリィは尚更それを聞き流せないようで。

 その後もしばらく、ライアーは説教を続けていた。変わらず立ち尽くす2人のギルド関係者を放置して。

「……なん、だったんですか…今の…」
「あんなの戦場ぐらいでしか見たことねぇぞ………しかもあの嬢ちゃん、あんだけの魔法を杖無しでやりやがった」
「嘘でしょ…!?」
「あの男もヤバかったが…嬢ちゃんも中々にやべぇな」

 受付の女性と試験官は、つい先程眼前に現れた絶望とそれを使う少女へと知らぬ間に恐怖を抱いていた。


 リリィは冒険者へと過剰な憧れを抱いていた。そんな物語に出てくるような冒険者えいゆうが、冒険者ゆうしゃが、実在するはずがないのに。

 しかし、今この時。リリィは図らずともその勇者のような事を成してしまった。
実在するはずのない、物語の冒険者のように。
彼女はその強力すぎる力を以て、華々しく冒険者になれたのだった。


 そしてこの日は、後に巷で噂となる3人組冒険者パーティの創設者2人が冒険者となった──始まりの日なのである。










しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

王妃 ジョア~日本人水島朔が王妃と呼ばれるまでの物語 ~

ぺんぎん
恋愛
 彼を、絞め殺そうと思う。というか、今だったら絞め殺せる。  わたしは、広場の中央にいる国王をにらみつけた。  彼が国王だって?そんなの誰にも聞いていない。    早くに両親を亡くした水島朔は、病気がちな弟、満と、叔母の家で暮らしていた。  ある日、育ててくれた叔母が亡くなり、姉弟が離れ離れに暮らすことになってしまう。  必要なのは保護者と仕事と住むところ。  努力と美貌と背の高さ。使えるものは全部使って、必死で働いていたら、ヨーロッパの小国の王妃になることになりました。  日本人 水島朔が王妃と呼ばれるまでの物語です。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。 此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。 召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。 だって俺、一応女だもの。 勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので… ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの? って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!! ついでに、恋愛フラグも要りません!!! 性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。 ────────── 突発的に書きたくなって書いた産物。 会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。 他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。 4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。 4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。 4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました! 4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。 21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。

和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)

処理中です...