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2章
10話 港町に着きました
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「お嬢様、冒険者ギルドにも向かうのであればそろそろ出立致しましょうか」
そう言われて、いそいそと荷台に乗る私に手を差し出してくる。
相変わらずの完璧なエスコートを受ける。
おかげさまで私は難なく荷台に乗ることができた。
それに私の体を気遣ってくれたのか、荷台にはいつの間にか、荷物の無い場所に所狭しとクッションが敷き詰められていた。
ふかふかのクッションに腰を下ろす。
それを確認したライアーの声に従って馬車が動き始める。
しかし休憩前ほどの振動はほとんど感じず、体も全然痛くならない快適な移動が実現してしまった。
その後も、ライアーと他愛のない会話をしながらのんびりと旅路をゆく。
日が沈んで空が暗く染まった頃、私達は港町レーリャに到着した。
そこには関門があって、関門の兵士にライアーが呼び止められる。
「そこの馬車、止まりなさい。こちらへは何をしに?」
私も話が少し気になって、垂れ幕の隙間から外の様子を窺う。
そこには、どこか真剣な面持ちの兵士が2人いて。
「冒険者ギルドに行き、冒険者になろうと思いまして…何かあったのですか?」
ライアーのその問いかけに、兵士は「あぁ、それはだな…」と神妙な面持ちで話し始めた。
「実は近頃この町で、法で禁止されているはずの奴隷の売買が行われていてな…ここしばらくは出入りする人間などを徹底して調べている。そのため、あなた方にも協力願いたい」
奴隷の売買……そもそも人身売買と奴隷の契約・保持が法で禁止されているこの国で、そんなことが行われていたなんて。
しかし、そんな重要な事を私達のような一般人に話してもいいものなのかしら。
そう思ったのは私だけでは無かったらしい。
ライアーもまた、その点には疑問が生じたらしく、更に話を聞いていた。
「そのような機密情報を、私のような何処の馬の骨とも知れぬ輩に話してしまってもよろしいのですか?」
「こうしてこの町にくる全ての人間にこれを話すことで、ある種の牽制になるのでな。注意喚起にもなる。よって、我々門番はこれを話すようにしているのだ」
「なるほど、そういうことでしたか」
ライアーが納得すると同時に、私もなるほど。と感心する。
「話は戻るが、念の為に積荷を確認しても良いだろうか?」
「積荷は私がお仕えするお嬢様と、お嬢様の衣類ぐらいですが…構いませんか、お嬢様?」
荷台を検査したいという兵士達の声は私にも聞こえていた。
彼らもずっと仕事を頑張っているんだろう。
こんな所で手間取らせる訳には行かない。
「別にいいわよ」
と簡潔に返事する。
すると、兵士達が垂れ幕を押し上げて中へと入ってくる。
「それでは失礼する……ぅえ、あ、その…怪しいものは無さそうだな!!」
声が若そうな兵士の方が、荷台に入ってきたかと思えばすぐさま出て行ってしまった。
あからさまに焦っている声と喋り方をしながら。
「どうしたのかしら、あの人……」
「お嬢様のあまりのお美しさに正気を失ってしまったのでは?」
「それだと私のせいじゃないの。どうしましょう、お詫びには何を…」
「ふふ。冗談ですよ、お嬢様」
「……もう。びっくりしたじゃない。でも…私が綺麗なんてはず無いから、そこで気づくべきだったわ」
馬車を検閲する兵士たちを待っている間、私とライアーは何の変哲もない与太話をしていた。
「……特に怪しい項目はなし。ようこそ、レーリャの町へ。辛いことや危険ばかりだろうが…冒険者の道、どうか励んで欲しい」
それから少しして。検問が終わったら、年配らき声の兵士にそう激励されると、関門が解放される。
それをくぐってついに町へと足を踏み入れる。
人の喧騒がいい具合に響き、潮の香りが鼻をくすぐる。
そんな夜にこそ栄える港町が──そこにはあった。
そう言われて、いそいそと荷台に乗る私に手を差し出してくる。
相変わらずの完璧なエスコートを受ける。
おかげさまで私は難なく荷台に乗ることができた。
それに私の体を気遣ってくれたのか、荷台にはいつの間にか、荷物の無い場所に所狭しとクッションが敷き詰められていた。
ふかふかのクッションに腰を下ろす。
それを確認したライアーの声に従って馬車が動き始める。
しかし休憩前ほどの振動はほとんど感じず、体も全然痛くならない快適な移動が実現してしまった。
その後も、ライアーと他愛のない会話をしながらのんびりと旅路をゆく。
日が沈んで空が暗く染まった頃、私達は港町レーリャに到着した。
そこには関門があって、関門の兵士にライアーが呼び止められる。
「そこの馬車、止まりなさい。こちらへは何をしに?」
私も話が少し気になって、垂れ幕の隙間から外の様子を窺う。
そこには、どこか真剣な面持ちの兵士が2人いて。
「冒険者ギルドに行き、冒険者になろうと思いまして…何かあったのですか?」
ライアーのその問いかけに、兵士は「あぁ、それはだな…」と神妙な面持ちで話し始めた。
「実は近頃この町で、法で禁止されているはずの奴隷の売買が行われていてな…ここしばらくは出入りする人間などを徹底して調べている。そのため、あなた方にも協力願いたい」
奴隷の売買……そもそも人身売買と奴隷の契約・保持が法で禁止されているこの国で、そんなことが行われていたなんて。
しかし、そんな重要な事を私達のような一般人に話してもいいものなのかしら。
そう思ったのは私だけでは無かったらしい。
ライアーもまた、その点には疑問が生じたらしく、更に話を聞いていた。
「そのような機密情報を、私のような何処の馬の骨とも知れぬ輩に話してしまってもよろしいのですか?」
「こうしてこの町にくる全ての人間にこれを話すことで、ある種の牽制になるのでな。注意喚起にもなる。よって、我々門番はこれを話すようにしているのだ」
「なるほど、そういうことでしたか」
ライアーが納得すると同時に、私もなるほど。と感心する。
「話は戻るが、念の為に積荷を確認しても良いだろうか?」
「積荷は私がお仕えするお嬢様と、お嬢様の衣類ぐらいですが…構いませんか、お嬢様?」
荷台を検査したいという兵士達の声は私にも聞こえていた。
彼らもずっと仕事を頑張っているんだろう。
こんな所で手間取らせる訳には行かない。
「別にいいわよ」
と簡潔に返事する。
すると、兵士達が垂れ幕を押し上げて中へと入ってくる。
「それでは失礼する……ぅえ、あ、その…怪しいものは無さそうだな!!」
声が若そうな兵士の方が、荷台に入ってきたかと思えばすぐさま出て行ってしまった。
あからさまに焦っている声と喋り方をしながら。
「どうしたのかしら、あの人……」
「お嬢様のあまりのお美しさに正気を失ってしまったのでは?」
「それだと私のせいじゃないの。どうしましょう、お詫びには何を…」
「ふふ。冗談ですよ、お嬢様」
「……もう。びっくりしたじゃない。でも…私が綺麗なんてはず無いから、そこで気づくべきだったわ」
馬車を検閲する兵士たちを待っている間、私とライアーは何の変哲もない与太話をしていた。
「……特に怪しい項目はなし。ようこそ、レーリャの町へ。辛いことや危険ばかりだろうが…冒険者の道、どうか励んで欲しい」
それから少しして。検問が終わったら、年配らき声の兵士にそう激励されると、関門が解放される。
それをくぐってついに町へと足を踏み入れる。
人の喧騒がいい具合に響き、潮の香りが鼻をくすぐる。
そんな夜にこそ栄える港町が──そこにはあった。
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