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小話 セルナフィア・アルセリア視点続き
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わたしの欲しいものはなんでもあげると豪語しているのに、お父様たちはそれだけは絶対にくれなかった。
あまつさえ、その代わりにとどんどんお姉様から色々なものを搾取していった。
わたしが与えられていたものの半分以上が、きっとお姉様に与えられるべきだったもので。
お姉様の笑顔や、幸せはわたしが奪っていた。本当はお姉様のものだったのに。
そんな大事な事に気づくまで時間がかかりすぎました。
わたしがお父様に何を言おうと、お姉様の笑顔はもう取り戻せない。
遅すぎたんだ。
ならせめて…せめて、お姉様がこれ以上お父様たちに苦しめられないように、わたしがお姉様を守れるくらいになろうと決めた。
頭の悪いわたしには、もうそれしか思いつかなかった。それしか出来ないと思ったのです。
それからは、できる限りお姉様に近づかないようにした。
本当はたくさんお話したかったけれど、わたしが身勝手にお姉様に会いにいくと、怒られるのはお姉様だから。
わたしのせいでお姉様が怒られるのはもう嫌なんです。
独学でいっぱい勉強しました。
苦手だからとこれまで避けてきた、統治学や経営学や魔法学や薬学の勉強もたくさんした。
頭がパンクしそうになりながらもいっぱい勉強して、体が燃えてしまいそうなくらい魔法の練習もした。
少しでもお姉様を守れるようになりたい。
お姉様の笑顔が見たい。お姉様の笑顔を守りたい。
私をつき動かしていたのは、ただそれだけだった。
そうやって日々を過ごしていた。
しかしある日、最悪の事件が起きた。
──セレスティア・アルセリアが第3王子を暗殺しようとして、処刑される事になった。
そんな話がわたしの耳にも入った。
手に持っていた本はすべて地面へと突撃し、わたし自身も脳天を撃ち抜かれたぐらいの衝撃を受けた。
お姉様が、第3王子暗殺未遂で…処刑?
そんなハズがない、ありえない。嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
あの優しいお姉様が人を殺すはずがないのに、そもそも面識のない王子を殺すなんてありえない。
冤罪だ。そんなもの、まったくのデタラメだ!
「そんな、はずは………だって、お姉様がそんなこと…………」
頭が真っ白になる。視界はぐらぐら歪み初めて、まともな思考を保てなくなった。
そんなわたしを見て、周りの人間は同情してきた。
何も知らないくせに、知ったような口を聞いてきた。
怒りと苦しさに全身が苛まれる。
期待していないけれど、もしかしたらお父様たちが何とかしてくれるかもしれない。
そんな風に考えながら馬車を走らせ、急いで家に帰ったけど意味は無かった。
お父様たちはアルセリアの信用が地に落ちただとか、面倒な女の始末ができてよかったとか、まるで親とは思えないことばかり口にしていた。
失望したと言うのが正しいのだろう。
わたしは、心からお父様たち──いや、あの人達のことを軽蔑した。
そんな人達の事は置いておいて、わたしはもう一度馬車を走らせた。
お姉様が処刑されてしまうというその大広場へと向かった。
そこには噂を聞いて面白半分で見物しに来た輩が大勢いた。
何も知らないくせにお姉様を大罪人と罵る輩が大勢いた。
罵詈雑言が飛び交う群衆の声が突如歓声へと変わった。
お姉様を冤罪で処刑へと追いやった第3王子が演説を始めたらしい。
そして衛兵たちによって1人の女性が連れてこられる。
赤い長髪を揺らしながら断頭台へと登る、大好きなあのひとの姿。
声が出なくなった。心臓が爆発しそうな程うるさい。
このままだと、お姉様が処刑される。死んでしまう。
その恐怖のあまり体が言うことを聞かない。
こんな時にどうして!?
このままだと、お姉様が──。
耳に響くぐらい、更なる歓声が沸き起こる。
目の前にあるその光景に、わたしは絶望した。
何かを失った気がした。わたしの心には完全に穴が空いてしまった。
それと同時に、その穴を取り繕うように何かが湧き上がる。
──憎い。お姉様を死なせたすべてが。
そして、わたしは死神と出会ってしまった。
『良き憎悪を持つ人間よ。貴様に、それを成就する為の力を与えてやろう』
大好きなお姉様を死なせたこの世界を、わたしは許せない。
だから、わたしは──。
あまつさえ、その代わりにとどんどんお姉様から色々なものを搾取していった。
わたしが与えられていたものの半分以上が、きっとお姉様に与えられるべきだったもので。
お姉様の笑顔や、幸せはわたしが奪っていた。本当はお姉様のものだったのに。
そんな大事な事に気づくまで時間がかかりすぎました。
わたしがお父様に何を言おうと、お姉様の笑顔はもう取り戻せない。
遅すぎたんだ。
ならせめて…せめて、お姉様がこれ以上お父様たちに苦しめられないように、わたしがお姉様を守れるくらいになろうと決めた。
頭の悪いわたしには、もうそれしか思いつかなかった。それしか出来ないと思ったのです。
それからは、できる限りお姉様に近づかないようにした。
本当はたくさんお話したかったけれど、わたしが身勝手にお姉様に会いにいくと、怒られるのはお姉様だから。
わたしのせいでお姉様が怒られるのはもう嫌なんです。
独学でいっぱい勉強しました。
苦手だからとこれまで避けてきた、統治学や経営学や魔法学や薬学の勉強もたくさんした。
頭がパンクしそうになりながらもいっぱい勉強して、体が燃えてしまいそうなくらい魔法の練習もした。
少しでもお姉様を守れるようになりたい。
お姉様の笑顔が見たい。お姉様の笑顔を守りたい。
私をつき動かしていたのは、ただそれだけだった。
そうやって日々を過ごしていた。
しかしある日、最悪の事件が起きた。
──セレスティア・アルセリアが第3王子を暗殺しようとして、処刑される事になった。
そんな話がわたしの耳にも入った。
手に持っていた本はすべて地面へと突撃し、わたし自身も脳天を撃ち抜かれたぐらいの衝撃を受けた。
お姉様が、第3王子暗殺未遂で…処刑?
そんなハズがない、ありえない。嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
あの優しいお姉様が人を殺すはずがないのに、そもそも面識のない王子を殺すなんてありえない。
冤罪だ。そんなもの、まったくのデタラメだ!
「そんな、はずは………だって、お姉様がそんなこと…………」
頭が真っ白になる。視界はぐらぐら歪み初めて、まともな思考を保てなくなった。
そんなわたしを見て、周りの人間は同情してきた。
何も知らないくせに、知ったような口を聞いてきた。
怒りと苦しさに全身が苛まれる。
期待していないけれど、もしかしたらお父様たちが何とかしてくれるかもしれない。
そんな風に考えながら馬車を走らせ、急いで家に帰ったけど意味は無かった。
お父様たちはアルセリアの信用が地に落ちただとか、面倒な女の始末ができてよかったとか、まるで親とは思えないことばかり口にしていた。
失望したと言うのが正しいのだろう。
わたしは、心からお父様たち──いや、あの人達のことを軽蔑した。
そんな人達の事は置いておいて、わたしはもう一度馬車を走らせた。
お姉様が処刑されてしまうというその大広場へと向かった。
そこには噂を聞いて面白半分で見物しに来た輩が大勢いた。
何も知らないくせにお姉様を大罪人と罵る輩が大勢いた。
罵詈雑言が飛び交う群衆の声が突如歓声へと変わった。
お姉様を冤罪で処刑へと追いやった第3王子が演説を始めたらしい。
そして衛兵たちによって1人の女性が連れてこられる。
赤い長髪を揺らしながら断頭台へと登る、大好きなあのひとの姿。
声が出なくなった。心臓が爆発しそうな程うるさい。
このままだと、お姉様が処刑される。死んでしまう。
その恐怖のあまり体が言うことを聞かない。
こんな時にどうして!?
このままだと、お姉様が──。
耳に響くぐらい、更なる歓声が沸き起こる。
目の前にあるその光景に、わたしは絶望した。
何かを失った気がした。わたしの心には完全に穴が空いてしまった。
それと同時に、その穴を取り繕うように何かが湧き上がる。
──憎い。お姉様を死なせたすべてが。
そして、わたしは死神と出会ってしまった。
『良き憎悪を持つ人間よ。貴様に、それを成就する為の力を与えてやろう』
大好きなお姉様を死なせたこの世界を、わたしは許せない。
だから、わたしは──。
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