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3話 セレスティアは死にました

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 耳を劈くほどの無知な民衆達による歓声。
目の前に見えるは冤罪であるにも関わらず処刑された、アルセリア伯爵家が令嬢セレスティア・アルセリア。
  まるで無機質な人形のように転がる朱色のその頭を見て、薄墨のローブを目深く羽織る1人の名もなき少女は呟いた。

「……上手くいったみたいね、
「はい。作戦通りです、

 それに答えるのは同じくローブを羽織る丁寧な口調の青年。
少女は眼前に転がる自分と瓜二つの死体に一瞥をくれては、その場を後にした。

 しばらく歩いて大広場を離れると、人通りのない裏路地へと入っていき2人はローブを外した。
すると、ローブによって隠されていた素顔がよく見えて。

「たとえ人形とはいえ…自分と同じ顔をしたものが首を撥ねられる所を見ることになるなんて、今までの人生で思いもしなかったわ」

 そう、この少女はつい今しがた公開処刑されたはずの伯爵令嬢──セレスティア・アルセリアとまったく同じ顔をしていた。
正確には、セレスティア・アルセリアその人だった。

 どうして処刑されたはずの彼女が今もなおこうして生きているのか。
時は数刻前に遡る。





 何か妙案を思いついたらしいライアーが、万が一にでも聞かれぬよう、小声で話し始めた。

「よろしいですか、お嬢様。数刻後に執り行われる処刑にて、確かにセレスティア・アルセリア様には死んでいただきます」

 さっきまで私が死ぬことを何としてでも避けようとしていたライアーから、そんな提案をされるとは思わなかった。

「それだと私は普通に死ぬと思うのだけれど……」
「もちろんお嬢様を死なせるつもりはありません。僕に考えがあるのですが…」

 どうにも自信ありげに言うものだから、私は彼の話に神経を集中させた。

「お嬢様の身代わりを用意するのです。お嬢様と全く同じく見た目をしたものを。その身代わりに様として処刑されていただきます」

ふむふむ、と首を縦に振る。

「その間にはここより逃げ出して、身代わりの処刑が終わった後この街からも逃げ出しましょう。どこか遠くの街でセレスティア様では無い別の人間となって生きていくのです」

 少し理解するまで時間がかかってしまったけれど、要するに、私が死んだ事にしてその実私自身はどこかにご隠居…みたいな感じでいいのかしら?

「もちろん僕もお供させていただきます。お嬢様が不便な思いをされないよう、誠心誠意尽くさせていただきます。ですのでどうか…どうか、この進言を一考してもらえませんか?」

 ライアーが懇願するようにその場で膝をつき頭を下げる。
そんな彼がしてくれた話を思い出す。その提案は、正直私にとって得しかなかった。

 私には自由が無かった。
とても可愛い妹の引き立て役になるために、地味で不出来な人間として生きて、お家の道具としてお家の命に従い続けてきた。
妹の事は、馬鹿だけど素直で可愛い妹だとこれでも愛していた。

 べつにそれでもよかった。お家のために何か出来るなら。
でも、欲を言えば。私は──自由が欲しかった。
やりたい時にやりたい時事をして、好き勝手に自由に生きてみたかった。

 だからこそ、ライアーの提案は願っても無い話だった。
私にも、自由に生きることができるのなら──私は自由になりたい。
どうせなら、来世ではなく今世で。この人生で自由に生きてみたい。

「………そうすれば、私は…自由になれる?」
「はい。お嬢様がお望みだとおっしゃるのなら、僕はどんな手を使ってでもお嬢様の自由を手に入れてみせます」

 その意志のこもった言葉を聞くと、私の未来を任せてみようと思えた。

「それじゃあ…ライアー。全てあなたに任せるわ。どうか、私に自由をちょうだい」

 ライアーの前に手を差し出す。
それに気づいたライアーは私の手を取り、その甲に唇を落とした。

「仰せのままに」





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