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第五章・帝国の王女
679.Main Story:Ameless2
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ユーキ達の荷物を一通り運び込み、彼等が荷解きや部屋割りなんかで(セインカラッドを巻き込んで)盛り上がるなか、私はその場を後にしてディオ達の家に向かった。
丁度巡回に出ようとしていたディオラクを引き留め、たまたま家にいたメアリーとシアン、そしてバドール一家を有無を言わさず連行する。『オイ殿下! せめて何か説明しろ!』『お、王女殿下……もうすぐ仕事なんだが……』『王女殿下、俺達をいったいどこに連れて行くつもりなのかな』と騒ぐ面々に『まあまあ』と笑顔を返し、私は来た道を戻る。ちなみにエリニティは副業中らしい。
そして辿り着いたユーキ達の新居の前でドヤッと仁王立ちし、
「いでよ! 我が手下、毒ワンコトリオよ!!」
偉そうな王様のごとく大仰に片手を掲げ、今初めて口にした言葉にて寸劇に興じる。これにはディオ達も呆れた様子だ。
ちなみに『毒ワンコトリオ』というのは、毒舌・毒使い・ワンコこと干物三人衆のことである。干物三人衆というのは些か彼等の華に似合わないと思い、私なりにチャーミングなユニット名を考えたのである。毒ワンコ。うむ、かわいい。
「まさかとは思うけど、それって僕達のこと?」
嘘だろ? とユーキがいの一番に新居から出てきたら、
「毒ワンコ! 毒だってシャルにぃ! なんかカッケー!」
「毒はかっこいいのか。それは嬉しい。ジェジ、毒、見るか?」
「ん~~、ものによってはシャレにならないから今はいいかなあ!」
「そうか……」
喜んだかと思えばしょんぼりするシャルを連れ、楽しげなジェジが玄関を飛び出してくる。
「「「あ」」」
毒ワンコトリオが言葉を揃える。その視線の先では、ディオ達があんぐりと固まっていて。
「──お前等今までどこほっつき歩いてやがったんだアァン!?」
「シャル! ジェジ! ユーキ! 本当に……っ、本当に心配したんだよ!?」
「三人とも……ようやく帰ってきてくれたんだな」
「全員無事みたいね。ったく、どいつもこいつも心配かけさせないでよ」
「ゆっ──ユーキ兄~~~~~~っ!!」
「…………よかった。みんな、帰ってきたんだ」
彼等は三者三様の反応を見せた。中でもメアリーはユーキに駆け寄り、感極まったのか抱きついて泣いてしまっている。だがユーキはそれを拒まず、呆れたようにため息をついておきながら、随分と優しい表情で泣きじゃくるメアリーの頭を撫でているではないか。
……これは案外可能性も無くはない、のかも? このことをメアリーに伝えるべきか、否か。
「……──すまなかった。元はと言えば、お前等を傷つけたのは俺達なのに……さっきは勢い任せに怒鳴っちまった。あの時お前等を──特にシャルルギルを傷つけたこと、改めて謝らせてくれ。本当に、悪かった」
あの後、ユーキ達の新居で私兵団はしっかりと話し合うことに。私とアルベルトとセインカラッドは別テーブルでゆったりコーヒーブレイクと洒落込んでいる。
そして彼等の話し合いに聞き耳を立てていた。奇跡力下で起きた不可抗力の一件のことや、その後のこと。家出に至ったのは流れに身を任せていた結果だ、と話すユーキにディオ達は安堵した様子だった。
「別そのことはもう怒ってないよ。ね、シャル兄」
「ああ。たしかにあの時は胸がギュッとなったが、もう大丈夫だ。あれはディオ達の意思によるものではないと分かっているからな」
「そうそう! ずーっと寝てただけのオレにこんなこと言う資格はないけどお、みんな被害者みたいなものなんだから、そこまで必死に謝んなくてもいいと思うにゃあー」
三人は晴れ晴れとした表情で大人の対応を見せる。
そりゃあ怒ってなくて当然か。家出延長だって、彼等に怒ってではなく、謎の気を利かせたことによるものだったし。
「お前等…………」
「うぅ、シャル達に気を遣わせてしまった……傷つけた挙句こんな……うっ……」
何故か複雑な心境に陥っているディオラクのことは、一旦置いておこう。
「……ところで。ユーキ兄、その金髪の人は誰?」
「ん? あぁ、これは僕の小間使いだよ」
「ユーキの従者、セインカラッド・サンカルだ。よろしく、義妹殿」
赤い目を擦るメアリーに問われ、ユーキは随分と適当にセインカラッドを紹介した。だがそれに誰かが苦言を呈することもなく、話は進む。
「じゅ、従者……? この新しい家といい、いったいどういうことなの……?」
「話せば長くなるし、面倒だから結論だけ言うと──こいつは僕の親友。最近再会したんだよ」
「親友……っ!? というか、あのユーキ兄がすごくハキハキ喋ってるし、眼も隠してないし、雰囲気もガラッと変わってる……! アタシの知らない間に何があったの……?!」
「猫被るのやめたからな。ねー、アミレス」
突然話を振らないでほしい。
「そうらしいわね。明るくていいと思うわよ」
正直なところ、私も彼が猫を被らなくなった理由はよく分からない。なのでこうして茶を濁すしかないのだ。
「ひ、姫のこと……名前で……呼んでる……っ!? そんな、まさかユーキ兄と姫が──っ」
「「違うからね」」
メアリーがよからぬ想像をしているので、ユーキと同時に慌てて訂正する。
「仮にも王女で雇用主の人の名前を呼び捨てにするのは失礼だとは思うけど、本人が何も言ってこないから。過去の栄光に縋るつもりはないけど、僕もどちらかといえば敬うより敬われる側だし……こっちの方が楽なんだよね」
「私はどう呼ばれても構わないよ」
「さっすが僕達のプリンセス~。話が早い」
「態度が妙に腹立つから前言撤回しようかしら」
ヴィランスマイルで軽口を叩くユーキを見て、ディオ達はまたもや唖然としていた。
丁度巡回に出ようとしていたディオラクを引き留め、たまたま家にいたメアリーとシアン、そしてバドール一家を有無を言わさず連行する。『オイ殿下! せめて何か説明しろ!』『お、王女殿下……もうすぐ仕事なんだが……』『王女殿下、俺達をいったいどこに連れて行くつもりなのかな』と騒ぐ面々に『まあまあ』と笑顔を返し、私は来た道を戻る。ちなみにエリニティは副業中らしい。
そして辿り着いたユーキ達の新居の前でドヤッと仁王立ちし、
「いでよ! 我が手下、毒ワンコトリオよ!!」
偉そうな王様のごとく大仰に片手を掲げ、今初めて口にした言葉にて寸劇に興じる。これにはディオ達も呆れた様子だ。
ちなみに『毒ワンコトリオ』というのは、毒舌・毒使い・ワンコこと干物三人衆のことである。干物三人衆というのは些か彼等の華に似合わないと思い、私なりにチャーミングなユニット名を考えたのである。毒ワンコ。うむ、かわいい。
「まさかとは思うけど、それって僕達のこと?」
嘘だろ? とユーキがいの一番に新居から出てきたら、
「毒ワンコ! 毒だってシャルにぃ! なんかカッケー!」
「毒はかっこいいのか。それは嬉しい。ジェジ、毒、見るか?」
「ん~~、ものによってはシャレにならないから今はいいかなあ!」
「そうか……」
喜んだかと思えばしょんぼりするシャルを連れ、楽しげなジェジが玄関を飛び出してくる。
「「「あ」」」
毒ワンコトリオが言葉を揃える。その視線の先では、ディオ達があんぐりと固まっていて。
「──お前等今までどこほっつき歩いてやがったんだアァン!?」
「シャル! ジェジ! ユーキ! 本当に……っ、本当に心配したんだよ!?」
「三人とも……ようやく帰ってきてくれたんだな」
「全員無事みたいね。ったく、どいつもこいつも心配かけさせないでよ」
「ゆっ──ユーキ兄~~~~~~っ!!」
「…………よかった。みんな、帰ってきたんだ」
彼等は三者三様の反応を見せた。中でもメアリーはユーキに駆け寄り、感極まったのか抱きついて泣いてしまっている。だがユーキはそれを拒まず、呆れたようにため息をついておきながら、随分と優しい表情で泣きじゃくるメアリーの頭を撫でているではないか。
……これは案外可能性も無くはない、のかも? このことをメアリーに伝えるべきか、否か。
「……──すまなかった。元はと言えば、お前等を傷つけたのは俺達なのに……さっきは勢い任せに怒鳴っちまった。あの時お前等を──特にシャルルギルを傷つけたこと、改めて謝らせてくれ。本当に、悪かった」
あの後、ユーキ達の新居で私兵団はしっかりと話し合うことに。私とアルベルトとセインカラッドは別テーブルでゆったりコーヒーブレイクと洒落込んでいる。
そして彼等の話し合いに聞き耳を立てていた。奇跡力下で起きた不可抗力の一件のことや、その後のこと。家出に至ったのは流れに身を任せていた結果だ、と話すユーキにディオ達は安堵した様子だった。
「別そのことはもう怒ってないよ。ね、シャル兄」
「ああ。たしかにあの時は胸がギュッとなったが、もう大丈夫だ。あれはディオ達の意思によるものではないと分かっているからな」
「そうそう! ずーっと寝てただけのオレにこんなこと言う資格はないけどお、みんな被害者みたいなものなんだから、そこまで必死に謝んなくてもいいと思うにゃあー」
三人は晴れ晴れとした表情で大人の対応を見せる。
そりゃあ怒ってなくて当然か。家出延長だって、彼等に怒ってではなく、謎の気を利かせたことによるものだったし。
「お前等…………」
「うぅ、シャル達に気を遣わせてしまった……傷つけた挙句こんな……うっ……」
何故か複雑な心境に陥っているディオラクのことは、一旦置いておこう。
「……ところで。ユーキ兄、その金髪の人は誰?」
「ん? あぁ、これは僕の小間使いだよ」
「ユーキの従者、セインカラッド・サンカルだ。よろしく、義妹殿」
赤い目を擦るメアリーに問われ、ユーキは随分と適当にセインカラッドを紹介した。だがそれに誰かが苦言を呈することもなく、話は進む。
「じゅ、従者……? この新しい家といい、いったいどういうことなの……?」
「話せば長くなるし、面倒だから結論だけ言うと──こいつは僕の親友。最近再会したんだよ」
「親友……っ!? というか、あのユーキ兄がすごくハキハキ喋ってるし、眼も隠してないし、雰囲気もガラッと変わってる……! アタシの知らない間に何があったの……?!」
「猫被るのやめたからな。ねー、アミレス」
突然話を振らないでほしい。
「そうらしいわね。明るくていいと思うわよ」
正直なところ、私も彼が猫を被らなくなった理由はよく分からない。なのでこうして茶を濁すしかないのだ。
「ひ、姫のこと……名前で……呼んでる……っ!? そんな、まさかユーキ兄と姫が──っ」
「「違うからね」」
メアリーがよからぬ想像をしているので、ユーキと同時に慌てて訂正する。
「仮にも王女で雇用主の人の名前を呼び捨てにするのは失礼だとは思うけど、本人が何も言ってこないから。過去の栄光に縋るつもりはないけど、僕もどちらかといえば敬うより敬われる側だし……こっちの方が楽なんだよね」
「私はどう呼ばれても構わないよ」
「さっすが僕達のプリンセス~。話が早い」
「態度が妙に腹立つから前言撤回しようかしら」
ヴィランスマイルで軽口を叩くユーキを見て、ディオ達はまたもや唖然としていた。
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