だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第五章・帝国の王女

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(昨日は散々な目に遭ったな……)

 六月十日。ロアクリードは二日酔いに苦しむ若者のような面持ちで、建国祭で賑わう街を散策していた。

「あー! きょーこーだ! おはよーきょーこー!」
「ん? あぁ、おはようヨースケくん。今日は怪我しないようにするんだよ」
「きょうこうのおにいさん! おはようございますっ」
「レイラちゃんもおはよう。礼儀正しく元気で素晴らしいよ」
「キョーコー! アレ見せて、アレ! あのピカーってやつ!」
「はいはい。光魔法ならいくらでも見せてあげるから落ち着いてね、シンラくん」

 街の子供達が、彼の姿を見つけるなり駆け寄ってくる。
 ロアクリードはリンデア教の布教がてら、よく街の人達の手伝いや怪我をした子供達の治癒、更には遊び相手など様々なことをしていた。そうして触れ合ってゆく中でじわじわとリンデア教の布教をし、この数ヶ月で既に二百人余りのフォーロイト帝国民にリンデア教を布教することに成功していた。
 それに加え、こうして親身に寄り添うことで街の人達──特に子供達から絶大な人気と信頼を得ているのだ。

「ジスガランド教皇。やんごとないご身分の方にいつも子供達の遊び相手をさせてしまって、なんとお礼申し上げたらいいか……」
「大丈夫だとも。私は私の判断でこの子達と過ごすことを選んでいるのだから。そもそも『幼き隣人を慈しむこと』は、リンデア教では当然のことだよ」
「まぁ……流石はリンデア教の教えですね」

 ロアクリードの柔らかな微笑みに、母親達は惚けた様子で息を吐く。旦那達が見れば一発で『浮気だ!』と詰められてしまいそうな程に、彼女達は乙女の顔となっていた。

「おっ、教皇サマじゃねぇか! こないだアンタに足を治してもらったおかげでこの通りさ! ありがとな!」
「かと言って無理はするものではないよ、ジオンさん」
「わーってるよ! アンタにそう何度も世話になるわけにゃいかねぇからな!」
「ジスガランド教皇さま~、自分も今度、怪我したらその時はよろしくお願いします!」
「治癒はいくらでもするが、そもそも怪我をしないように気をつけなさい」
「はーい!」

 今度は通りすがりの土木作業員達。筋肉自慢の快活な作業員がロアクリードに手を振ると、共に歩いていた細身の若い作業員もちゃっかりと約束を取り付けた。

「きょーこー、だいにんきだね!」
「ふふ、そうだね。ありがたいことに、異国の教祖であるにもかかわらずこの街の人々には良くしてもらっているよ」
「あ、そうだ! キョーコー、おれたちきのう、へんなひとたちを見たんだ!」
「変な人……?」

 ピクリとロアクリードの眉が跳ねる。

「な、レイラ」
「うん。見たよ! おひるぐらいにみんなであそんでたらね、へんなもようの服をきたひとたちが、おみせがなにもない道にはいっていったの」
「きょーこー、あやしい・・・・ひと・・? をさがしてるんだよね? だからもしかして、あのひとたちがそうなのかなって」
(変な模様の服を着た集団……!)

 子供達が三人の記憶を寄せ集めて一生懸命伝えると、ロアクリードは懐からハンカチーフを取り出し、指を少し噛んで溢れ出た血である模様を描いた。
 血で描かれたその模様はとても禍々しく、そして不気味で。そのハンカチーフを子供達に見せて、ロアクリードは問う。

「その変な人達の服にあった模様って、こんなものじゃなかったかな?」

 三対の鋭利な翼を持つ漆黒の大蛇が、逆さ十字を呑みこもうとしている紋様。それを見た子供達は一様に目を丸くして、

「「「それ!!」」」

 とハンカチーフを指さして言葉を揃えた。

「ちなみに、その人達はどの辺りで見かけたんだい?」
「えっとね、あっち!」
「南部地区の方か……ありがとう、皆。君達のおかげで、悪い人達をなんとかできそうだよ」
「! おれたちのおかげだって!」
「ママ! きょうこうのおにいさんにほめられた!」
「へへーんだ。オレたちはゆう……しゅう? だからな!」

 ロアクリードに頭を撫でられ、子供達は小さな胸を張って喜んだ。そして彼はおもむろに立ち上がり、

「用事ができたので私はこれで。皆、危ないことはしないこと。くれぐれも、怪我のないよう気をつけなさい」

 人の良い笑みを浮かべて颯爽とその場を後にした。

(商業区たる特色から詮索されることを嫌う住民が多くて南部地区は夜間しか調査できず、まだ深くは調べられていなかったが……まさか南部地区での目撃情報があるとは。子供達に感謝したいところだが、一歩間違えれば命の危機すらあった。……私が、あの子達を巻き込んでしまったんだ)

 ぐっと手を握り込み、表情を曇らせる。しかしその足は止まらず、人混みを縫うように進み、ロアクリードは一直線に南部地区へと向かう。
 そして、南部地区にて彼は見つけた。見つけてしまったのだ。

(……──いた)

 人気のない路地裏を歩く、妖しげな人影を。


 ♢


 フォーロイト帝国が誇る年に一度の祭典、建国祭。その裏で、ロアクリード=ラソル=リューテーシーは偶然見かけたある宗教──【大海たいかい呑舟どんしゅう終生しゅうせい教】について調査をしていた。
 理由は至って単純。危険極まりないこの組織の存在を知れば、どこぞのお人好しの王女様アミレス・ヘル・フォーロイトが絶対に無理をすると思ったから。それと、あの異教徒達を個人的にぶん殴りたいと思っていたから。
 なのでリンデア教の布教がてら、街で怪しい人を見なかったかと地道に調査をしていたのだ。

 その結果は上々。調査開始からものの数日で【大海たいかい呑舟どんしゅう終生しゅうせい教】の一人と戦闘し追い詰めることに成功した。しかし拷問の結果は奮わず、異教徒は頑として口を割らない。これ以上の拷問は無駄だと判断し、証拠隠滅のために殺そうとしたが、

(──襲撃!)

 肌を刺すような殺意を感じ、彼は即座に回避行動を取った。彼が立っていた場所には甲高い音を響かせて突き刺さり、やがて石畳を溶かしはじめた獰猛な大毒針がある。
 そして彼の視線の向かうところ──路地の先から、妖しげな祭服を身に纏う夜明けの髪の男が、規則正しい足音を響かせながら悠々と現れた。

「──これ以上、我が同胞に手を出さないでいただきたい」
「……彼が大人しく言うことを聞いてくれたならば、私とて暴力に訴える必要はなかったのだ。勝てぬ相手と分かっていながらも抵抗したのは、彼だとも」
「貴殿が我々を見逃せば、血は流れなかったのでは?」
「何故、私がそなた等を見逃さなければならないんだ? 我が領土を荒らし、未来ある信徒達からその可能性を奪ったそなた等に──この私が、自ら情けを賜わす必要があると? そう、本気で宣うか」

 暫し押し問答を繰り広げ、結局ロアクリード達は力比べから殺し合いへ至った。オーディウムは付与魔法エンチャントも無しに人の域を超えた膂力を発揮するあちら側・・・・の人間で、聖人同様正攻法では決して勝てない相手だと悟り、ロアクリードは全てが馬鹿馬鹿しく思えてきたようだ。

「…………やめだ。もう、考えるだけ時間の無駄だろう。どれだけ足掻こうが──私は所詮、凡人なんだから」
(──そう。私は結局のところ、凡人でしかない。正気を捨てることが出来ただけの、常人の成り損ない。それが私だ。命を踏み躙り、生を喰らい、死を運んだ。主の教えに反して多くの血と不幸を齎してしまった。そんな私に、救いなどあってはならない。私には……あの陽を拝み、その下を歩む資格など無いのだ)

 ロアクリードの心境を表すかのように、沈んだ顔に濃い陰が落ちる。暗い表情のまま彼は聖笏せいしゃくを投擲し、刹那。土煙に紛れるように彼の姿が消えたかと思えば、ロアクリードは鬼気迫る様子でオーディウムに肉薄していた。

「ッ、噂に違わぬ凶暴さだな、ジスガランド教皇……!」
「五月蝿い。黙れ。私はお前達のような人間が一番嫌いなんだ。だからさっさと死んでくれ」
「それが……貴殿の本性か!」
「凡人の醜悪な本質などどうでもいいだろう。私は今、お前を目の前から消し去りたくて仕方がないんだ」
(──シルフさんにより曝け出されてしまった私の歪んだ本性。決して、主のもとになど行けぬ血と穢れに塗れたこの肉体。いずれ、心優しき彼女にも知られてしまうのだろう。失望させてしまうのだろう)

 と、悲しげな表情を作る一方で。

(だがそれでも……あの子の笑顔が守れるのならば──私は喜んで、煉獄へ堕ちよう。だって彼女には、涙よりも笑顔がよく似合うから)

 ロアクリードは、一世一代の覚悟を決めていた。カイルに『世界を敵に回せるか』と聞かれたことはただのきっかけにすぎず、彼は自らの意思でこの選択ルートを選んだのだ。

「──神に捧げ、神に祈り、神に誓い、神に願う。果てなき明日を夢見て先をも見えぬ闇を往く旅人に、幸福あれと。禁欲を呑み、穏和を呑み、活力を呑み、飢餓を呑み、無欲を呑み、羨望を呑み、謙虚を呑み、唯一なる舟に乗り現世うつしよおおいし大海を、我らは渡る。……──我が神よ! あなた様の子供たるオーディウムが願い奉ります。どうか、狂気に呑まれしこの憐れな者に救済を……!!」

 憑き物が落ちた様子のロアクリードを警戒し、オーディウムが聖句を唱える。すると彼の体に巻き付くかのように紫黒しこくの海水が舞い、やがて紫黒しこくの海水は宙にてとぐろを巻き、狩りをする蛇のように、狙いを定めてから勢いよくロアクリード目掛け突進してきた。

(本当に、神に選ばれた人間というのは酷いものだ。神の祝福を受け、当たり前のようにそれを行使するのだから。嗚呼、本当に──憎たらしい程に羨ましいよ)

 迫り来る紫黒しこくの大蛇を前に、ロアリードはその場で立ち止まり手を重ねて、

「……主よ。煉獄逝きたるこの私を、まだ、あなたの子と認めてくださるのならば。どうかこの咎多き身に、あなたの愛を──……僅かな慈悲を、施してくださいませ」

 天へと祈りを捧げた。

(この祈りが主に届かずとも、どうにかする算段はある。だが、何よりも……私も主に愛されているのだと、そんな空虚な妄想に縋りたくなってしまった)

 その祈りは、彼の神へと届く──……。
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