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第五章・帝国の王女

670.Side Story:The men's party that came back.10

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 マクベスタがかつて婚約破棄されたその理由を聞き、

「……ふむ。婚約者を待たせるというのも些か体裁が悪かろう。確かに、そのような理由ならばお前が婚約破棄されるのも頷ける」

 フリードルは納得したように呟いた。何を隠そうこの男、マクベスタの能力と人柄をいたく買っているのだ。

(マクベスタ・オセロマイトのような堅実かつ優秀な人材を手放すとは……元婚約者とやらは目が節穴なのだな。文官として補佐にするも良し、武官ないし護衛として側近にするも良し。レオナード同様なんとも得難い人材だと思うのだが)

 女心は理解し難いな。と、フリードルは小さく息を吐いた……のだが。

「──まあ、それはもう良い。して、お前は何故僕の妹にその欲望を吐露したのだ」

 それはそれとして。フリードルはマクベスタの懸想が見逃せないらしい。

「……──オレも、本当は告白するつもりなどなかった。でも、抑えられなかったんだ。これが許されないことだとしても、更なる罪になるのだとしても。どうしても、想いを伝えずにはいられなかった」
「随分と独善的な男だ」
「恋愛感情などおしなべてそうでしょう。誰かを愛することも、愛されたいと願うことも、結局は独り善がりに過ぎないのだから」
「…………言い得て妙だな」

 マクベスタの解釈が思いの外腑に落ちたのか、フリードルは途端に大人しくなった。それを見て、

(流石にフリードル殿下の話を遮る訳には、と思って黙っていたけど。そろそろ本題に戻ってもいいかな?)

 蚊帳の外だったレオナードがここぞとばかりに口を切る。

「話の腰が折れてしまったので、そろそろ本題に戻らせていただいてもよろしいでしょうか」
「いいだろう。さっさと続けろ」
「あ、ありがとうございます」

 不機嫌度がじわじわと増してゆくシルフからこっそりと目を逸らし、レオナードは『確認』の結果を振り返った。

(マクベスタ王子は……聞く前に勝手に話してくれたようなものだからなぁ。聞くなら消去法で……倫理観とかはとりあえず無視で……)
「──フリードル殿下。先程の確認を踏まえ、お聞きしたいことがあるのですが」
「何だ」
「無粋かとは思うんですが……その、フリードル殿下はどのように告白されたのでしょうか。文言とか、状況とか、思い出せる限りでいいのでお教えいただけませんか?」
「無粋だな」
「うっ。すみません……」

 しおらしく肩をすぼめるが、質問を変えるつもりはないらしい。それを察したフリードルは、少しばかり悩んだ。

(初めてあの女に想いを言葉にして伝えたのは、舞踏会の夜だったか。あの状況を詳らかにすれば、流石の僕も命が危うい予感がする。あの時は怒りのままにああしてしまったが、確かに不同意の強制猥褻は褒められた行為ではないからな……その辺りは伏せておこう)

 意外にも、後ろめたいことをした自覚があったらしい。

「そうだな……状況は、妹と二人きりの時だった。そこで僕は、『人生で最も幸せな瞬間を共に迎えたいとすら思う程、お前の事を愛している』と伝えた」
「な、なるほどぉ……」
(──想像以上にロマンチックな告白をしてるじゃないかフリードル殿下!?)

 レオナードは戸惑った。聞いたのは自分なのに、予想以上に、フリードルの口説き文句が告白の言葉として糖度が高く美しいものだから、ちょっぴり打ちひしがれているようだ。

(フリードル殿下やマクベスタ王子が正統派な告白をしたようだから、俺は別路線の……それこそ王女殿下の記憶に残るような、個性を出した告白にしないと……!)

 何はともあれ目的は達成した。恋敵ライバルの武器を把握し、方向性が被らないようにすること。それが、この男子会におけるレオナードの目的だったのだ。

「教えてくださりありがとうございました、フリードル殿下」
「このような情報に何の価値があるのか僕には皆目見当もつかんが……お前にはお前なりの考えがあるのだろう。この情報、決して悪用だけはするなよ」
「勿論でございます」

 元々目をつけていた人材だからか、なんやかんやレオナードにも甘いらしい。己が認めた人間には少しばかり甘く、寛容になる。フリードル・ヘル・フォーロイトにはそんな一面があった。

「ふむ。我が子は鈍感なのか。彼の子孫は誰も彼も、そんな感じだったが」

 フリザセアがおもむろに呟くと、

「いや、お前の子供ではねーだろ。ましてや姫さんはお前の孫じゃない」
「何を言うか。氷の魔力を持つ者は皆等しく俺の子も同然。そして姫は俺の孫娘だ」
「俺にはお前の価値観が分からねーよ……」

 エンヴィーが呆れたように反論した。

「つーか、次はお前の番じゃねーの? 早く終わらせて俺達を解放してくれ」
「おっ。ラストはフリザセアさんか。頼んだぜフリザセアの旦那ァ~~」
「多分満場一致で即解散を望んでいるだろうからね。そういうことなのでよろしくお願いします、フリザセアさん」
「(激しめな首肯)」

 エンヴィーが何気なく放った一言に、参加者達が声援という名の後押しを送る。必死な人間達を眺めつつ、シルフは鼻白む。

(ボク、一度も『一周で終わる』とは言ってないんだけどな。まぁ……今にも死にそうな顔のクソガキ共に聞いたところで大した収穫はないだろうし。一秒でも多くアミィと時間を共有する為に、ここは譲ってやるか)

 ボクってば優しい~~。と、シルフは独りでにふっと笑う。そもそもの元凶が自分であることを忘れているようだ。

「俺は別に、お前達の話になど興味はないのだが」
「聞くことが無いってのは分かるけどよ。なんでそんな考えうる限り最悪の言語化しちゃったわけ? ほんっとに会話向いてねぇーな」
「何を今更」
「開き直んじゃねぇ。言葉を選ぶ努力をしろテメェーはよぉ」
「善処する」
「それ言って本当に善処したことあったか?」
「さあ…………」
「ちゃんと善処しろよ!!」

 シルフを挟んで、親友マブダチ二人が漫才のようなやり取りを繰り広げる。その後エンヴィーがわざとらしく咳払いをすると、フリザセアは観念したように、おもむろに口を開いた。

「……そうだな。それじゃあ一つ、質問をしよう」


 ♢♢♢♢


「アミィ、たっだいま~! アミィに頼まれたことは全部きっちり終わらせてきたよ!」
「おかえりシルフ、師匠とフリザセアさんとルティもおかえりなさい! 皆ありがとう、急なお願いを聞いてもらっちゃって。随分と時間がかかったみたいだし、大変だったよね」
「そんなことないっすよー。帰りが遅れたのは別件の影響なんで」
「別件……?」

 シルフに抱き締められながら、アミレスはこてんと首を傾げる。だが、彼等は含み笑いを浮かべるだけで何も言わない。それぞれの仕事や生活に戻った他の参加者達も、此度の男子会について触れることはきっと金輪際無いだろう。

『……──陛、シルフ様。この男子会で得た情報を口外した者は凍結しても構わないか?』
『え? あー……まあ、いいんじゃない? 人の秘密を暴露するような奴に人権なんて不要だろう。殺せ』

 フリザセアの問いをシルフが軽く認めてしまったので、参加者一同はこの数時間の地獄を誰にも明かせなくなってしまったのだ!
 なので彼等は男子会を匂わせるだけ匂わせて、その詳細には一切触れられず。

「どうして皆不自然な笑顔なの? 一体何があったの……?」

 アミレスが心配そうに重ねて聞いてきても、胡乱な笑顔ではぐらかすことしか出来なくなってしまったのであった…………。
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