だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
748 / 786
第五章・帝国の王女

665.Side Story:The men's party that came back.5

しおりを挟む
 アミレスにそれぞれ様々な想いを寄せる純粋な男達は、自分が出会うよりも前のアミレスを知るフリザセアを素直に羨ましく思う程に、アミレスの幼少期に興味津々であった。
 ──ある、一人の男を除いて。

(……僕は、兄でありながらあの女に兄らしいことをしてやれた試しがないな。世間一般に聞く兄が弟妹に焼いてやるべき世話も、教えてやるべき様々なことも、与えてやるべき安寧や幸福も──何も、してやれなかった)

 アルベルトの隣の席にて、フリードルは小さく俯いてゆっくりと目を伏せた。
 そうして脳裏に思い浮かぶのは、小さな手足で健気にも己の後ろを追いかけてきていた、幼い妹の姿。よく磨かれた宝石のような大きく丸い瞳を爛々と輝かせ、甲高い声で拙い言葉を放ち、いつもこちらを見上げ笑っていたその存在を。かつてのフリードルは酷く疎ましく思っていた。故にそれを避け、極力関わらぬようにしていたのだが……その過去を、彼は今になって悔いていた。

(あの女の好きなものや嫌いなもの、その全てを知ることができた筈なのに。あの塵芥ゴミなぞに靡かぬよう、我が手元に置いておく事とて叶った筈なのに。……過ぎてから後悔するなど。愚かだな、僕は)

 机の上で握られた手が、僅かに震える。自身で知ることだって叶った筈の事柄を第三者から聞かざるを得ない……そんな現状が、フリードルを惨めに思わせるのだ。

「──生まれたばかりの頃の姫の可愛いさか。それはもう、とてつもなかった。よく泣く赤子でな……姫が泣く度に世話係の人間達が必死にあやし、その末に、花が咲いたように笑う姿は未だこの目に焼きついている」

 フリードルの葛藤など他所に、フリザセアは饒舌に語る。

「初めての寝返り。初めての一人立ち。初めての一人歩き。初めての転倒。初めての勉強。多くの初めてを俺は見守ってきたが、どれもこれも非常に愛らしく、凍てついた心臓が熱く疼いた程だ」

 柄にもなくペラペラと喋り続ける。
 先の宣言通り、アミレスにまつわる重厚なる記憶で、その他参加者達へ特大のマウントを取ろうとしているようだ。

「……なるほど。すごく可愛いかったと」

 あれこれと想像して満足したのか、アルベルトの語彙力が溶けてしまっている。

「ああ。音は聞こえない為、あくまで俺が知るものはその姿のみだが……正直なところ、何度か精霊界へ連れて来ようかと悩む程度には、愛らしくてな。存在しない筈の様々な感情や欲がこの体を蝕んだ」

 それってただの未成年者誘拐では? と、カイルが冷や汗を浮かべる。

「感情や欲……ですか」
「ほら、お前達人間は大事なもの程失くすまいとするだろう。それと似たようなものでな。つい、何度か彼女を生きたまま凍結して永遠に傍に置いておこうかと思っ──」

 そこで、参加者各位から殺意と共にそれぞれの得物を突きつけられた。椅子を倒す勢いで立ち上がった男達。今にもフリザセアを蜂の巣にせんと煌めく、剣や杖や銃口、そして魔法陣。そんな圧倒的殺意を一身に受けても、フリザセアは顔色一つ変えず、ただぱちくりと瞬きするのみで。

「どうした、急に。早く座るといい。俺はまだ、姫について話せるぞ」

 まるで己の失言に気づいていないかのよう。そんなフリザセアに苛立ちを覚えつつ、男達は渋々着席した。

「フリザセアの話を聞きたいのは山々だが、人間共の時間には限りがあるし、そもそもなんか凄く腹立つ。だからまた別の機会にしよう」
「そうか。陛……シルフ様がそう仰るなら」
「だけど。お前、後でボクの部屋に来い。説教してやる」
「何っ?!」

 シルフからの圧に、本当に心当たりがないフリザセアは困惑する。氷のような顔にも、ほんの少し目を見開くという変化が訪れていた。

「これ以上フリザセアに喋らせると嫉妬でどうにかなりそうだから、さっさと次の番に行こう。ルティもこれで構わないな?」
「だ、大丈夫です」
(──業腹だけど、騎士君に聞けばもっと詳細を知れるだろうし……)
「よし。じゃあ次は……お前か、要注意人物その一」

 シルフの視線が向いた先にはフリードルがいた。不本意な呼ばれ方に眉を顰めつつ、フリードルは口を切る。

「……レオナード。同じく妹を持つ者として、お前の意見が聞きたい」
(あれ。なんかこの流れ前にもあったような……)
「──は、はい喜んで!」

 まさかフリードルに指名されるとは思ってなかったレオナードは、ぎこちない笑みで受け応える。

「どうすれば、妹とは兄を愛するのだろうか。近頃、一度開いた溝をいかにして埋めたものかと苦心惨憺しているのだ」
「そうだったんですか……」
「僕がどれ程手を尽くしても、妹の反応は微妙でな。そこでお前の知恵を借りようと考えた次第だ」
「そんな緊急時に、俺の頭脳を買ってくださりありがとうございます」

 まるで寄り添うかのように相槌を打つが、レオナードは実のところ、

(そもそも妹に愛されないってどういう状況なんだろう。想像つかないな……)

 何一つ、フリードルの置かれている状況を理解していなかった。これは適当に返事をしているのである。
 幼少期より妹のローズニカと二人で支え合い依存し合いながら生きてきた彼にとって、妹から愛されないという状況そのものが、想像もつかないものなのだ。
 そんなフリードルの切実な悩みは、精霊達の失笑を買ってみせた。アミレスが父兄の愛を諦められずにいた過去を知る彼等は、アミレスが追う者ではなく追われる者になった事実がたいそうお気に召したようだ。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...