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第五章・帝国の王女
663.Side Story:The men's party that came back.3
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「……はじめに言っておくけど。俺のは恋とか愛とか、そういうのではない。これだけは断言しておく」
そこに、いつもの彼らしさは無く。
有るのは──人生を疎み自らそれを放棄した過去を持つ一人の男の、切実な想いだけだった。
「その上で、マクベスタの質問に答える。──アイツは、俺の星なんだ。俺はアイツがいるから生きようと思えた。俺はアイツがいるから生きていられる。俺は、アイツがいないと生きていけない。ただそれだけのことだよ。恋や愛みたく綺麗なものでも、尊いものでもない。俺のこれは……ただの執着と依存だからな」
予想外の答えに、男達は沈黙した。
だが中には彼の答えに覚えがある者もいて。
(……光、か。確かに彼女は私の人生においても、そんな役を背負わされているな。数年前からずっと、彼女は、心が弱い私を在るべき場所へと導いてくれている。まるで我等が主──我が光のようだ)
ロアクリードは穏やかに微笑む。
誰もいない所で声を押し殺して泣いていたアミレスが、なんの憂いもなく笑って暮らせる世界にする為──たったそれだけの為にそれまでの人生諸共放り投げてきた役目と向き合い、そして全うする道を選んだ彼にとって、『光』という言葉は確かに馴染み深い表現であった。
(紅茶の効果で、オレ達は嘘をつけない。ならば……カイルは本当に、愛ではないなにかでアミレスにあれ程執着しているのか? アミレスがいなければ生きていけないなどと宣うくせに、それがただの執着と依存だと…………なんだ。そうだったのか)
マクベスタの顔が、ぎゅっと険しくなる。
(──お前はやはり、オレの最たる障害だ。お前の目を見れば分かる。カイル、お前は…………ただの執着と依存で、アミレスを誰よりも強欲に求めているじゃないか)
カイルの友であり、また、同じ女性を想う男として、マクベスタはカイルの本音を見抜いていた。恋や愛ではないと断言し、ただの執着と依存でしかないと語る一方で──『アミレスの一番という座は誰にも渡さない』と、彼はその立ち位置を独占しようとした。そう、『彼』らしくない真剣な瞳が物語っていた。
それを見抜いてマクベスタは少しばかり気落ちする。何せカイル・ディ・ハミルという男は──……アミレスを想い慕う者達にとって乗り越えることが困難な壁の向こうに始めから居て、なおかつそこでアミレスと二人だけの世界を育んでいるのだ。
カイルという男そのものが、アミレスを求める者達にとって最も厄介な存在であることは、想像に難くない。
「だから安心してくれよ、皆様方。俺はお前等の恋路を邪魔するつもりはねぇから。どんどんアミレスにアタックしてどうぞ」
ああでも、とカイルは見慣れた笑顔で続ける。
「──俺、アミレスに関してはハッピーエンドしか認めないから。もしもお前等がアイツを少しでも不幸にしたのなら──……俺は、どんな運命からもアイツのことを奪うつもりだ」
その顔から笑みが消える。軽薄な笑みも、軽快な口調も失せ、カイルはただひたすらに、確固たる意思のもとでそう言い放った。
「ハッピーエンド以外は絶対に認めない。アイツが幸せになれない世界なんて、俺が全部ぶっ壊してやる。お前等がアイツにバッドエンドを迎えさせるのなら、その結末ごと、俺はお前等を殺す。それだけは留意しておいてくれ」
(──俺の星からその輝きを奪うものがあるならば、それをただひたすらに殺すだけだ。アイツの幸せを奪う者が在るならば、それをただひたすらに消すだけだ。バッドエンドもメリバも許さない。絶対に、何があっても、どんな犠牲を払ってでも──……アミレスは。『みこ』だけは、ハッピーエンドを迎えさせてやる)
ただの執着と依存であると自負し、そしてそれを良しとする男は、どこまでも貪欲に、己の望む最高の結末を実現させんとする。
それが、アミレスに人生を捧げると決めたカイルの欲。彼の光たるアミレスがほんの少しでも翳ることを、カイルは絶対に許せないのだ。
アミレスという光が弱まるということは、それ即ち──彼自身の絶望と、存在理由の消失に他ならないから。
故に、カイルはそれを許容しない。もはや生きたいとすら思えなかったある男を生かしたその罪を、一生涯を懸けて償わせる為に。彼の生きる意味そのものである彼女が、ほんの少しでもその輝きを損なうことを、『穂積瑠夏』は絶対に許さない。許してはならないとすら、彼は思っていた。
「……お前は、本当にアミレスを愛していないんだな」
「おう。だからそう言ってんじゃん?」
「あぁ……お前のそれは、愛や恋だなんて生易しいものではない。──狂気に近い、依存だ」
「やーっと分かってくれたか。そうだよ、俺はこの中の誰よりもアイツに依存してんの。アイツ無しでは生きられないぐらいにな」
また、カイルは締まりのない顔でへらへらと笑う。
「さっきも言った通り、あくまで俺はハッピーエンド以外認めないだけだからさ。無事にアイツをハッピーエンドまで導いてくれたなら、その時は誰が相手でも俺は祝福するぜ」
(──あわよくば、その相手はマクベスタであってほしいんだけどな)
だから是非、諸君らにはハッピーエンドを目指してほしい。と告げ、カイルは星空の紅茶で喉を潤す。
(貴様なぞに言われずとも、元より僕はそのつもりだ。だから疾く失せろ、我が妹の心を奪った罪人め)
(ホント、鼻につく奴だな。勝手にボクのアミィに依存しやがって……)
(カイル王子…………やはり要警戒すべきか)
フリードル、シルフ、ミカリアの三人が特にカイルを強く睨む。他の面々もまた思うところがあり、複雑な表情で誰しもがカイルへと視線を集める。そんな風に釈然としないまま、これにてマクベスタの順番が終わり、続いてはロアクリードの番となった。
そこに、いつもの彼らしさは無く。
有るのは──人生を疎み自らそれを放棄した過去を持つ一人の男の、切実な想いだけだった。
「その上で、マクベスタの質問に答える。──アイツは、俺の星なんだ。俺はアイツがいるから生きようと思えた。俺はアイツがいるから生きていられる。俺は、アイツがいないと生きていけない。ただそれだけのことだよ。恋や愛みたく綺麗なものでも、尊いものでもない。俺のこれは……ただの執着と依存だからな」
予想外の答えに、男達は沈黙した。
だが中には彼の答えに覚えがある者もいて。
(……光、か。確かに彼女は私の人生においても、そんな役を背負わされているな。数年前からずっと、彼女は、心が弱い私を在るべき場所へと導いてくれている。まるで我等が主──我が光のようだ)
ロアクリードは穏やかに微笑む。
誰もいない所で声を押し殺して泣いていたアミレスが、なんの憂いもなく笑って暮らせる世界にする為──たったそれだけの為にそれまでの人生諸共放り投げてきた役目と向き合い、そして全うする道を選んだ彼にとって、『光』という言葉は確かに馴染み深い表現であった。
(紅茶の効果で、オレ達は嘘をつけない。ならば……カイルは本当に、愛ではないなにかでアミレスにあれ程執着しているのか? アミレスがいなければ生きていけないなどと宣うくせに、それがただの執着と依存だと…………なんだ。そうだったのか)
マクベスタの顔が、ぎゅっと険しくなる。
(──お前はやはり、オレの最たる障害だ。お前の目を見れば分かる。カイル、お前は…………ただの執着と依存で、アミレスを誰よりも強欲に求めているじゃないか)
カイルの友であり、また、同じ女性を想う男として、マクベスタはカイルの本音を見抜いていた。恋や愛ではないと断言し、ただの執着と依存でしかないと語る一方で──『アミレスの一番という座は誰にも渡さない』と、彼はその立ち位置を独占しようとした。そう、『彼』らしくない真剣な瞳が物語っていた。
それを見抜いてマクベスタは少しばかり気落ちする。何せカイル・ディ・ハミルという男は──……アミレスを想い慕う者達にとって乗り越えることが困難な壁の向こうに始めから居て、なおかつそこでアミレスと二人だけの世界を育んでいるのだ。
カイルという男そのものが、アミレスを求める者達にとって最も厄介な存在であることは、想像に難くない。
「だから安心してくれよ、皆様方。俺はお前等の恋路を邪魔するつもりはねぇから。どんどんアミレスにアタックしてどうぞ」
ああでも、とカイルは見慣れた笑顔で続ける。
「──俺、アミレスに関してはハッピーエンドしか認めないから。もしもお前等がアイツを少しでも不幸にしたのなら──……俺は、どんな運命からもアイツのことを奪うつもりだ」
その顔から笑みが消える。軽薄な笑みも、軽快な口調も失せ、カイルはただひたすらに、確固たる意思のもとでそう言い放った。
「ハッピーエンド以外は絶対に認めない。アイツが幸せになれない世界なんて、俺が全部ぶっ壊してやる。お前等がアイツにバッドエンドを迎えさせるのなら、その結末ごと、俺はお前等を殺す。それだけは留意しておいてくれ」
(──俺の星からその輝きを奪うものがあるならば、それをただひたすらに殺すだけだ。アイツの幸せを奪う者が在るならば、それをただひたすらに消すだけだ。バッドエンドもメリバも許さない。絶対に、何があっても、どんな犠牲を払ってでも──……アミレスは。『みこ』だけは、ハッピーエンドを迎えさせてやる)
ただの執着と依存であると自負し、そしてそれを良しとする男は、どこまでも貪欲に、己の望む最高の結末を実現させんとする。
それが、アミレスに人生を捧げると決めたカイルの欲。彼の光たるアミレスがほんの少しでも翳ることを、カイルは絶対に許せないのだ。
アミレスという光が弱まるということは、それ即ち──彼自身の絶望と、存在理由の消失に他ならないから。
故に、カイルはそれを許容しない。もはや生きたいとすら思えなかったある男を生かしたその罪を、一生涯を懸けて償わせる為に。彼の生きる意味そのものである彼女が、ほんの少しでもその輝きを損なうことを、『穂積瑠夏』は絶対に許さない。許してはならないとすら、彼は思っていた。
「……お前は、本当にアミレスを愛していないんだな」
「おう。だからそう言ってんじゃん?」
「あぁ……お前のそれは、愛や恋だなんて生易しいものではない。──狂気に近い、依存だ」
「やーっと分かってくれたか。そうだよ、俺はこの中の誰よりもアイツに依存してんの。アイツ無しでは生きられないぐらいにな」
また、カイルは締まりのない顔でへらへらと笑う。
「さっきも言った通り、あくまで俺はハッピーエンド以外認めないだけだからさ。無事にアイツをハッピーエンドまで導いてくれたなら、その時は誰が相手でも俺は祝福するぜ」
(──あわよくば、その相手はマクベスタであってほしいんだけどな)
だから是非、諸君らにはハッピーエンドを目指してほしい。と告げ、カイルは星空の紅茶で喉を潤す。
(貴様なぞに言われずとも、元より僕はそのつもりだ。だから疾く失せろ、我が妹の心を奪った罪人め)
(ホント、鼻につく奴だな。勝手にボクのアミィに依存しやがって……)
(カイル王子…………やはり要警戒すべきか)
フリードル、シルフ、ミカリアの三人が特にカイルを強く睨む。他の面々もまた思うところがあり、複雑な表情で誰しもがカイルへと視線を集める。そんな風に釈然としないまま、これにてマクベスタの順番が終わり、続いてはロアクリードの番となった。
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