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第五章・帝国の王女
♢647.Chapter4 Prologue 【かくして舞台に立つ】
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六月十日。フォーロイト帝国が建国祭は、早くも六日目を迎えていた。一ヶ月にも及ぶ祭典は益々盛り上がりを見せている。
その、祭典の裏で。
「何故、我らの邪魔をする……っ!!」
「虫が自分の周りを飛び回っていたら、誰だって殺すだろう? ……あ。もしかして君達の教義では虫をも慈しむのかい? だとすればごめんよ、決して、君達の信仰を蔑ろにする意図は無かったんだ」
仄暗い路地裏で、腹部より血をどくどくと流す男は顔面蒼白で顎を震えさせていた。その眼前に立つ男は、およそ今しがた己の腹部を素手で貫いたとは思えない程、人好きのする微笑みをたたえている。
(ジスガランド教皇がこの街に滞在しているという話は聞いていたが、何故、よりにもよってこの男が我らに気づいた!? 先生が仰っていた“ネズミ”も、もしやこの男……っ!? くっ、何故、何故! 我らの信仰を阻む者が、よりにもよって────!!)
いかにも妖しげな祭服の下で、男は苦悶に顔を歪めた。
それを穏やかな面持ちの中で冷酷に見下ろして、この場面における全面的加害者たるロアクリードは、
(このままだと、放っておいてもこの男は死ぬ。……だがそれでは些か勿体ないな。一つでも多く情報を吐かせてから殺した方が有意義だ)
よし、拷問しよう。と含み笑いを浮かべた。
その直後。ロアクリードの手がまたもや男の腹部へと伸びて、その内側を素早く穿つ。
「~~~~ッッッ!? ふッ、が、ァ……っ! いッッ────!?」
「しぃーっ……騒がないで? 私とて無闇な殺生は好まない。叶うならば、君を生かして帰してあげたいんだ。だから、ね?」
「~~~~~~~~~~~~ッッ!!」
微笑みながら、ロアクリードは内臓をかき混ぜた。
男は想像を絶する激痛にあえぎ、悶絶するが、ロアクリードに片手間で口を塞がれたものだから、叫び声を上げることすら叶わないのだ。あまつさえ、ロアクリードは男の意識が飛ばないよう微弱な治癒魔法を使用し続けているので、意識を手放して楽になるという逃避すら、男には許されなかった。
「ねぇ。君達は何を企んでいるんだい? それさえ大人しく話してくれたなら、これ以上君を虐めなくて済むんだが……」
「~~~~ッ!! ~~~~ッ!?」
「うーん、困ったな。私は嗜虐趣味という訳ではないし、拷問はあまり好まないのだけど……仕方ないな。これでは駄目だというのなら」
「ッ!? んんーーっ! ン、ンンン~~~~ッ!?」
(──いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ……ッ!!)
あまりの悪寒に背中を滅多刺しにされたのか、涙目で必死に身を捩り、首を横に振るも、ロアクリードは表情一つ変えない。
「ごめんね」
一言。あまりにも短いその言葉の後、彼は、男の腹部から長い管を引きずり出した。びくびくと痙攣する、生温かく赤白い、幼虫のような形状のモノ。
それを鷲掴み、引き千切る勢いで彼は引っ張っていた。
「これ、一度外に出ると大変なんだよね。私も昔、魔族の攻撃を受けてぼろっと出てしまった事があるから分かるよ。治すの大変だったなぁ」
「────────ッッ!!」
「ああごめんよ、また意識が飛びそうになっているね。対精神衝撃の治癒魔法をかけるから、安心しておくれ」
「……! …………!!」
言って、ロアクリードは宣言通り治癒魔法を使用する。
人体より臓物を引きずり出しては手遊びする男と、穏やかな面持ちで対価もなく治癒魔法を使う男。よもやそれが同一人物だとは、この場に居ない者は到底思うまい。
リンデア教と連邦国家ジスガランドが認めた王なだけはある。ロアクリード=ラソル=リューテーシーは、まさしく、リンデア教の教皇であり、連邦国家ジスガランドの宗主だった。
誰にも負けぬ圧倒的な強さ、誰にも背かせぬ冷徹さ、誰しもを安堵させる穏やかさ、人を善き未来と導く人道、そして──時には手段を選ばぬ残忍さを併せ持つ、天性の王の器。
それが、ロアクリードなのだ。
(……もう、いやだ。たすけて、だれか。わが、かみ、よ……どう、か……たすけて、くだ、さい)
死にたくても死ねない。そんな絶望の淵で、男は神に祈った。
(ここまでしても口を割らないとは。これだから、中途半端に結束力が高い組織は面倒だ。流石に血の臭いが濃くなってきたし、いくら路地裏といえども、市民に勘付かれるのは時間の問題だな……)
下手に死体を放置すると、これまた問題になりかねないしなぁ。と、ロアクリードは小さくため息を吐いた。
(少し面倒だけど、擬似太陽で焼却するしかないか。多分、この調子だと……情報はいつまでも吐いてくれなさそうだから。誰かに目撃される前に退散しよう)
そこで、彼の視界の端で何かが一瞬煌めいた。
「っ!!」
(──襲撃!)
刹那。ロアクリードが驚異的な身体能力で跳躍して回避すると、彼が居たその地面には、石畳をも溶かす大きな毒針が数本刺さっているではないか。
回避行動の為に手を離したことで、拷問を受けていた男は解放され、腹部を押さえて醜く呻きだした。そちらにも軽く意識を向けつつ、ロアクリードは襲撃者を警戒する。
路地の先から悠々と現れたのは、夜明け色の髪を靡かせる男。彼もまた妖しげな祭服を身に纏っていることから、今しがた拷問より開放された男の仲間だろう。と、ロアクリードは警戒を強めた。
その、祭典の裏で。
「何故、我らの邪魔をする……っ!!」
「虫が自分の周りを飛び回っていたら、誰だって殺すだろう? ……あ。もしかして君達の教義では虫をも慈しむのかい? だとすればごめんよ、決して、君達の信仰を蔑ろにする意図は無かったんだ」
仄暗い路地裏で、腹部より血をどくどくと流す男は顔面蒼白で顎を震えさせていた。その眼前に立つ男は、およそ今しがた己の腹部を素手で貫いたとは思えない程、人好きのする微笑みをたたえている。
(ジスガランド教皇がこの街に滞在しているという話は聞いていたが、何故、よりにもよってこの男が我らに気づいた!? 先生が仰っていた“ネズミ”も、もしやこの男……っ!? くっ、何故、何故! 我らの信仰を阻む者が、よりにもよって────!!)
いかにも妖しげな祭服の下で、男は苦悶に顔を歪めた。
それを穏やかな面持ちの中で冷酷に見下ろして、この場面における全面的加害者たるロアクリードは、
(このままだと、放っておいてもこの男は死ぬ。……だがそれでは些か勿体ないな。一つでも多く情報を吐かせてから殺した方が有意義だ)
よし、拷問しよう。と含み笑いを浮かべた。
その直後。ロアクリードの手がまたもや男の腹部へと伸びて、その内側を素早く穿つ。
「~~~~ッッッ!? ふッ、が、ァ……っ! いッッ────!?」
「しぃーっ……騒がないで? 私とて無闇な殺生は好まない。叶うならば、君を生かして帰してあげたいんだ。だから、ね?」
「~~~~~~~~~~~~ッッ!!」
微笑みながら、ロアクリードは内臓をかき混ぜた。
男は想像を絶する激痛にあえぎ、悶絶するが、ロアクリードに片手間で口を塞がれたものだから、叫び声を上げることすら叶わないのだ。あまつさえ、ロアクリードは男の意識が飛ばないよう微弱な治癒魔法を使用し続けているので、意識を手放して楽になるという逃避すら、男には許されなかった。
「ねぇ。君達は何を企んでいるんだい? それさえ大人しく話してくれたなら、これ以上君を虐めなくて済むんだが……」
「~~~~ッ!! ~~~~ッ!?」
「うーん、困ったな。私は嗜虐趣味という訳ではないし、拷問はあまり好まないのだけど……仕方ないな。これでは駄目だというのなら」
「ッ!? んんーーっ! ン、ンンン~~~~ッ!?」
(──いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ……ッ!!)
あまりの悪寒に背中を滅多刺しにされたのか、涙目で必死に身を捩り、首を横に振るも、ロアクリードは表情一つ変えない。
「ごめんね」
一言。あまりにも短いその言葉の後、彼は、男の腹部から長い管を引きずり出した。びくびくと痙攣する、生温かく赤白い、幼虫のような形状のモノ。
それを鷲掴み、引き千切る勢いで彼は引っ張っていた。
「これ、一度外に出ると大変なんだよね。私も昔、魔族の攻撃を受けてぼろっと出てしまった事があるから分かるよ。治すの大変だったなぁ」
「────────ッッ!!」
「ああごめんよ、また意識が飛びそうになっているね。対精神衝撃の治癒魔法をかけるから、安心しておくれ」
「……! …………!!」
言って、ロアクリードは宣言通り治癒魔法を使用する。
人体より臓物を引きずり出しては手遊びする男と、穏やかな面持ちで対価もなく治癒魔法を使う男。よもやそれが同一人物だとは、この場に居ない者は到底思うまい。
リンデア教と連邦国家ジスガランドが認めた王なだけはある。ロアクリード=ラソル=リューテーシーは、まさしく、リンデア教の教皇であり、連邦国家ジスガランドの宗主だった。
誰にも負けぬ圧倒的な強さ、誰にも背かせぬ冷徹さ、誰しもを安堵させる穏やかさ、人を善き未来と導く人道、そして──時には手段を選ばぬ残忍さを併せ持つ、天性の王の器。
それが、ロアクリードなのだ。
(……もう、いやだ。たすけて、だれか。わが、かみ、よ……どう、か……たすけて、くだ、さい)
死にたくても死ねない。そんな絶望の淵で、男は神に祈った。
(ここまでしても口を割らないとは。これだから、中途半端に結束力が高い組織は面倒だ。流石に血の臭いが濃くなってきたし、いくら路地裏といえども、市民に勘付かれるのは時間の問題だな……)
下手に死体を放置すると、これまた問題になりかねないしなぁ。と、ロアクリードは小さくため息を吐いた。
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路地の先から悠々と現れたのは、夜明け色の髪を靡かせる男。彼もまた妖しげな祭服を身に纏っていることから、今しがた拷問より開放された男の仲間だろう。と、ロアクリードは警戒を強めた。
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