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第五章・帝国の王女

644.Date Story:with Macbethta3

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 きっと苦労して仕入れた花なのだろう。花屋の店主さんがあまりにも必死に客引きを行っていて、その必死っぷりが裏目に出ているようだ。
 あまりの温度感に観衆は体験への意欲を抱けずにいるみたい。ならば、お忍び王女としてその先陣を切ってみせようではないか! と、我こそはとばかりに一歩前へ出た。

「すみません店主さん。何か体験してみたいんですが……」
「‼︎ ありがとうございますッ! ではこちらの席へどうぞ‼︎」

 涙目の店主さんから熱烈な歓迎を受け、案内されたのは店先に設置されていた木製のテーブル。そこに二人で向かい合って座り、一通りの説明を受けた。
 包装も花も本当に全て自分で選べるらしく、まずは包装用の薄紙とリボンを選ぶことに。私は薄桃色の薄紙に赤いリボン(可愛さ重視で選んでみたのだ)。マクベスタは白い薄紙に青いリボンを選んだようだ。普段から身につけているタイも青いし、きっと青色が好きなんだろう。
 そうやって包装を選んだ後はお楽しみの花選びの時間だ。店中から現れた台車では溢れんばかりの珍しい花々が咲き誇っていて、思わず感嘆の息がこぼれた程、壮観だった。

「では、自分は他のお客様のお相手をしておりますので。何かあればいつでもお呼びください。さてさて、この世界でたった一つだけの花束作り、どうか楽しんでください!」

 確かにここは花屋の店先だけども。と、心の中で苦笑しながらツッコんでいるうちに、店主さんは一般客の元へと向かって行った。

「それじゃあ作ってみましょうか、花束」
「……ん。そうだな」

 台車からいくつか花を選んでは、先程の説明通りに束ねていく。長さや大きさが不揃いで苦戦するかと思われたが、そこは流石の花と工芸の国オセロマイト第二王子。マクベスタが鋏片手に慣れた様子であっという間に整えてくれたので、躓くことはなかった。

「それにしても綺麗な花ね。どんな名前なんだろう」

 東方ひいては大陸最大領土の国、連邦国家ジスガランド。その宗主たるリードさんならきっと東方の花にも明るいだろうし、今度名前を聞いてみようかしら。と、検討していたところ。

「その赤い花はレペジウム。白い花はラントウカ。黄色の花はカリス。薄紅の花はシーヨウ……別名に、ラバーリップというものもある」
「へぇ、そうなんだ。流石はマクベスタ。詳しいわね!」
「ンッ…………東方の花は香りが強く、香料向きのものが多い。母が昔、香油作りの為にと様々な花の種を調達し温室で育てていたから、オレもある程度は知っているというだけだ」

 照れ隠しのつもりなのか、マクベスタはあくまでエリザリーナ王妃の受け売りであると言う。謙虚な彼のアドバイスや解説を受けつつ、私は花束作りを進めていった。

「……──よし、できた! ねぇマスベスタ。どうかしら、私の花束は?」

 無事に花束を完成させ、したり顔で見せびらかす。我ながら、随分と可愛い花束になったのではなかろうか。

「うん。よく出来ている。色にも統一感があって、とても愛らしい素敵な花束だと思う」
「えへへ。そうでしょうそうでしょう~! それもこれも貴方のアドバイスのおかげよ!」
「────。そ、そうか。それは、よかった」

 わざとらしい笑顔でそう答えた彼は、目を逸らすように花束へと視線を落とす。

「わあ……マクベスタの花束、とっても綺麗ね! ずっと見ていたいぐらい素敵だわ」

 青や紫、白に黒といった色の花で構成された、清らかな高貴さを感じさせる花束。やはり彼は青色が好きなようだ。

「そうか? ──なら、一つ提案があるんだが……もしよければ、お前の花束とオレの花束を交換しないか?」
「花束の交換は別に構わないけれど、いったいどうして?」
「単なる思い出作りだよ」
「本当に?」

 今日のマクベスタは様子がおかしい。この発言にも裏があるのでは、と訝しむと、彼は観念したように口を開いた。

「…………本音を言えば。恋慕う女性が手ずから選び包んだ花束なんだ──、花を愛する者として。お前に想いを寄せる男の一人として。この世界にただ一つだけの花束を、他の誰にも譲りたくないと思っただけだ」

 耳までほんのりと赤く染めて、マクベスタはまた視線を泳がせた。鳴りをひそめたと思っていたが、攻め様モードは健在らしい。

「そ、そうなのね。こんなもので構わないなら、交換しましょう」
「いいのか? ……ありがとう。一生大事にするよ」
「そんな大袈裟な」
「好きな人から花束を貰えて、喜ばない男などこの世にいないさ」

 マクベスタの花束があまりの完成度なので、恐縮しつつも花束を交換すると、彼は花束を抱えながら幸せそうにはにかんだ。
 受け取った花束を眺めては、その美しさについつい笑みがこぼれてしまうから、マクベスタのことは何も言えないのだけど。

「なにあの初々しいカップル──⁉︎」
「東方の花……だっけ? けっこう可愛いし、花束作りもアリじゃない?」
「ね! せっかくだしやっていかない?」
「珍しい花の花束か。女房に渡せば喜ぶかねぇ」
「てかあの金髪の女の子めっちゃ可愛くね? 俺すげぇタイプなんですけど」
「馬鹿かおまえ、どこからどう見てもイケメン彼氏とのデート中だろうが」
「ちくしょおッッッ‼︎」

 私達が和気藹々と花束作りに励んだ影響か、観衆が次々と花束作り体験への興味を示した。そして我先にと店主さんのもとへ押し寄せ、体験を申し込んでゆく。まさかの展開に、店主さんは嬉しい悲鳴をあげている。

「──花束作り、楽しかったね」
「ああ。帰宅したら、この花が枯れないように生けるから……またいつか見にきてくれ」
「えぇ! その時は是非お邪魔させてもらうわ」

 既に体験料は払っていたので、私達は他のお客様の邪魔にならないようそそくさと退散した。
 そして互いのオリジナル花束を手に、花束作りの感想を言い合いながら残りの時間を楽しんだのであった……。
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