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第五章・帝国の王女
642.Date Story:with Macbethta
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銀髪は目立つので魔法薬で金髪に変えて、簡単に髪型をいじれば準備はオッケー。お互い目立たないよう、質素な衣服に着替えてから集合する。
集合場所は城門近くの木の下。私が到着する頃にはマクベスタは既に到着していた。
初夏ということもあり袖を捲った白いシャツに、青いタイ。彼の長い脚を更に長く見せる黒いパンツの下では、履きなれた様子の革靴が褪せた艶を放っている。いつもはアップバングに整えられている金髪もさらりと下ろされていて、前髪の隙間から見える丸眼鏡が、よりいっそう普段とは違う印象を抱かせてきた。
「おまたせ、マクベスタ!」
「っ! あ、あぁ。オレも今来たばかりだから、さほど待ってないよ」
駆け寄りながら名前を呼ぶと、彼はバッとこちらを振り向き、緊張からか紅潮した頬をふにゃりと綻ばせた。
か──っ、かわいい……! 大型犬のように見えてしまいキュンっとなったのだが、それも束の間。彼の視線があまりにも熱烈で、思わず生唾を呑み込む。
そこでふと、「き、金髪……もしかしてオレを意識して……? っ、どうしよう、動悸が…………」なんて呟きが聞こえてきた気がしたが、遠くから聞こえてきたガサガサ、という物音でそれは掻き消された。きっと、訓練中の騎士が素振りやランニングでもしているのだろう。
「んんッ。その、金髪も……一つに結った髪型も、よく似合ってる。かっっ、可愛いよ。いつも、愛らしいが……今日のその格好もとても可愛らしいと、心から思う」
「ぅえっ? あ、ありがとうございます……。マクベスタはとってもカッコイイよ! いつもと違った魅力がある! と、思います……!」
熱の篭った視線で射抜かれて、思わず声が上ずってしまった。しかも何故か敬語。我ながらテンパリようが凄まじい。
「ふふ、どうして急に敬語なんて使っているんだ。…………もしかして、緊張しているのか?」
と言って、急接近してきたマクベスタが、背を曲げて熱っぽい表情で顔を寄せてくる。
近い。近すぎる。昔は模擬戦とかでこれぐらい、いやもっと接近することだってあったし、当時はなんとも思わなかった。でも今は違う。私もマクベスタもそれなりにいい歳だし、何より彼は私を好きだというのだ。……ひとたびそれを意識してしまえば、もはや平静を装うことなど叶うまい。
──ああっ、やっぱりデートのお誘いなんて受けるんじゃなかった! 開始数分で既に恋愛許容値をオーバーしそうになってる! 恋愛初心者一年生の私にはこんなドキドキ、到底耐えられない……!!
「ぅ~……わるい? 私だって一応女の子なんだから、こういう展開はそれなりに緊張するの! 貴方のせいなんだからね!」
つい、口をついてツンデレみたいな台詞が飛び出してしまった。
「────。それはつまり、オレを男として意識してくれている……ということだろうか」
「え、っと…………」
こちらを覗き込むマクベスタの顔が、まるで期待に満ちた子犬のようだ。だがその太い首も、骨ばった大きな手も、逞しく鍛えられた体も、何もかも全て……子犬とは程遠い獣のようで。
色恋沙汰は何一つとして経験がないからこそ、妄想ばかりが膨れ上がり先走る。こんなにもいやらしいことばかり考えてしまうなんて、はしたないにも程があるわ……!
「……目は口ほどに物を言うとは聞くが、確かにその通りだ。あのアミレスがこんなにも目を泳がせるだなんて。……お前と目が合わないのはかなり寂しいが、それだけオレを意識してくれているのだと思うと──たまらなく嬉しいよ」
そう言って、彼は微笑みながら一歩下がり、
「そろそろ街に行こうか。さあ、アミレス……お手をどうぞ」
改まった様子で手を差し出してきた。
質素な服を着ていても隠し切れない王子様オーラが、本調子じゃない私の頭を少し宥めてくれる。
エスコートといえば社交。社交といえばそうっ、仕事! (※私調べ)──ならばこの、ピンク色のお花畑な気持ちも簡単に切り替えられよう。いよぅーしっ、なんとか耐えられる気がしてきた!
「ごほんっ……ええと、それじゃあエスコートよろしくお願いしま──っ!?」
手を差し出したところで、突然ぐいっとそれを引っ張られた。体勢を崩した私が辿り着くのは、この手を引き寄せた彼の胸元で。
「このような真似は紳士の風上にも置けないとは思うが、生憎とあまり余裕が無くてな。きっとお前のことだから、『エスコートなんて社交活動みたいなものだし、別に緊張しなくていいよね!』とか思っているんだろう? …………すまないな。オレとしては、意識してもらわないと困るんだ」
私の腰を抱き寄せ、彼は耳元で囁く。
「だから、少しばかり強引にいかせてもらうよ。正直恥ずかしいし、柄ではないが……積極的にならねばお前には意識すらして貰えないからな。頑張ろうと思う」
「……っ! ……! ぁう……、ぁ……!」
パクパクと、空気を欲するかのようにあえぐ。何か言葉を、と思ってもそれが何も出てこないのだ。
目がぐるぐると回るよう。近くで謎の物音が聞こえたが、もはやそれを気にする余裕など無く。私はただひたすらに、マクベスタの猛烈なアプローチに怯んでいた。
私の知ってるマクベスタじゃない。ゲームの、恋に落ちた彼はもっとどぎまぎしてたのに。こんな、こんな──……グイグイくるマクベスタなんて、知らない。
いったい、彼の心境にどんな変化があったというの……!?
集合場所は城門近くの木の下。私が到着する頃にはマクベスタは既に到着していた。
初夏ということもあり袖を捲った白いシャツに、青いタイ。彼の長い脚を更に長く見せる黒いパンツの下では、履きなれた様子の革靴が褪せた艶を放っている。いつもはアップバングに整えられている金髪もさらりと下ろされていて、前髪の隙間から見える丸眼鏡が、よりいっそう普段とは違う印象を抱かせてきた。
「おまたせ、マクベスタ!」
「っ! あ、あぁ。オレも今来たばかりだから、さほど待ってないよ」
駆け寄りながら名前を呼ぶと、彼はバッとこちらを振り向き、緊張からか紅潮した頬をふにゃりと綻ばせた。
か──っ、かわいい……! 大型犬のように見えてしまいキュンっとなったのだが、それも束の間。彼の視線があまりにも熱烈で、思わず生唾を呑み込む。
そこでふと、「き、金髪……もしかしてオレを意識して……? っ、どうしよう、動悸が…………」なんて呟きが聞こえてきた気がしたが、遠くから聞こえてきたガサガサ、という物音でそれは掻き消された。きっと、訓練中の騎士が素振りやランニングでもしているのだろう。
「んんッ。その、金髪も……一つに結った髪型も、よく似合ってる。かっっ、可愛いよ。いつも、愛らしいが……今日のその格好もとても可愛らしいと、心から思う」
「ぅえっ? あ、ありがとうございます……。マクベスタはとってもカッコイイよ! いつもと違った魅力がある! と、思います……!」
熱の篭った視線で射抜かれて、思わず声が上ずってしまった。しかも何故か敬語。我ながらテンパリようが凄まじい。
「ふふ、どうして急に敬語なんて使っているんだ。…………もしかして、緊張しているのか?」
と言って、急接近してきたマクベスタが、背を曲げて熱っぽい表情で顔を寄せてくる。
近い。近すぎる。昔は模擬戦とかでこれぐらい、いやもっと接近することだってあったし、当時はなんとも思わなかった。でも今は違う。私もマクベスタもそれなりにいい歳だし、何より彼は私を好きだというのだ。……ひとたびそれを意識してしまえば、もはや平静を装うことなど叶うまい。
──ああっ、やっぱりデートのお誘いなんて受けるんじゃなかった! 開始数分で既に恋愛許容値をオーバーしそうになってる! 恋愛初心者一年生の私にはこんなドキドキ、到底耐えられない……!!
「ぅ~……わるい? 私だって一応女の子なんだから、こういう展開はそれなりに緊張するの! 貴方のせいなんだからね!」
つい、口をついてツンデレみたいな台詞が飛び出してしまった。
「────。それはつまり、オレを男として意識してくれている……ということだろうか」
「え、っと…………」
こちらを覗き込むマクベスタの顔が、まるで期待に満ちた子犬のようだ。だがその太い首も、骨ばった大きな手も、逞しく鍛えられた体も、何もかも全て……子犬とは程遠い獣のようで。
色恋沙汰は何一つとして経験がないからこそ、妄想ばかりが膨れ上がり先走る。こんなにもいやらしいことばかり考えてしまうなんて、はしたないにも程があるわ……!
「……目は口ほどに物を言うとは聞くが、確かにその通りだ。あのアミレスがこんなにも目を泳がせるだなんて。……お前と目が合わないのはかなり寂しいが、それだけオレを意識してくれているのだと思うと──たまらなく嬉しいよ」
そう言って、彼は微笑みながら一歩下がり、
「そろそろ街に行こうか。さあ、アミレス……お手をどうぞ」
改まった様子で手を差し出してきた。
質素な服を着ていても隠し切れない王子様オーラが、本調子じゃない私の頭を少し宥めてくれる。
エスコートといえば社交。社交といえばそうっ、仕事! (※私調べ)──ならばこの、ピンク色のお花畑な気持ちも簡単に切り替えられよう。いよぅーしっ、なんとか耐えられる気がしてきた!
「ごほんっ……ええと、それじゃあエスコートよろしくお願いしま──っ!?」
手を差し出したところで、突然ぐいっとそれを引っ張られた。体勢を崩した私が辿り着くのは、この手を引き寄せた彼の胸元で。
「このような真似は紳士の風上にも置けないとは思うが、生憎とあまり余裕が無くてな。きっとお前のことだから、『エスコートなんて社交活動みたいなものだし、別に緊張しなくていいよね!』とか思っているんだろう? …………すまないな。オレとしては、意識してもらわないと困るんだ」
私の腰を抱き寄せ、彼は耳元で囁く。
「だから、少しばかり強引にいかせてもらうよ。正直恥ずかしいし、柄ではないが……積極的にならねばお前には意識すらして貰えないからな。頑張ろうと思う」
「……っ! ……! ぁう……、ぁ……!」
パクパクと、空気を欲するかのようにあえぐ。何か言葉を、と思ってもそれが何も出てこないのだ。
目がぐるぐると回るよう。近くで謎の物音が聞こえたが、もはやそれを気にする余裕など無く。私はただひたすらに、マクベスタの猛烈なアプローチに怯んでいた。
私の知ってるマクベスタじゃない。ゲームの、恋に落ちた彼はもっとどぎまぎしてたのに。こんな、こんな──……グイグイくるマクベスタなんて、知らない。
いったい、彼の心境にどんな変化があったというの……!?
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