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第五章・帝国の王女
638.Main Story:Ameless2
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結局、ディオ達にユーキ達の居場所は教えなかった。……教えるタイミングがなかったというのが正解だろうか。
あの後、巡回中だったディオラクは仕事に戻り、実はデート中だったらしいロイとミシェルちゃんを二人きりにして、私は予定通りユーキ達の新居の下見に向かった。
「……アミレス王女。ユーキは元気ですか? ちゃんと食事はしてますか? 適度な運動をしてますか? ユーキの敵は殺し尽くしてくれていますか?」
「ちょっ……どうしたの急に。なんの話か分からないのだけど」
話の流れで同行することになったセインカラッドが真顔で捲し立てたものだから、その横顔を見上げ、すっとぼける。
しかし、セインカラッドは確信があるかのように続けた。
「ユーキが頼りそうな人間はオマエ──んんッ、アミレス王女しかいない。アイツが無計画に家出なんて行動に出るとは思えないし、となれば何かしらのアテがあるからこそ行動を起こしたと考えるべきだろう。故に、貴殿のもとにユーキ……とその義兄弟達がいるのだろうと、オレは推測したのです」
圧巻の推理力に思わず息を呑む。
「ユーキの行動には必ず何か意味がある。だから先程はオレも沈黙を貫きました。オレの言動がアイツの目的の妨げになってはならないので」
「…………まあ、そうですね。ユーキ達は私の宮殿にいますよ。元気なのでご安心を」
「オレには詳らかにしてくださるのですね」
「ユーキに口止めされていたのは、先程の彼等にだけですから」
「成程。やはり、アナタに着いてきて正解だったようだ」
言って、セインカラッドの表情は少しだけ柔らかくなった。
……少しは仲良くなれたということなのだろうか。彼がフォーロイト帝国とフォーロイト一家を憎んでいたのはどうやら勘違いによるものだったと、ユーキから聞いていたが……本当に、私への態度が変わりまくっているわね。そして何やら、少しは信用されたような気もする。
ユーキの居場所を教えたからかしら……。
彼がそこまでユーキに執着していたとは──と、ゲームでも出てこなかった情報に何度目かも分からない驚愕を覚える。親友を攫った男達がフォーロイトの人間だと思ったからフォーロイト帝国を憎んでいる、なんて情報……ゲームで出てこなかったのがおかしいぐらいだもの。
♢♢
「へっ……ぶッすぉんッッ! ッぁあ~~い…………くそ、どこの誰が僕を侮辱してんだ?」
「相変わらずの豪快なくしゃみだな。ユーキのくしゃみは聞いていて元気が出る」
「シャル兄、どんな異常性癖──いや、この天然は本気でそう思ってるんだよなぁ……」
東宮の裏庭にて、ユーキとシャルルギルが薬草をすり潰していた時。ふと、ユーキの鼻をムズムズと刺激する何かが訪れた。
その美貌にそぐわない漢らしいくしゃみにシャルルギルが感心していると、その時、彼等の傍でごろりと寝転がり日向ぼっこに興じていたジェジに異変が生じる。
「んにゃ……む、ふぁ、へぷちゅんっ!」
耳と尻尾をぶわっと尖らせ、ジェジも控えめなくしゃみを解き放つ。
「フフ。ジェジもユーキのくしゃみに釣られたのか。ジェジはくしゃみまで可愛いな」
「にゃー……オレ、ちょーカッコイイ狼なんだけどなあ…………」
「俺はいいと思うぞ。ジェジはメアリーと俺と同じくらい可愛いからな」
「メアリーはともかく。シャルにぃのこと本気で可愛いって思ってるの、ラークにぃとひめさまぐらいだぞお」
ジェジの言葉に、ツッコミを諦めたユーキが何度も頷く。深く深く頷く。
「? 俺は可愛いだろう。天使だぞ? しかもえらくて天才なんだぞ?」
「ちょっと何言ってるかわかんないにゃあ」
「ジェジこそ何を言っているんだ。俺はこんなに可愛いのに…………」
ラークとアミレスによって自己肯定感をすくすくと育てられたシャルルギルは、己が可愛いと信じて疑わない。
弩級の天然によるド天然発言に、ユーキとジェジは大袈裟にため息を吐き出した。
♢♢
ユーキの居場所を把握できてほくほく顔のセインカラッドとも途中で別れ、ユーキ達の新居にて各部屋のスペース計測を終えた私達は、相変わらず大盛り上がりの祭りの中、その見物がてら徒歩で帰宅する。
「ルティ」
「は。此処に」
「例の件は、どんな感じかしら」
大通りからは少し逸れた小道で足を止め、眩く華やかな祭りに視線を固定したまま、訊ねる。
「裏市場にて、怪しげな動きをしている者が何名か。わざわざいくつもの商団、商会、果てには旅商人をも経由し、東方の素材を帝国に持ち込んだ模様。俺の記憶が正しければ、あれらは全て爆薬の素材となり得ます。一覧にしておりますので、後で東方より取り寄せた各種書籍と共に提出します」
「ありがとう、ルティ。流石だわ。……あえて無駄な工程を挟むことで、こちらの認識の裏をかこうとしたのね。犯罪者がわざわざ足がつくような真似をするなんて、普通は思わないもの」
うちの執事兼諜報員が優秀すぎたから、奴等の小細工は無駄となったわけだけど。
「帝都内に点在する容疑者一味の拠点は全て特定済です。叩こうと思えば、いつでも。ご命令のままに」
「……もう少し泳がせましょう。容疑者一味が既に爆薬を作っているとも限らないし、もし拠点を潰してもそこに爆薬の実物が無ければ、奴等に言い逃れる隙を与えてしまうことになるわ」
「では引き続き監視を行い、爆薬の製造を確認次第摘発する流れでよろしいでしょうか」
「そうね。とりあえずはそれで進めましょう。監視任務は貴方に任せるけれど……絶対、無理だけはしちゃだめよ?」
「! 従僕めには勿体ないお言葉です。主君の気を揉むような結果にならぬよう、心掛けます」
アルベルトは子供のようにふにゃりと笑い、恭しく頭を垂れた。
帝国組の共通ルートで発生した、建国祭での大規模テロ事件。その事件によりメイシアは最終的に自決に追いやられ、民にも大小様々な被害が及ぶ。
ゲームにおいては、皇室に恨みを持つ集団が祭りを壊す為に暴れ回り、果てには爆破事件まで起こしたのだが──どうすればこれを阻止出来るだろうか。
そう、考えて。アルベルトに調査をしてもらった訳で。確実に危険因子を排する為には絶対的な証拠が必要だ。だがそれを得る為には、まだ、足りないのだ。
あの後、巡回中だったディオラクは仕事に戻り、実はデート中だったらしいロイとミシェルちゃんを二人きりにして、私は予定通りユーキ達の新居の下見に向かった。
「……アミレス王女。ユーキは元気ですか? ちゃんと食事はしてますか? 適度な運動をしてますか? ユーキの敵は殺し尽くしてくれていますか?」
「ちょっ……どうしたの急に。なんの話か分からないのだけど」
話の流れで同行することになったセインカラッドが真顔で捲し立てたものだから、その横顔を見上げ、すっとぼける。
しかし、セインカラッドは確信があるかのように続けた。
「ユーキが頼りそうな人間はオマエ──んんッ、アミレス王女しかいない。アイツが無計画に家出なんて行動に出るとは思えないし、となれば何かしらのアテがあるからこそ行動を起こしたと考えるべきだろう。故に、貴殿のもとにユーキ……とその義兄弟達がいるのだろうと、オレは推測したのです」
圧巻の推理力に思わず息を呑む。
「ユーキの行動には必ず何か意味がある。だから先程はオレも沈黙を貫きました。オレの言動がアイツの目的の妨げになってはならないので」
「…………まあ、そうですね。ユーキ達は私の宮殿にいますよ。元気なのでご安心を」
「オレには詳らかにしてくださるのですね」
「ユーキに口止めされていたのは、先程の彼等にだけですから」
「成程。やはり、アナタに着いてきて正解だったようだ」
言って、セインカラッドの表情は少しだけ柔らかくなった。
……少しは仲良くなれたということなのだろうか。彼がフォーロイト帝国とフォーロイト一家を憎んでいたのはどうやら勘違いによるものだったと、ユーキから聞いていたが……本当に、私への態度が変わりまくっているわね。そして何やら、少しは信用されたような気もする。
ユーキの居場所を教えたからかしら……。
彼がそこまでユーキに執着していたとは──と、ゲームでも出てこなかった情報に何度目かも分からない驚愕を覚える。親友を攫った男達がフォーロイトの人間だと思ったからフォーロイト帝国を憎んでいる、なんて情報……ゲームで出てこなかったのがおかしいぐらいだもの。
♢♢
「へっ……ぶッすぉんッッ! ッぁあ~~い…………くそ、どこの誰が僕を侮辱してんだ?」
「相変わらずの豪快なくしゃみだな。ユーキのくしゃみは聞いていて元気が出る」
「シャル兄、どんな異常性癖──いや、この天然は本気でそう思ってるんだよなぁ……」
東宮の裏庭にて、ユーキとシャルルギルが薬草をすり潰していた時。ふと、ユーキの鼻をムズムズと刺激する何かが訪れた。
その美貌にそぐわない漢らしいくしゃみにシャルルギルが感心していると、その時、彼等の傍でごろりと寝転がり日向ぼっこに興じていたジェジに異変が生じる。
「んにゃ……む、ふぁ、へぷちゅんっ!」
耳と尻尾をぶわっと尖らせ、ジェジも控えめなくしゃみを解き放つ。
「フフ。ジェジもユーキのくしゃみに釣られたのか。ジェジはくしゃみまで可愛いな」
「にゃー……オレ、ちょーカッコイイ狼なんだけどなあ…………」
「俺はいいと思うぞ。ジェジはメアリーと俺と同じくらい可愛いからな」
「メアリーはともかく。シャルにぃのこと本気で可愛いって思ってるの、ラークにぃとひめさまぐらいだぞお」
ジェジの言葉に、ツッコミを諦めたユーキが何度も頷く。深く深く頷く。
「? 俺は可愛いだろう。天使だぞ? しかもえらくて天才なんだぞ?」
「ちょっと何言ってるかわかんないにゃあ」
「ジェジこそ何を言っているんだ。俺はこんなに可愛いのに…………」
ラークとアミレスによって自己肯定感をすくすくと育てられたシャルルギルは、己が可愛いと信じて疑わない。
弩級の天然によるド天然発言に、ユーキとジェジは大袈裟にため息を吐き出した。
♢♢
ユーキの居場所を把握できてほくほく顔のセインカラッドとも途中で別れ、ユーキ達の新居にて各部屋のスペース計測を終えた私達は、相変わらず大盛り上がりの祭りの中、その見物がてら徒歩で帰宅する。
「ルティ」
「は。此処に」
「例の件は、どんな感じかしら」
大通りからは少し逸れた小道で足を止め、眩く華やかな祭りに視線を固定したまま、訊ねる。
「裏市場にて、怪しげな動きをしている者が何名か。わざわざいくつもの商団、商会、果てには旅商人をも経由し、東方の素材を帝国に持ち込んだ模様。俺の記憶が正しければ、あれらは全て爆薬の素材となり得ます。一覧にしておりますので、後で東方より取り寄せた各種書籍と共に提出します」
「ありがとう、ルティ。流石だわ。……あえて無駄な工程を挟むことで、こちらの認識の裏をかこうとしたのね。犯罪者がわざわざ足がつくような真似をするなんて、普通は思わないもの」
うちの執事兼諜報員が優秀すぎたから、奴等の小細工は無駄となったわけだけど。
「帝都内に点在する容疑者一味の拠点は全て特定済です。叩こうと思えば、いつでも。ご命令のままに」
「……もう少し泳がせましょう。容疑者一味が既に爆薬を作っているとも限らないし、もし拠点を潰してもそこに爆薬の実物が無ければ、奴等に言い逃れる隙を与えてしまうことになるわ」
「では引き続き監視を行い、爆薬の製造を確認次第摘発する流れでよろしいでしょうか」
「そうね。とりあえずはそれで進めましょう。監視任務は貴方に任せるけれど……絶対、無理だけはしちゃだめよ?」
「! 従僕めには勿体ないお言葉です。主君の気を揉むような結果にならぬよう、心掛けます」
アルベルトは子供のようにふにゃりと笑い、恭しく頭を垂れた。
帝国組の共通ルートで発生した、建国祭での大規模テロ事件。その事件によりメイシアは最終的に自決に追いやられ、民にも大小様々な被害が及ぶ。
ゲームにおいては、皇室に恨みを持つ集団が祭りを壊す為に暴れ回り、果てには爆破事件まで起こしたのだが──どうすればこれを阻止出来るだろうか。
そう、考えて。アルベルトに調査をしてもらった訳で。確実に危険因子を排する為には絶対的な証拠が必要だ。だがそれを得る為には、まだ、足りないのだ。
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