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第五章・帝国の王女

635.Side Story:Others

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「ウワーーッ! 六人目の犠牲者が!!」
「そして即座に七人目の犠牲者候補が男に向かって行くぞ!!」
「あの男……女相手になんて容赦がねぇんだ……」
「ところでアレってなんの喧嘩?」
「さあ……?」
「そういえばあの男、ここ暫く毎日西部地区に来てる不審者じゃねぇか? ほら、なんかを捜してる……みたいな。嫁が前に言ってた気がする」
「へー」

 活気溢れる西部地区で起きた謎の乱闘騒ぎは、住民達を大いに困惑させた。ここ数年でぐんと治安が良くなったとはいえ、未だ民度はまちまちなこの地区では、このような騒ぎも決して珍しくはない。
 ただ、渦中にいるのが、非力な女達と国教会の信徒なので、住民達は状況を上手く理解出来ずにいた。

「──祭りだってのに乱闘騒ぎ起こしてやがるのはどこのどいつだ!?」
「はぁいどうもー、西部地区自警団統括、王女直属私兵団です。問題を起こしたのは誰かな?」

 丁度近くを巡回中だったのか、ディオリストラスとラークが私兵団の制服を靡かせ駆けつける。
 西部地区の管理責任者となったアミレス直属の私兵ということもあり、王女直属私兵団はこの地区において絶大な発言力と存在感を持つ。
 元々この地区では良くも悪くも有名だったディオリストラス達は、今や西部地区の顔役となりつつあるのだ。

「ディオ達が来てくれたぞ!」
「ラーク! 後は頼んだー!」
「じゃあもう放っておいても大丈夫ね。坊や、行きましょ」
「えー! ぼくディオ達のカッコイイところ見ていたいー!!」
「クラリスさんは今日は休みなのかぁ……残念……帰ろ……」
「ラーク~~~~っ! 今日もイケメンね~~! 抱いて~~~~!!」
「この女狐ッ! ラークはアンタなんかに興味無いわよ!!」
「はぁ~~? あなたみたいなメス犬にも興味無いと思うけど~~?!」

 西部地区の住人達から大人気の私兵団。『ユーキ様親衛隊ファンクラブ』があるユーキは勿論のこと、揃いも揃って顔面偏差値が高い彼等は、いつしか西部地区のアイドル的存在となっていた。
 しかし、こうして騒がれるのがあまり好きではないディオリストラス達は黄色い声援を無視して、乱闘騒ぎの渦中へと飛び込む。

「セイン、とにかく落ち着いてよ~~……っ」
「ミシェルの言葉を無視するなよバカセイン! 殺っ──ぶん殴るぞ!!」

 乱闘からほんの少し離れた場所に、涙目で治癒魔法を使用する少女と、そんな少女の横で火魔法を使用せんとする少年がいた。

(ん? あのガキ共……確かあの日・・・もここに来ていたような──)
(国教会の祭服、ということは親善使節か……)

 ミシェルとロイの姿に既視感を覚えつつ、二人は目配せして軽く頷いた。
 ラークはミシェル達の元へ向かい、「少し離れていてね」と二人をその場から遠ざけ、もしもの時に備えて子供達の前に立つ。そしてディオリストラスはその手に風を集め、

「テメェ等! 一旦落ち着け!!」

 空気砲のように解き放った。風魔法として解き放たれたそれは、もはや暴風と言ってもさしつかえのない代物となっており、乱闘騒ぎを起こしていた男女を等しく空へと打ち上げてしまったのだ。

「「「「「「「きゃあああ~~っ!?」」」」」」」
「ッ?!」

 宙に放り出された女達が叫ぶ。流石のセインカラッドもこれにはぎょっと瞬く。

(あっ。やっべぇ、魔法使うの久々だったから出力間違えた)
「──ラーク!!」
「分かってるよッ!」

 女の数は七人。対するこちらは二人。どう考えても人手が足りない。

(ジャンプして空中で両脇に抱えたとして、それでも二人が限界だ! 絶対に何人かは落ちる!!  一か八か風で──っ、無理だ! また出力を間違えて事故る・・・予感しかしねぇ!)

 跳躍姿勢に入りながらも、焦りからかディオリストラスの頬には汗が滲む。彼の意図を察し、ラークもまたどうにかして彼女等を救出しようとしているが、彼の魔力は火。この場面においてはまったく役に立たない。
 最大で四人救うことは出来ても、残りの三人|(とセインカラッド)は救えない。それでもやれる限りのことをやるしかないのだと、彼等は最善を尽くした。

「ッすまねぇ……!!」
「ごめんよ──!」

 ほぼ同時に謝罪を口にして、ディオリストラス達はそれぞれ二人ずつ女を抱えた。まあまあ人間離れした無茶ではあるが、これもララルス家より派遣された元魔法騎士という経歴を持つ男、キールによる地獄の特訓の成果だろう。
 彼等は最善を尽くした。それにより四人の女の安全が確保されたのだから。だが、三人|(とセインカラッド)は見捨ててしまった。──そう、二人が奥歯を噛み締めた瞬間。

「──人助けしようとして空回りするところ……全然変わらないね」

 地面より這い出た影の手が、宙にて二人の女を搦め取る。そして、最後の一人をお姫様かのように抱えて軽やかに着地し、その青年は呟く。
 光を呑み込む黒髪に、儚げな灰色の瞳。黒衣に身を包んだ穏やかな面持ちの青年を見て、ディオリストラス達は目を丸くした。
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