だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
712 / 792
第五章・帝国の王女

633,5.Interlude Story:Sylph

しおりを挟む
 先日、『六月四日には絶対に帰る』とアミィと約束した。だから何があっても絶対に、その日までには人間界に行こうって。そう決めていたのに。
 神々が、またボクの邪魔をした。

 ──妖精との一件の後。諸々の事後処理に追われ、暫く精霊界で仕事三昧だったある日。
 突如として、天界から神々が降りて来やがった。
 太陽の神サニエールル、賭博の神アリン、鏡の神グラッセン、地底の神マンテラウト。四柱の神のうち三柱は、精霊界へのを与えるやいなや『こんな魔力臭い世界にいられるか』と、とんぼ返りした。
 格下いびりが生き甲斐な小物、太陽神サニエールルのみが居残り、最上位精霊を集めて憂さ晴らしをしているのだ。

 太陽神サニエールルが好き勝手に暴れ、そしてぺちゃくちゃとクソどうでもいいことを喋り倒している隙に、最上位精霊達に命じてフリザセアをアミィの元に送り出したりと、ボクはボクに出来るだけの策を弄したのであった。


 ♢


「──あっはっはっはっ! すました顔した人形が無様にひれ伏してやがる! はは! あっはっはっはっ、いい気味だ!!」
「…………」

 星見の間の中心で偉そうにふんぞり返るのは、太陽神サニエールル。その足元にて、ボクは跪き頭を垂れていた。
 血の気の多い最上位精霊達が今にも暴れ出しそうだが、もしそうなれば神々に余計な口実を与えることになると分かっているので、皆等しく、平伏する。
 中にはあのアホに気づかれないよう、体で隠して中指を立てたり、舌打ちをしたり、歯軋りしたり、射殺すように睨んだりしている者もいる。本当に血気盛んだな最上位精霊は……危なっかしい……。

「オマエ、本当に目障りなんだよ。オレ達に創られた存在のくせに、生意気だ」
「…………」

 いけ好かない神々と会話するなんて御免だ。返事をせず黙って時が過ぎるのを待っていた。
 自己中心的な太陽神サニエールルはどう返事しても、自分の気に入る答えでなければ満足しない。そしてそんなもの、この世に存在しない。なので、答えるだけ無駄だと口を閉ざした──のだが。
 どうやらこの判断は悪手だったようだ。太陽神サニエールルは舌打ちののち、垂らしたボクの頭に勢いよく足を乗せ、床へと押しつけた。

「くくっ、あっはっはっはっ! ごめんなぁ~~、顔だけが取り柄の精霊の顔、傷つけちゃったみたいだ」
「…………」
「痛いか? 苦しいか? 悔しいか? ホラホラ、なんとか言えっ」
「…………」
「だんまりかよ。相変わらず気に食わないな、オマエは!」

 反応が一切無いのが相当面白くないのか、太陽神サニエールルは次にボクの頭を強く蹴る。
 痛み。苦しみ。そんなものはボクに存在しない。ボクを創る時、お前達がくれなかったものだからな。

 ああ、でも。今はとても……心が苦しいよ。アミィとの約束を破ってしまったことが、本当に心苦しい。アミィを傷つけてしまったことが、何よりもボクの心を揺るがす。
 フリザセアは上手くやってくれたかな。叶うならこの口で直接アミィに謝りたいけれど……ボクが姿を消せば、バカな太陽神サニエールルでも流石に気づくだろう。
 だからどうしてもそれは出来ない。端末ねこを人間界に送る案も考えたけれど、やはりボクが下手な動きを見せて、もしもそこからアミィとの関係を詰められたら……アミィに危害が及びかねない。

「…………あいたいな」

 ぽつりと、言葉がこぼれ落ちてしまう。
 あとでたくさん、アミィに謝ろう。お詫びも埋め合わせもたくさんして、もう二度と約束は破らないって、そう約束するんだ。

「あ? 今、何か言っただろ? 『痛い』って言ったかぁ~~?」

 小物──太陽神サニエールルが嬉々としてボクの顔を覗き込んでくる。
 大地を割れそうな程の怒りをぐっと堪え、その顔に唾を吐きたい気持ちをぐぐっと抑え、呼吸を整えてから、口を開く。

「──そんなにボクにばかり構ってていいのか。また嫁が荒れ狂っても知らないぞ」
「っっ!?」

 太陽神サニエールルの嫁、狩猟の神ハナーラ。
 彼女はクソばかりの神々の中でも比較的善良な神で、数千年前にコイツがボクを襲おうとした時それを知って怒り狂い、百八日間、太陽神サニエールルの首を狩るべく追いかけ回したとか。
 偉ぶるくせに嫁の尻に敷かれてるダッサイ男なのだ。この小物は。

「~~~~っ! この……ッ! クソが!!」

 いかにも小物らしい捨て台詞を吐いて、太陽神サニエールルは天界へと戻って行った。
 奴の気配が完全に無くなった途端、

「失せろーーーーーーッ!!」
「二度と来るな!!!!」
「帰れ!!」
「バーカバーカ!」
「死ねどす!」
「二度と現れんなクソジジィ!!」
「うっっっっっっざいんですけど!」
「マジで超キモい~~っ」
「キッッッッッッッッッッッツ!!」
「死ね!!」
星空ソラの彼方に消えろ!」
「塵一つ残らず死んでくれーーーーっ!!」
「嫁に殺されてしまえ!!」

 水を得た魚のように、最上位精霊達が顔を上げては一斉に怒りを叫ぶ。
 野次がすごいな。

「はぁ……やっと帰ったか。いつまで居座るんだよクソジジイ。アイツのせいで色々と予定が狂った……」

 体を起こし、体勢を変えて一息つく。片膝を立てて頬杖をついていると、凄まじい勢いで飛んでくる奴が。

「王よ!! 嗚呼……っ、貴方のご尊顔と御身体に傷が! ──忌まわしき神め、この手で終焉おわらせてやる……ッ!!」
「待てフィン。早まるな。お前が暴れたらそれこそ終末戦争になる」
「終末戦争、大いに結構です。血湧き肉躍るようだ」
「「「「「「「「終末戦争! 終末戦争! 終末戦争! 終末戦争!!」」」」」」」」
「もうやだコイツ等」

 血気盛んすぎる最上位精霊達が、血走った目で拳を突き上げる。
 手の甲で鼻血を拭いながらため息を吐くと、エンヴィーが四つん這いでスススッ……と接近してきた。

「我が王。フリザセアはまだ戻って来てませんが、姫さんのところに行きますか?」
「……今頃、向こうは真夜中だろう。行ってもアミィは寝ているだろうし、それにこの有様だ。血塗れの顔面で現れたら、アミィに余計な心配をかけかねない」
「じゃあ夜が明けてから行くってことでいいですかね」
「ああ。それまでにコイツ等を落ち着かせないと」
「ハハ……骨が折れそうっすねぇー……」

 今にも天界へ殴り込みカチコミに行きそうな熱気の最上位精霊達。「神々ぶっ殺すぞぉおおおおおおおおっ!!」「殺す!」「鏖殺おうさつじゃあああ!」と騒ぐ部下達を見渡し、ボクは深く項垂れた。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく…… (第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...