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第五章・帝国の王女
630.Date Story:with Freedoll3
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「まず初めに。古臭い言い回しにより、お前の部下を貶した……ような結果になったことを謝罪する。これは僕の非だ。悪かった。──だが、僕にそのような差別的意図が無かったということも、弁明させろ」
「……では、どのような意図であんな言葉を?」
「──男は皆、獣だ。ひとたび情欲に侵されては女を汚すまで止まれない。世の中には下半身で物事を考える者まで居るという……男と一つ屋根の下など、いつ襲われても文句は言えないだろう? だから、男を──……獣を傍に置くなと。そう、伝えたかったのだが。どうやらこの言い回しが誤解を生んだらしい」
「え、と…………」
予想外の弁明に、思わず言葉を失う。
つまりフリードルは……普通に私の貞操を案じて、普通に忠告してくれたということ? それなのに私は勝手に深読みして、勘違いして、勝手に怒って詰め寄ったの? ────最低だ。
「ごっ……ごめんなさい!! 私、勝手に勘違いして……兄様のことを一方的に悪者扱いした! 差別だなんだと誤った解釈をすること自体が、獣人への冒涜なのに…………っ」
言ってるうちに声が震えてくる。
よく考えてみれば分かることだった。フリードルが私の部下一人一人の個人情報を知る筈がないのに。早とちりで、一番辿り着いてはいけない発想に至ってしまった。
勘違いで人を糾弾しておきながら、私自身がその差別的思考を捨てられていなかっただなんて。
最低だ。最悪だ。こんな私に人を責める権利なんて無いのに……フリードルを責めてしまった。そして謝罪させてしまった。
自分の冒した過ちに気づき、泣きそうになる。──何を泣こうとしてるんだこの馬鹿! 私に泣く資格なんて──……被害者面する資格なんて、一切無いじゃない!!
「おい、どうしたんだ。あれは僕の言葉選びにも問題があった。お前一人がそこまで馬鹿正直に思いつめるようなことでは……」
「でも……兄様を理不尽に責めてしまって……っ」
「僕にも非があったし、そも僕は気にしていない。だから子供のように感情を暴れさせるのを──いや。違うな。直球で言わなければならないのだった」
わざとらしく咳払いして、彼は背を曲げた。私の頬に手を置きゆっくりと顔を持ち上げ、
「……──泣くな。僕には、お前の涙を止める方法など分からないんだ。不甲斐ない兄の為に、お前はいつまでも笑っていてくれ」
柔らかく細めた目で視線を合わせ、そう告げてきた。
氷のように冷たい絶対零度の男が出せる、精一杯の温もり。不器用な彼らしいその優しさをこうして向けられて、私はようやく理解した。認めざるを得なくなった。
──彼は、本当に私達のことを愛しているのだと。
この不器用な溺愛は……彼を攻略した者にしか与えられない特権だから──……。
♢♢♢♢
「……本日は、ご迷惑をおかけしました」
夕暮れ時。私は東宮の前で天井のない気まずさに襲われていた。
あの後結局フリードルに慰められ、すごく我慢したから泣きはしなかったものの、彼には随分と気を遣わせてしまった。それがもういたたまれなくて。
「あれしきのこと、迷惑のうちにも入らん。妹を導くのは兄の役目だろう……これもまた僕の務めというだけだ」
「……ソウ、デスカ。アリガトウ、ゴザイマス」
「? なんだその妙な距離感は」
銀髪に戻ったフリードルが、伊達眼鏡の奥で眉を顰める。
「兄様は、私のことを愛してらっしゃる……のですよね」
「そうだな。僕はお前を愛している。ようやく理解したか」
「それは、その……兄として、ですか? それとも、えっと……異性として?」
自分でも相当おかしなことを聞いている自覚はある。だが彼は、私にしか欲情しないとかとんでもない発言をした前科があるのだ。なので、一度きちんと確認しておかねば後に苦労すると、今確信した。
「このような場所でする話ではないと心底思うが…………お前が知りたいのであれば、特に答えてやろう」
またもや、ずい、と顔を寄せてきて、私の耳元で彼は囁く。
「……──その両方だ。僕はお前を妹として愛しているし、お前の異性としての魅力に虜にされている。眠れぬ夜はお前を想い己を慰める程に、な」
妙に色っぽい声が答えを紡ぐ。……やはりこの男はおかしい。何故こうも臆面なく、妹を異性として愛してるなどと言えるのか。
「理解は深められたか」
「……ハイ。ありがとうございました」
「────。僕は存外、独占欲が強いらしい」
「えっ?」
急に何の話?
「お前のその、紅く恥じらう表情……他の誰にも見せたくないと、不意にそう思ってしまった」
「っ!?」
面と向かってそんなことを言われてしまえば、誰だって恥ずかしくなるだろう。ぶわっと顔に熱が集まるのがわかる。
性格はともかく、フリードルは顔も声も良い。その容姿で、氷すら溶けてしまいそうな熱い眼差しから、こんなにも甘い台詞を吐かれては……恋愛免疫ゼロの私には、もはやどうすることも出来ない。
「だからその表情をするなと……このままお前を僕の宮殿に連れ帰り、一晩中寵愛してやっても構わないのだぞ」
「か、勘弁してください……っ」
「ふ。そう身構えずとも良いだろう。お前は本当に初心だな、アミレス・ヘル・フォーロイト」
アンディザはあくまで全年齢向けゲームだ。ヒロインが幼いから当然なのだが、とあるルートを除いて、朝チュンやその匂わせすら一切無いのが逆に味とさえ言われていた程。
まだ幼いミシェルちゃんには手を出せまいと、やきもきする攻略対象達が見られる稀有な乙女ゲーム。それが、この世界の基となっている作品である。
なので──えっちな展開は絶対駄目! です!!
決して、私にその耐性が無いからとかではない。そんなことはない……はず……!
「……では、どのような意図であんな言葉を?」
「──男は皆、獣だ。ひとたび情欲に侵されては女を汚すまで止まれない。世の中には下半身で物事を考える者まで居るという……男と一つ屋根の下など、いつ襲われても文句は言えないだろう? だから、男を──……獣を傍に置くなと。そう、伝えたかったのだが。どうやらこの言い回しが誤解を生んだらしい」
「え、と…………」
予想外の弁明に、思わず言葉を失う。
つまりフリードルは……普通に私の貞操を案じて、普通に忠告してくれたということ? それなのに私は勝手に深読みして、勘違いして、勝手に怒って詰め寄ったの? ────最低だ。
「ごっ……ごめんなさい!! 私、勝手に勘違いして……兄様のことを一方的に悪者扱いした! 差別だなんだと誤った解釈をすること自体が、獣人への冒涜なのに…………っ」
言ってるうちに声が震えてくる。
よく考えてみれば分かることだった。フリードルが私の部下一人一人の個人情報を知る筈がないのに。早とちりで、一番辿り着いてはいけない発想に至ってしまった。
勘違いで人を糾弾しておきながら、私自身がその差別的思考を捨てられていなかっただなんて。
最低だ。最悪だ。こんな私に人を責める権利なんて無いのに……フリードルを責めてしまった。そして謝罪させてしまった。
自分の冒した過ちに気づき、泣きそうになる。──何を泣こうとしてるんだこの馬鹿! 私に泣く資格なんて──……被害者面する資格なんて、一切無いじゃない!!
「おい、どうしたんだ。あれは僕の言葉選びにも問題があった。お前一人がそこまで馬鹿正直に思いつめるようなことでは……」
「でも……兄様を理不尽に責めてしまって……っ」
「僕にも非があったし、そも僕は気にしていない。だから子供のように感情を暴れさせるのを──いや。違うな。直球で言わなければならないのだった」
わざとらしく咳払いして、彼は背を曲げた。私の頬に手を置きゆっくりと顔を持ち上げ、
「……──泣くな。僕には、お前の涙を止める方法など分からないんだ。不甲斐ない兄の為に、お前はいつまでも笑っていてくれ」
柔らかく細めた目で視線を合わせ、そう告げてきた。
氷のように冷たい絶対零度の男が出せる、精一杯の温もり。不器用な彼らしいその優しさをこうして向けられて、私はようやく理解した。認めざるを得なくなった。
──彼は、本当に私達のことを愛しているのだと。
この不器用な溺愛は……彼を攻略した者にしか与えられない特権だから──……。
♢♢♢♢
「……本日は、ご迷惑をおかけしました」
夕暮れ時。私は東宮の前で天井のない気まずさに襲われていた。
あの後結局フリードルに慰められ、すごく我慢したから泣きはしなかったものの、彼には随分と気を遣わせてしまった。それがもういたたまれなくて。
「あれしきのこと、迷惑のうちにも入らん。妹を導くのは兄の役目だろう……これもまた僕の務めというだけだ」
「……ソウ、デスカ。アリガトウ、ゴザイマス」
「? なんだその妙な距離感は」
銀髪に戻ったフリードルが、伊達眼鏡の奥で眉を顰める。
「兄様は、私のことを愛してらっしゃる……のですよね」
「そうだな。僕はお前を愛している。ようやく理解したか」
「それは、その……兄として、ですか? それとも、えっと……異性として?」
自分でも相当おかしなことを聞いている自覚はある。だが彼は、私にしか欲情しないとかとんでもない発言をした前科があるのだ。なので、一度きちんと確認しておかねば後に苦労すると、今確信した。
「このような場所でする話ではないと心底思うが…………お前が知りたいのであれば、特に答えてやろう」
またもや、ずい、と顔を寄せてきて、私の耳元で彼は囁く。
「……──その両方だ。僕はお前を妹として愛しているし、お前の異性としての魅力に虜にされている。眠れぬ夜はお前を想い己を慰める程に、な」
妙に色っぽい声が答えを紡ぐ。……やはりこの男はおかしい。何故こうも臆面なく、妹を異性として愛してるなどと言えるのか。
「理解は深められたか」
「……ハイ。ありがとうございました」
「────。僕は存外、独占欲が強いらしい」
「えっ?」
急に何の話?
「お前のその、紅く恥じらう表情……他の誰にも見せたくないと、不意にそう思ってしまった」
「っ!?」
面と向かってそんなことを言われてしまえば、誰だって恥ずかしくなるだろう。ぶわっと顔に熱が集まるのがわかる。
性格はともかく、フリードルは顔も声も良い。その容姿で、氷すら溶けてしまいそうな熱い眼差しから、こんなにも甘い台詞を吐かれては……恋愛免疫ゼロの私には、もはやどうすることも出来ない。
「だからその表情をするなと……このままお前を僕の宮殿に連れ帰り、一晩中寵愛してやっても構わないのだぞ」
「か、勘弁してください……っ」
「ふ。そう身構えずとも良いだろう。お前は本当に初心だな、アミレス・ヘル・フォーロイト」
アンディザはあくまで全年齢向けゲームだ。ヒロインが幼いから当然なのだが、とあるルートを除いて、朝チュンやその匂わせすら一切無いのが逆に味とさえ言われていた程。
まだ幼いミシェルちゃんには手を出せまいと、やきもきする攻略対象達が見られる稀有な乙女ゲーム。それが、この世界の基となっている作品である。
なので──えっちな展開は絶対駄目! です!!
決して、私にその耐性が無いからとかではない。そんなことはない……はず……!
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