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第五章・帝国の王女
627.Main Story:Ameless2
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自己中心的な私の返答に頭を抱えたケイリオルさんは、「はぁ……」とまた大きなため息をこぼしてから、ゆっくりと切り出した。
「……東宮は、過去の事件やどこぞのレディの方針で慢性的に人手不足。君は立場が立場なだけに、防犯面のことも考慮して、イリオーデ卿やルティ、それと君が拾ってきた少年が住み込むことには許可した。過去にも類似例があったからね」
二つ返事で許可してくれたのだとばかり思っていた。まさかケイリオルさんがそこまで考えていたとは……。
「この時点でかなり際どい状態だったのに、君は次から次へと人を──特に男を招き入れる。僕はそれが故意ではないと分かっているし、君にも色々事情があるんだろうと汲んで、渋々許可を出してきたけれど……そろそろ限界でね」
「限界、って?」
「僕が揉み消せる噂にも限度があるってこと。君にその気が無くとも、状況証拠で君は色狂いの王女と断定され、死ぬまでその汚名を背負う羽目になってしまう」
「自業自得だしそれぐらいの汚名なら、まあ……」
「『まあ……』じゃない。君が軽んじられる未来なんて、僕が嫌なんだよ。──だからこれまでに、君に不利な噂は目につく限り潰してきたけれど…………僕の奮闘を上回る勢いで、君が次から次へと見目の整った男とばかり親しくなっていくものだから」
「まことに申し訳ございませんでした……」
知らないところでものすごく迷惑をかけていたと知り、私は深々と頭を下げて謝罪した。
でもあの、私だって好きで顔の良い男達とばかり仲良くなったという訳では……半分ぐらいは流れに身を任せていた結果というか……。
ちょっぴり後ろめたさを感じてしまい思わず目を逸らすと、「こっちを見なさい」と強めの口調で言われてしまい、大人しくそれに従うと、ケイリオルさんはこちらに顔を向けて続けた。
「もう少し、自分の現在と未来を大事にしてくれ。君にはまだ未来がある。それをくだらない汚名悪評で台無しにされたら、悔しいじゃないか。だからこそ、そうならないように、君の足を引っ張る理由をこれ以上世間に与えないでほしい」
こんなにも私達の未来について考えてくれる人が、まだ、いたんだ。リードさんの他に……ケイリオルさんまで。
……私達はやっぱり恵まれてるな。こんなにも優しい人達に、未来を憂いてもらえるのだから。
「それに──いつか、君が恋をした時。誰かを愛した時……『色狂いの王女』なんて悪評があれば、きっと苦労するだろうから。未来の不安は早めに芽を摘むに限る。そうだろう?」
まるで、絶対にそうなると確信しているかのように、彼は断言する。それが不思議でつい聞き返してしまった。
「……私も、恋をする日が来るんでしょうか」
「来るよ。絶対に来る。僕達フォーロイトは──……絶対に、誰かに恋をするんだ。その人を何よりも誰よりもどんな時よりも愛して、愛しぬいて、愛し尽くす為に、僕達は普通の人よりも永く猶予を与えられているのだから」
またもやケイリオルさんは断言する。
永く猶予を与えられている……というのは、もしや、アラフォーの皇帝とケイリオルさんがまったく老ける様子が無いのと関係があるのだろうか。
「ケイリオル卿は、誰かに恋をしたことがあるんですか?」
問うと、彼は一拍置いて答えた。
「……──あぁ。遠い昔のことだけど……夢のような恋をしたよ」
愛しさが溢れた声。その言葉だけで、ケイリオルさんにとってその『恋』が、どれ程特別で輝かしい思い出なのかが分かる。
羨ましいな。そんな風に……何年経ってもいい思い出だと愛せるような、そんな恋が出来るなんて。
「……私も。私もいつか、そんな恋がしてみたいです」
「大丈夫、君もフォーロイトなんだ。いつかきっとそんな日が来るよ」
おもむろに立ち上がり、ケイリオルさんは机に手をつきながら身を乗り出して、頭を撫でてきた。マナーを守る彼らしくない行動だなと思っていると、
「もしも君が恋をしたら。その時は──……僕が責任をもって、相手を品定めするからね」
「………………え?」
何やら不穏な圧を感じた。
「当たり前だろう? 君の恋人に相応しいかどうか、きちんと視極めないと」
「もしも貴方のお眼鏡にかなわなければ……?」
「うーん…………まあ、良くて修行、悪くて始末かな。君を誑かした野郎に生きてる価値なんてないからね」
「私の好きな人、そんな理不尽な理由で殺されるの……!?」
「あはは。冗談……ではないか」
「えっ」
物騒だ。あまりにも物騒すぎる。
まさか身内にこんな刺客がいたなんて……! これではおちおち、恋なんて出来ないではないか。今のところその予定はないんだけども。
ケイリオルさんの不穏な発言を忘れられないまま、二人きりのティータイムは穏やかに進む。
この時彼の提案で、ユーキとシャルとジェジが住める家をプレゼントしてはどうかという話になり、私はこの後の自由時間で早速西部地区の空き物件を下見に行くことにした。
これに関して、何故かケイリオルさんが頭金などを払ってくれるとのことなので、遠慮なく立派な新築物件を見繕ってみよう。(多分、そこまでしてでもあの三人に東宮から出て行ってほしいんだと思う。)
やがて開催式が終わると、多忙なケイリオルさんは次の予定があるからとその場で別れることに。どうやら開催式欠席を直前で命じられた私を案じて、忙しい中、時間をこじ開けて一緒に居てくれたようなのだ。
本当に、ケイリオルさん──……カラオル叔父さんには頭が上がらないなぁ。
「……東宮は、過去の事件やどこぞのレディの方針で慢性的に人手不足。君は立場が立場なだけに、防犯面のことも考慮して、イリオーデ卿やルティ、それと君が拾ってきた少年が住み込むことには許可した。過去にも類似例があったからね」
二つ返事で許可してくれたのだとばかり思っていた。まさかケイリオルさんがそこまで考えていたとは……。
「この時点でかなり際どい状態だったのに、君は次から次へと人を──特に男を招き入れる。僕はそれが故意ではないと分かっているし、君にも色々事情があるんだろうと汲んで、渋々許可を出してきたけれど……そろそろ限界でね」
「限界、って?」
「僕が揉み消せる噂にも限度があるってこと。君にその気が無くとも、状況証拠で君は色狂いの王女と断定され、死ぬまでその汚名を背負う羽目になってしまう」
「自業自得だしそれぐらいの汚名なら、まあ……」
「『まあ……』じゃない。君が軽んじられる未来なんて、僕が嫌なんだよ。──だからこれまでに、君に不利な噂は目につく限り潰してきたけれど…………僕の奮闘を上回る勢いで、君が次から次へと見目の整った男とばかり親しくなっていくものだから」
「まことに申し訳ございませんでした……」
知らないところでものすごく迷惑をかけていたと知り、私は深々と頭を下げて謝罪した。
でもあの、私だって好きで顔の良い男達とばかり仲良くなったという訳では……半分ぐらいは流れに身を任せていた結果というか……。
ちょっぴり後ろめたさを感じてしまい思わず目を逸らすと、「こっちを見なさい」と強めの口調で言われてしまい、大人しくそれに従うと、ケイリオルさんはこちらに顔を向けて続けた。
「もう少し、自分の現在と未来を大事にしてくれ。君にはまだ未来がある。それをくだらない汚名悪評で台無しにされたら、悔しいじゃないか。だからこそ、そうならないように、君の足を引っ張る理由をこれ以上世間に与えないでほしい」
こんなにも私達の未来について考えてくれる人が、まだ、いたんだ。リードさんの他に……ケイリオルさんまで。
……私達はやっぱり恵まれてるな。こんなにも優しい人達に、未来を憂いてもらえるのだから。
「それに──いつか、君が恋をした時。誰かを愛した時……『色狂いの王女』なんて悪評があれば、きっと苦労するだろうから。未来の不安は早めに芽を摘むに限る。そうだろう?」
まるで、絶対にそうなると確信しているかのように、彼は断言する。それが不思議でつい聞き返してしまった。
「……私も、恋をする日が来るんでしょうか」
「来るよ。絶対に来る。僕達フォーロイトは──……絶対に、誰かに恋をするんだ。その人を何よりも誰よりもどんな時よりも愛して、愛しぬいて、愛し尽くす為に、僕達は普通の人よりも永く猶予を与えられているのだから」
またもやケイリオルさんは断言する。
永く猶予を与えられている……というのは、もしや、アラフォーの皇帝とケイリオルさんがまったく老ける様子が無いのと関係があるのだろうか。
「ケイリオル卿は、誰かに恋をしたことがあるんですか?」
問うと、彼は一拍置いて答えた。
「……──あぁ。遠い昔のことだけど……夢のような恋をしたよ」
愛しさが溢れた声。その言葉だけで、ケイリオルさんにとってその『恋』が、どれ程特別で輝かしい思い出なのかが分かる。
羨ましいな。そんな風に……何年経ってもいい思い出だと愛せるような、そんな恋が出来るなんて。
「……私も。私もいつか、そんな恋がしてみたいです」
「大丈夫、君もフォーロイトなんだ。いつかきっとそんな日が来るよ」
おもむろに立ち上がり、ケイリオルさんは机に手をつきながら身を乗り出して、頭を撫でてきた。マナーを守る彼らしくない行動だなと思っていると、
「もしも君が恋をしたら。その時は──……僕が責任をもって、相手を品定めするからね」
「………………え?」
何やら不穏な圧を感じた。
「当たり前だろう? 君の恋人に相応しいかどうか、きちんと視極めないと」
「もしも貴方のお眼鏡にかなわなければ……?」
「うーん…………まあ、良くて修行、悪くて始末かな。君を誑かした野郎に生きてる価値なんてないからね」
「私の好きな人、そんな理不尽な理由で殺されるの……!?」
「あはは。冗談……ではないか」
「えっ」
物騒だ。あまりにも物騒すぎる。
まさか身内にこんな刺客がいたなんて……! これではおちおち、恋なんて出来ないではないか。今のところその予定はないんだけども。
ケイリオルさんの不穏な発言を忘れられないまま、二人きりのティータイムは穏やかに進む。
この時彼の提案で、ユーキとシャルとジェジが住める家をプレゼントしてはどうかという話になり、私はこの後の自由時間で早速西部地区の空き物件を下見に行くことにした。
これに関して、何故かケイリオルさんが頭金などを払ってくれるとのことなので、遠慮なく立派な新築物件を見繕ってみよう。(多分、そこまでしてでもあの三人に東宮から出て行ってほしいんだと思う。)
やがて開催式が終わると、多忙なケイリオルさんは次の予定があるからとその場で別れることに。どうやら開催式欠席を直前で命じられた私を案じて、忙しい中、時間をこじ開けて一緒に居てくれたようなのだ。
本当に、ケイリオルさん──……カラオル叔父さんには頭が上がらないなぁ。
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