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第五章・帝国の王女
624. Main Story:with Private soldier
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妖精とのあれやこれやで塗り潰された五月を経て、はや六月。
あれだけ私財を出すことを渋っていた貴族達が突然気変わりして重たい腰を上げたことにより、帝都復興計画は順調に進んでいるらしい。
なので。予定通り開催されるという建国祭を翌日に控え、私は一つ、頭を悩ませていた。
「お。これ美味しいよ、シャル兄」
「うまうま」
「ユーキ! それオレも食べる!!」
「喉詰まらせないようにね」
「んぐにゃッ!?」
「言ったそばから……」
談話室で仲良くスイーツを頬張る私兵三人衆。元貴族階級のユーキと、以前にも泊まり込んでいたシャルはともかく、ジェジまで完全に東宮に馴染んでいる。
彼等が家出をはじめてから、はや数週間。彼等はここが王女の住まい──皇宮であるにもかかわらず、客人という建前のもとこれでもかと、くつろいでいた。
それ自体は別に構わない。ケイリオルさんから許可は貰ったし、我が家のようにくつろいでくれて構わない、と告げたのは私だ。
だけど──想像以上に馴染んでいる。元々ここに住んでいたのではないかと錯覚するぐらいには、違和感がない。
「どうしたの、アミレス。そんなにこっち見て……この通りジェジは無事だよ」
「ひめさまー、オレは無事だぞおー!」
「ああ、うん。ジェジが無事でよかった。でも気をつけなさいね」
ジェジの介護をしつつ、ユーキはこちらを見遣る。……気になっていたのだけど、ユーキってジェジにだけ妙に甘いよなぁ。もし喉を詰まらせたのがディオやエリニティだったら『馬鹿なの?』と一蹴して終わるだろう。
だけど、ジェジを甘やかしたくなるのはよく分かる。ジェジは素直で元気で甘え上手で……本当にワンちゃんのようだからね。私やバドールも、ついうっかりお菓子をあげすぎてラークとディオによく怒られてるし。
っと、忘れるところだったわ。彼等に聞きたいことがあるんだった。
「……ねぇ、ユーキ。まだ帰らなくていいの? ディオ達のことだから、それはもうめちゃくちゃ心配してると思うよ」
「ん? あぁ……そうだろうね」
「そうだろうね、って。軽すぎない?」
「これでも考えあってのことだからさ」
首を傾げて、「どういうこと?」と聞き返す。その時背後から、イリオーデの呆れともとれるため息が聞こえてきた。
それに眉を顰めつつ、ユーキは答える。
「まずラーク兄とディオ兄。あの二人はシャルとジェジがいると絶対に世話を焼こうとする。クラ姉とバド兄もそうだね。メアリーとシアンは何かと僕に絡んでくるし、エリニティは普通にうるさい。だから僕は考えたんだよ」
まったくもって話が見えないのだが、とりあえず真剣に聞いてみる。
「──ラーク兄とディオ兄を後押ししてやろうって。ついでに、何やら思春期真っ盛りの若者達がそれぞれの恋を謳歌出来るよう、口うるさい僕は問題児二人と共にあの家から離れてるって訳さ」
「…………ディオラクの後押しと、若者の恋の応援……?」
「そうそう。さっさとヤることヤッちゃえばいいものを、ディオ兄もラーク兄も奥手すぎてな~~んにも進展しなくてね。見てるこっちがモヤモヤするから、気を利かせてやろうとは思ってたんだ。そこに丁度あの事件が起きたから、意趣返しのついでに、ね」
僕、天☆才。とユーキはおちゃらける。
ディオとラークのお付き合いの件に関しては、それなりにセンシティブなものだから本人達のペースでやらせてあげたらいいのに。と思うのだが……ユーキはどうやら真逆の結論に至ったらしい。
イリオーデ的には予想通りの発言だったのか、彼はまた呆れの息をこぼした。
「結婚後はなんだかんだでクラ姉とバド兄は一家で住む家買ったし。ディオ兄達も二人の時間を持つべきだと思うんだよ」
「あぁ……だから、あの二人が特に世話を焼く問題児二人をここに収監してるのね」
「流石は僕らの姫。話わっかる~~」
大人しく話を聞いたジェジが、ここでギャグ漫画よろしくショックを受けた。
「え。オレ達って問題児なの!? ひめさまっ、そんなことないよね!?」
「まさかそんな。俺はとてもえらい天才だからな。王女様がそう言っていたから間違いない。ジェジもいい子だから違うだろう」
「しゃるにぃ……っ!」
潤んだ瞳でシャルを見つめ、ジェジはひしっと彼に抱きつく。それを横目に、「自己肯定感がめちゃくちゃ高くなってる……」と、ユーキは顔を顰め、こちらに向き直った。
「……まあ、そういうことだから。ちなみに三人で話し合った上で家出延長を決めてるから、そこは安心して」
「そ、そうなの。貴方達がそれでいいなら、もう私から言えることはないけど……」
「メアリーもシアンも歳頃だし、エリニティだって一応……叶わないだろうけど恋してるし。恋愛とは無縁の干物三人衆が近くにいない方が、あいつらとしても動きやすいでしょ」
だから、精々青春を謳歌してほしいね。と、ユーキは満足気な表情で紅茶をあおった。
ユーキは素直じゃないだけで、私兵団の皆のことをよく考えて彼なりに気を配っているようだ。……なんというか、出力方法を全力で誤っている気がするが、過剰に口を挟むことでもないか。
それとね、ユーキ。貴方が気にかけてる歳頃の女の子なメアリーはね、貴方が好きなのよ……! 多分今頃、誰よりも貴方に会えないことを嘆いていると思うわ……!
だが、メアリーのいないところで勝手に彼女の気持ちを伝えるわけにもいかず。どうしたものかと、私は一人静かに唸った。
あれだけ私財を出すことを渋っていた貴族達が突然気変わりして重たい腰を上げたことにより、帝都復興計画は順調に進んでいるらしい。
なので。予定通り開催されるという建国祭を翌日に控え、私は一つ、頭を悩ませていた。
「お。これ美味しいよ、シャル兄」
「うまうま」
「ユーキ! それオレも食べる!!」
「喉詰まらせないようにね」
「んぐにゃッ!?」
「言ったそばから……」
談話室で仲良くスイーツを頬張る私兵三人衆。元貴族階級のユーキと、以前にも泊まり込んでいたシャルはともかく、ジェジまで完全に東宮に馴染んでいる。
彼等が家出をはじめてから、はや数週間。彼等はここが王女の住まい──皇宮であるにもかかわらず、客人という建前のもとこれでもかと、くつろいでいた。
それ自体は別に構わない。ケイリオルさんから許可は貰ったし、我が家のようにくつろいでくれて構わない、と告げたのは私だ。
だけど──想像以上に馴染んでいる。元々ここに住んでいたのではないかと錯覚するぐらいには、違和感がない。
「どうしたの、アミレス。そんなにこっち見て……この通りジェジは無事だよ」
「ひめさまー、オレは無事だぞおー!」
「ああ、うん。ジェジが無事でよかった。でも気をつけなさいね」
ジェジの介護をしつつ、ユーキはこちらを見遣る。……気になっていたのだけど、ユーキってジェジにだけ妙に甘いよなぁ。もし喉を詰まらせたのがディオやエリニティだったら『馬鹿なの?』と一蹴して終わるだろう。
だけど、ジェジを甘やかしたくなるのはよく分かる。ジェジは素直で元気で甘え上手で……本当にワンちゃんのようだからね。私やバドールも、ついうっかりお菓子をあげすぎてラークとディオによく怒られてるし。
っと、忘れるところだったわ。彼等に聞きたいことがあるんだった。
「……ねぇ、ユーキ。まだ帰らなくていいの? ディオ達のことだから、それはもうめちゃくちゃ心配してると思うよ」
「ん? あぁ……そうだろうね」
「そうだろうね、って。軽すぎない?」
「これでも考えあってのことだからさ」
首を傾げて、「どういうこと?」と聞き返す。その時背後から、イリオーデの呆れともとれるため息が聞こえてきた。
それに眉を顰めつつ、ユーキは答える。
「まずラーク兄とディオ兄。あの二人はシャルとジェジがいると絶対に世話を焼こうとする。クラ姉とバド兄もそうだね。メアリーとシアンは何かと僕に絡んでくるし、エリニティは普通にうるさい。だから僕は考えたんだよ」
まったくもって話が見えないのだが、とりあえず真剣に聞いてみる。
「──ラーク兄とディオ兄を後押ししてやろうって。ついでに、何やら思春期真っ盛りの若者達がそれぞれの恋を謳歌出来るよう、口うるさい僕は問題児二人と共にあの家から離れてるって訳さ」
「…………ディオラクの後押しと、若者の恋の応援……?」
「そうそう。さっさとヤることヤッちゃえばいいものを、ディオ兄もラーク兄も奥手すぎてな~~んにも進展しなくてね。見てるこっちがモヤモヤするから、気を利かせてやろうとは思ってたんだ。そこに丁度あの事件が起きたから、意趣返しのついでに、ね」
僕、天☆才。とユーキはおちゃらける。
ディオとラークのお付き合いの件に関しては、それなりにセンシティブなものだから本人達のペースでやらせてあげたらいいのに。と思うのだが……ユーキはどうやら真逆の結論に至ったらしい。
イリオーデ的には予想通りの発言だったのか、彼はまた呆れの息をこぼした。
「結婚後はなんだかんだでクラ姉とバド兄は一家で住む家買ったし。ディオ兄達も二人の時間を持つべきだと思うんだよ」
「あぁ……だから、あの二人が特に世話を焼く問題児二人をここに収監してるのね」
「流石は僕らの姫。話わっかる~~」
大人しく話を聞いたジェジが、ここでギャグ漫画よろしくショックを受けた。
「え。オレ達って問題児なの!? ひめさまっ、そんなことないよね!?」
「まさかそんな。俺はとてもえらい天才だからな。王女様がそう言っていたから間違いない。ジェジもいい子だから違うだろう」
「しゃるにぃ……っ!」
潤んだ瞳でシャルを見つめ、ジェジはひしっと彼に抱きつく。それを横目に、「自己肯定感がめちゃくちゃ高くなってる……」と、ユーキは顔を顰め、こちらに向き直った。
「……まあ、そういうことだから。ちなみに三人で話し合った上で家出延長を決めてるから、そこは安心して」
「そ、そうなの。貴方達がそれでいいなら、もう私から言えることはないけど……」
「メアリーもシアンも歳頃だし、エリニティだって一応……叶わないだろうけど恋してるし。恋愛とは無縁の干物三人衆が近くにいない方が、あいつらとしても動きやすいでしょ」
だから、精々青春を謳歌してほしいね。と、ユーキは満足気な表情で紅茶をあおった。
ユーキは素直じゃないだけで、私兵団の皆のことをよく考えて彼なりに気を配っているようだ。……なんというか、出力方法を全力で誤っている気がするが、過剰に口を挟むことでもないか。
それとね、ユーキ。貴方が気にかけてる歳頃の女の子なメアリーはね、貴方が好きなのよ……! 多分今頃、誰よりも貴方に会えないことを嘆いていると思うわ……!
だが、メアリーのいないところで勝手に彼女の気持ちを伝えるわけにもいかず。どうしたものかと、私は一人静かに唸った。
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