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第五章・帝国の王女

♢623.Chapter2 Prologue

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 妖精族による帝都侵略事件。その被害を最も受けたのは西部地区であり、俺達の見慣れた街並みは無惨なものとなっていた。
 とは言っても、多くの人達の協力と尽力があり、目まぐるしく復旧は進んでいる。このまま順調に事が運べば、ギリギリ、建国祭の期間中には帝都の復旧が終えられるかもしれない……らしい。
 それはとてもいいことだ。俺達平民としちゃあ、そんなにも早く生活圏が復旧するとか願ったり叶ったり、なんだが。

「「「「「「「………………」」」」」」」

 俺の家は絶賛地獄のような空気であった。
 あまりにも重苦しく沈殿した空間に、まだ赤ん坊のディリアスですら空気を読んで黙り込む程。──これは俺達が勝手にそう思ってるだけだ。だがそうとしか思えないくらい、ディリアスは、俺達がこうなってから全然泣かなくなっちまった。
 生後間もない赤ん坊がずっと、真顔で黙々とエリニティの服やら髪やらをんでいる姿は異常でしかない。

「……シャル……俺が悪かったよ……だから帰ってきて…………」

 机に突っ伏しているラークが細々と呻くと、

「うぅ……ユーキ兄に会いたい……」

 今度はメアリードが三角座りのまま呟いた。更に、

「あのバカ犬……バカでアホだから他の奴のことばかり優先して、飢え死にとかしてないでしょうね」

 クラリスが、腕を組み不安げな表情で唇を尖らせる。
 ここ暫く俺達は頭を抱えていた。何故なら──家族なかまであるシャルルギル、ユーキ、ジェジの三名が少し前から家出中・・・なのだ。
 理由は分からない…………いや。責任転嫁はよそう。アイツ等がいなくなった理由も、本当は分かっている。

 それは、数週間前。ある日のことだ。
 国教会のお偉いさんがわざわざこんな街にまで来たモンだから、俺達は出歯亀根性で見物に行った。その時から、なにか・・・が噛み合わなくなったんだ。何かがおかしくなり、何かが歪んだ。その結果俺達は……。

『───ディオ、どうしたんだ?』
『な、なあ。どうして返事をしてくれないんだ?』
『俺の声が、聞こえないのか……?』
『俺は、なにか、お前を怒らせるようなことをしたのか? なんでもいいから返事をしてくれ、ディオ……』

 シャルルギルの顔が悲痛に歪む。だけど俺は何も答えられなかった。俺達は何も応えられなかった。
 何故かは分からない。言い訳でしかないが……体が動かなかった。気がつけば、縛りつけられたように国教会のガキを見つめていたのだ。

『ぅ……イヤ、だ……っ!!』
『ジェジ!? どうしたんだ、ジェジ!』

 俺達が身動きを取れなくなっている間に、ジェジが大きな尻尾をぶわっと逆立たせて、真っ青な顔で獣化した。
 ジェジ自身があれ程に恐れていた獣化をしただけでなく、まるで理性を失ったかのように暴れはじめたというのに……俺達の体は相変わらず木のようで。ジェジを守らないと、と頭が訴えかけるのに、心が無理やり『彼女の元へ』と意味不明な感情で体をその場に繋ぎ止める。俺は……結局、何も出来なかった。

『っ……ジェジ、ごめん!』
『!!』

 怪我を恐れず暴れるジェジにしがみついて、シャルルギルはジェジを魔法で眠らせた。そして、酷く傷ついた様子でこちらを振り返り、アイツはジェジを抱えて走り去る。
 その背中を追うことすら、あの時のなにかがおかしい俺には──出来なかった。

 その後暫くしてからハッと我に返り、メアリード達と急いで家に帰れば、シャルルギルとジェジとユーキの姿がどこにも見当たらなくなっていた。
 あの時のシャルルギルの表情が頭から離れなくて、ジェジの安否が心配で。とにかく全員で手分けして街中を探し回ったが……結局、三人は見つからず。
 それから数日後。途方に暮れていた俺達の元に届いた一通の手紙。そこには──『しばらく家出する。捜さなくていいよ』と、ユーキの字で書かれていた。

 何かの事件に巻き込まれたとか、誘拐されたとか……死んでしまったとか。そういう訳ではなく。三人の意思で帰って来ないのだと分かって、俺達は安心する一方、際限のない不安と後悔に襲われる。
 サラの時のように、何も出来ないまま、ただアイツ等の帰りを待つことしか──……俺達には、許されないのだろうか。
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