だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第五章・帝国の王女

618.Side Story:in Parliament

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 それは五月の末頃の事。フォーロイト帝国は王城。その一室──大会議室にて。
 帝都近郊の領地を抱える帝国貴族達をはじめとして、有力貴族や専門家、そして関係者・・・にあたる要人が何人も集っている。
 行われているものは、当然会議だ。しかしその内容はかなり奇特なもので。

「──すまんな、ちと甥の様子を見に行っていたら遅れましたわ」
「それを見越して、テンディジェル大公には開始時刻より二時間早く集合時間を伝えておいたのですが……今に始まった事ではないので諦めましょう」
「よっ、流石はケイリオル卿!」
「…………チッ。では、改めて。妖精族侵略事件についての会議を開始します」

 殿様出勤を果たした現テンディジェル大公ログバード・サー・テンディジェルは、「あんた今舌打ちしたな?」とぶーぶー唇を尖らせて己の席へと向かう。
 ログバードに呆れ半分侮蔑半分の視線を送りつつ、本件の責任者の座を押し付けられたケイリオルは気を取り直した。

「関係者への聞き取り調査によると、一連の事件の始まりは今月の初旬。丁度、国教会の親善使節の皆様が到着された頃だと推測されます。ですよね、聖人殿」
「えぇ。誰よりも早く意思ある・・・・妖精・・と接触したと思しき信徒曰く、食事会の夜にそれらしき者に話しかけられたようだ。おそらく、その時から信徒は妖精に利用されていたのだろう」

 名指しされたミカリア・ディア・ラ・セイレーンは純白の髪を揺らして立ち上がり、檸檬色の瞳を細めて応答する。
 彼は、事件の当事者として──そして同じく当事者であるミシェル・ローゼラの代理人として、この場に招聘しょうへいされたのだ。
 ミカリアの証言に、貴族達は戸惑いの声を漏らしながら、顔を見合わせる。
 そこで、報告資料に視線を落としたまま、フリードル・ヘル・フォーロイトが冷たい息を吐く。

「……──例の信徒が奇跡力なる力を貸与されたのもその時だったか。知らず知らずのうちにその信徒が妖精の侵略起点となり、いたずらに被害が拡大したと。…………無差別に他者の人格を改変する奇跡。今思い出しても腸が煮えくり返りそうだ」
「皇太子殿下も奇跡力の被害に遭われたのでしたね。お互い災難でした」
「そうさな。二度とあのような経験はしたくないと、切に願うとも」
「そのお言葉に同意します」

 露骨に不機嫌なフリードルと、苦笑するミカリア。氷結の貴公子と人類最強の聖人すらも惑わした奇跡に、貴族達は青い顔で喉を上下させた。
 その空気を打ち破るように、ケイリオルが口を開く。

「──国教会内部への調査協力に改めて感謝を。そして、妖精に操られたという方々の無事をお祈り申し上げます」
「心遣い、痛み入るよ」
「それらしき目撃情報や城務めの役人達への調査結果ともさほどの誤差がないことから、聖人殿及び天空教信徒の証言は真なるものでしょう。では、続いて……意思なき・・・・妖精・・の動向について。これについては、イリオーデ卿、お願い出来ますか」
「はい」

 指名されたイリオーデ・ドロシー・ランディグランジュが立ち上がったところで、列席者の一人であるトール・フォン・アルブロイト公爵が、鮮やかな金髪の下で少しばかり眉尻を上げた。

「待ちたまえ、ランディグランジュ卿。何故貴殿がこの場に? ランディグランジュ侯爵家は当主も列席しているではないか」

 アランバルト・ドロシー・ランディグランジュとイリオーデの顔を交互に見遣り、彼は疑問を提起する。

「……話が逸れるやもしれぬので、願わくば説明の許可を」
「貴殿は侯爵家の者なのだから、そう畏まらずとも良いだろう。少なくとも、今貴殿に問うているのは公爵わたしなのだから」

 フォーロイト家の遠戚にあたる現帝国唯一の公爵家当主が何を言うか。そう、席を連ねる貴族達は冷や汗を浮かべる。
 そこで、トールの発言にイリオーデは違和感を抱く。

(いやに『侯爵家』という言葉を強調している。そういえばアルブロイト公爵の娘が私を夫に欲していると、アランバルトが言っていたな。……ああ、そうか。是が非でも私を侯爵家に戻したいのだろう、アルブロイト公爵は)

 イリオーデは正真正銘ランディグランジュ侯爵家の人間だ。それに加え、かつて神童と呼ばれた才覚と、同性すらも惹きつける美貌を併せ持つ。その為、アミレスの付き添いで社交界に舞い戻ってからと言うものの、ランディグランジュ侯爵家への縁談の申し込みが後を絶たないのである。
 それは、ランディグランジュ侯爵家よりも格上のアルブロイト公爵家とて変わらず。何やら公爵家の姫君がイリオーデをお気に召したようで、以前から何度か縁談を申し出ていた。
 しかし毎度、『弟は現在王女殿下にお仕えしておりますので』と定型文でお断りされてしまったものだから、娘に甘いトールはこうして一肌脱いだのだ。
 ふと悪寒を感じたのか、アランバルトはぶるっと肩を震えさせ、チラチラとイリオーデの様子を窺う。

(面倒だな。誰になんと言われようが私は王女殿下のものなのだが)
「──……では、簡潔に。我が主、アミレス・ヘル・フォーロイト王女殿下が現在療養の為、皇宮を出られない状態にあるが故。王女殿下及びその周辺の者達より預かりました証言等を、我が・・王女殿下・・・・の代理人・・・・として、この場に提出させていただきたく存じます」

 この身の全てはアミレスに捧げたもの。そしてこの場には、あくまで侯爵家の者ではなく王女の代理人として立っている──。言外に含んだその想いは、彼の言葉を聞いた全ての者に届いたことだろう。
 眉間に皺を寄せ、面白くないとばかりの表情をする男達もいるぐらいだ。
 それと同時に、妖精族侵略事件の渦中に立つアミレスが未だ快復していないと知るやいなや、貴族達が様々な憶測を口にしては、大会議室は喧喧囂囂けんけんごうごうとなる。
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