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第五章・帝国の王女
616.Main Story:Ameless
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「どうしたの、ミシェルちゃん?」
第一回転生者会議が終わり、カイルと共に帰ったミシェルちゃんが突然戻って来た。何事かと思いつつ、ニコニコと部屋に迎え入れる。
しかし、すぐ終わるから、と彼女は立ったまま切り出した。
「その……野暮だとは思うんだけど、あなたに聞きたいことがあるの。あなたは……お兄さん──カイルのことを、どう思ってるの?」
真剣な様子の彼女から放たれた言葉に、私は少しばかりの困惑を覚えた。
だって彼女は今現在絶賛ロイに攻略されつつある。だのに、先程吐いた言葉は、まるで少女漫画のライバル枠の女子のよう。
……どういう意図から来た質問なのだろうか。もしや警戒されている? 少しは仲良くなれたかなと思っていたが、それは私だけの勘違いだったとか!? 前世では友達なんて居なかったし、日本人との付き合い方とか全然分かんないって!!
だが彼女が私を警戒するのも頷ける。長い付き合いとなりつつあるカイルはまだしも、彼女は私とは会ったばかり。しかもゲームにおいては敵同士──というか、こちらが一方的に危害を加えていたので、それなりの因縁がある関係だ。
彼女が『アミレスに殺されるの』と怯えていた事もあるし、未だにその疑念を晴らせていないのならばそれは私の力不足故のことだ。
それを踏まえ。前世からの知り合い同士だったというカイルのことを、ミシェルちゃんが心配するというのは、まあ納得出来る話ではある。
──しかし、だ。
「……貴女がどんな返答を期待しているのかは知らないけれど。その質問が何を意味するか、分かる?」
いくら貴女が前世から愛する推しでも、私の交友関係に口を出す権利は無いでしょう?
「えっ? えと、その……あたしは、ただ……」
「今の私は、婚約者が不在の現フォーロイト帝国唯一の王女。そんな私が気軽に異性への好感を口にして、もしそれが誰かの耳に入ったら? 瞬く間に婚約話が進むかもしれないし、相手が隣国の王族ともなれば……それは西側諸国の情勢に大きな影響を及ぼしかねないわ」
「え、ぁ…………」
「それを絶対中立たる国教会の光、神々の愛し子である貴女が唆したとあれば、国教会にも火の粉が降りかかるかもしれない。──さて、もう一度聞くわ。貴女は……私にどんな返答を期待しているの?」
彼女の今後の為にも強い口調で詰めたものの、この脅しは現実にはならないだろう。
──何故ならこの部屋にはまだ私の展開した結界が残っているから。そもそも人払いしていたし、どうせ日本語で話すだろうからこれは念の為でしかなかったが……ここはファンタジー世界。何が起きてもおかしくはない世界だから、一応、結界を張っておいたのだ。
カイルは気付いていたようだから、私の言葉などこけおどしでしかない。寧ろそのつもりで私も発言した。
真の狙いは、彼女に言葉の重みを知ってもらう事。
ミシェルちゃんが神々の加護と天の加護属性を持つ神々の愛し子であり、国教会の新たな希望という非常に重要な立場にある以上、その立場に伴う責任についてよく理解しておいた方が彼女の為になる。
脅すような方法でしかそれを教えてあげられないのが、歯痒いところではあるが……今はこの方法が一番手っ取り早い。
ミシェルちゃんの真意が気になるというのも、勿論本心だけど。
「ご、ごめんなさい! あたし、そんなつもりじゃ……っ、ただ、その……あなたがカイルのことをどう思ってるのか、気になっただけで…………」
「どうしてそんなことが気になったの?」
「それは…………。カイルとあなたの関係が、よく、分からなくて。あなた達の関係の名前が、知りたくなったの」
まだ幼い彼女は腹芸というものを知らず、その真意を包み隠さず話してくれた。
……これは後でミカリアに意見を申し立てておかないといけないわね。ミシェルちゃんに処世術とその他対人スキルを教え込んでくれ、って。このままだと遠くない未来で、私の推しが、底意地の悪い人間にあっさり騙されて良いように使い潰されてしまう……!!
「──関係の名前、か」
ぽつりと呟いた時。私の心の中にはいくつかの単語が思い浮かんだ。
「親友だよ。大事な親友で、頼りになる共犯者で、気の置けない悪友。『私』にとってのカイル・ディ・ハミルは、そういう存在だよ」
「親友で、悪友? で…………共犯者??」
「ふふ。意味不明、って顔してる。そうよ、私達は共犯関係なの。──堕ちる時は何処までも一緒に堕ちる。そんな健全な関係ね」
「け、健全……?」
腑に落ちないとばかりに顔を顰めるミシェルちゃんを見て、小さく笑みが零れる。
こんな表情、ゲームでは中々見られなかった。くぅ~~っ、ゲーム転生万歳!!
「それって好きってことでは……? ──じゃ、じゃあっ! マクベスタのことはどう思ってるの?」
「初めての友人だからね、勿論大切よ。彼の為なら災害にだって立ち向かえるもの。マクベスタの一番の友人兼ライバルの座は誰にも渡さないわ」
「……あれ……なんか雲行きが……」
告白されてしまった件については、一旦言及しないでおこう。話がややこしくなりそうだし。……告白、されたんだよなぁ。マクベスタって私のことが好きなのかぁ……そうなのかぁ…………。
改めて他者からの好意に向き合うというのは、なんとも言えない面映ゆさがあるものだ。
第一回転生者会議が終わり、カイルと共に帰ったミシェルちゃんが突然戻って来た。何事かと思いつつ、ニコニコと部屋に迎え入れる。
しかし、すぐ終わるから、と彼女は立ったまま切り出した。
「その……野暮だとは思うんだけど、あなたに聞きたいことがあるの。あなたは……お兄さん──カイルのことを、どう思ってるの?」
真剣な様子の彼女から放たれた言葉に、私は少しばかりの困惑を覚えた。
だって彼女は今現在絶賛ロイに攻略されつつある。だのに、先程吐いた言葉は、まるで少女漫画のライバル枠の女子のよう。
……どういう意図から来た質問なのだろうか。もしや警戒されている? 少しは仲良くなれたかなと思っていたが、それは私だけの勘違いだったとか!? 前世では友達なんて居なかったし、日本人との付き合い方とか全然分かんないって!!
だが彼女が私を警戒するのも頷ける。長い付き合いとなりつつあるカイルはまだしも、彼女は私とは会ったばかり。しかもゲームにおいては敵同士──というか、こちらが一方的に危害を加えていたので、それなりの因縁がある関係だ。
彼女が『アミレスに殺されるの』と怯えていた事もあるし、未だにその疑念を晴らせていないのならばそれは私の力不足故のことだ。
それを踏まえ。前世からの知り合い同士だったというカイルのことを、ミシェルちゃんが心配するというのは、まあ納得出来る話ではある。
──しかし、だ。
「……貴女がどんな返答を期待しているのかは知らないけれど。その質問が何を意味するか、分かる?」
いくら貴女が前世から愛する推しでも、私の交友関係に口を出す権利は無いでしょう?
「えっ? えと、その……あたしは、ただ……」
「今の私は、婚約者が不在の現フォーロイト帝国唯一の王女。そんな私が気軽に異性への好感を口にして、もしそれが誰かの耳に入ったら? 瞬く間に婚約話が進むかもしれないし、相手が隣国の王族ともなれば……それは西側諸国の情勢に大きな影響を及ぼしかねないわ」
「え、ぁ…………」
「それを絶対中立たる国教会の光、神々の愛し子である貴女が唆したとあれば、国教会にも火の粉が降りかかるかもしれない。──さて、もう一度聞くわ。貴女は……私にどんな返答を期待しているの?」
彼女の今後の為にも強い口調で詰めたものの、この脅しは現実にはならないだろう。
──何故ならこの部屋にはまだ私の展開した結界が残っているから。そもそも人払いしていたし、どうせ日本語で話すだろうからこれは念の為でしかなかったが……ここはファンタジー世界。何が起きてもおかしくはない世界だから、一応、結界を張っておいたのだ。
カイルは気付いていたようだから、私の言葉などこけおどしでしかない。寧ろそのつもりで私も発言した。
真の狙いは、彼女に言葉の重みを知ってもらう事。
ミシェルちゃんが神々の加護と天の加護属性を持つ神々の愛し子であり、国教会の新たな希望という非常に重要な立場にある以上、その立場に伴う責任についてよく理解しておいた方が彼女の為になる。
脅すような方法でしかそれを教えてあげられないのが、歯痒いところではあるが……今はこの方法が一番手っ取り早い。
ミシェルちゃんの真意が気になるというのも、勿論本心だけど。
「ご、ごめんなさい! あたし、そんなつもりじゃ……っ、ただ、その……あなたがカイルのことをどう思ってるのか、気になっただけで…………」
「どうしてそんなことが気になったの?」
「それは…………。カイルとあなたの関係が、よく、分からなくて。あなた達の関係の名前が、知りたくなったの」
まだ幼い彼女は腹芸というものを知らず、その真意を包み隠さず話してくれた。
……これは後でミカリアに意見を申し立てておかないといけないわね。ミシェルちゃんに処世術とその他対人スキルを教え込んでくれ、って。このままだと遠くない未来で、私の推しが、底意地の悪い人間にあっさり騙されて良いように使い潰されてしまう……!!
「──関係の名前、か」
ぽつりと呟いた時。私の心の中にはいくつかの単語が思い浮かんだ。
「親友だよ。大事な親友で、頼りになる共犯者で、気の置けない悪友。『私』にとってのカイル・ディ・ハミルは、そういう存在だよ」
「親友で、悪友? で…………共犯者??」
「ふふ。意味不明、って顔してる。そうよ、私達は共犯関係なの。──堕ちる時は何処までも一緒に堕ちる。そんな健全な関係ね」
「け、健全……?」
腑に落ちないとばかりに顔を顰めるミシェルちゃんを見て、小さく笑みが零れる。
こんな表情、ゲームでは中々見られなかった。くぅ~~っ、ゲーム転生万歳!!
「それって好きってことでは……? ──じゃ、じゃあっ! マクベスタのことはどう思ってるの?」
「初めての友人だからね、勿論大切よ。彼の為なら災害にだって立ち向かえるもの。マクベスタの一番の友人兼ライバルの座は誰にも渡さないわ」
「……あれ……なんか雲行きが……」
告白されてしまった件については、一旦言及しないでおこう。話がややこしくなりそうだし。……告白、されたんだよなぁ。マクベスタって私のことが好きなのかぁ……そうなのかぁ…………。
改めて他者からの好意に向き合うというのは、なんとも言えない面映ゆさがあるものだ。
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