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第五章・帝国の王女
613.Main Story:Ameless2
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「順番的に次はアミレスだな」
「あぁ……」
そうか。この流れなら私もしなきゃいけないのか、自己紹介。……どうしようかなぁ。
「『アミレス・ヘル・フォーロイトです。前世の名前は……名前、は……』」
「? なんで言い淀むんだよ。お前、『みこ』って名前なんだろ? ──あ。もしかしてあだ名は覚えてるが本名はまだ思い出せないってパターンか?」
「ううん。そうじゃなくて…………」
あまりにも歯切れが悪いものだから、カイルとミシェルちゃんは顔を見合わせ、揃って居心地が悪そうな表情になってしまった。
……ここまで来たら覚悟を決めるしかない。こんな空虚な『私』を知られるのは、すごく、怖いけれど……きっとカイルなら受け止めてくれるだろうから。怖いけど一歩を踏み出そう。いつか──シルフや皆に愛してもらえる『私』になれるように。
「『私は……みこ。そう、呼ばれていたの。名前は──生まれた時から無かったわ』」
「……は? いや、いやいやいや。現代日本で名前が無いとか、そんなん有り得ねぇだろ。忘れてるだけじゃねーの?」
「ううん。違うの。本当に、私には名前が無かったの」
「…………マジで? 一体全体何がどうしてそんな事になるんだよ……」
ただ横に首を振ることしか出来ない私を見て、カイルは私の言葉を信じてくれたらしい。真剣な面持ちで、「──聞かせてくれるか?」と促してきたので、今度は首を縦に振り、恐る恐る切り出す。
「カイルはさ、和風ファンタジーとかって好き?」
「え、この流れで俺に話振るの? まぁ勿論好きだけど……妖怪とか神様とか大好きですけど……小三の頃の将来の夢、陰陽師でしたけど…………」
「『なら、分かりやすいと思う。私は──巫女だったの。神様に仕えるお仕事って言ったら、ミシェルちゃんにも分かるかな』」
二人の開いた口が塞がらない。
それもそうだろう。巫女なんて存在、大抵の日本人は参拝の時しか関わりようがないのだから。目の前に珍しいそれがいて、驚いているのだろう。
「巫女……お前が?」
「『うん。いわゆる因習村みたいな辺境の村で生まれて、生後間もない時に親から取りあげられたとかで、名前も貰えないまま神子として祭り上げられて……物心ついた頃には既に巫女だったわ。なので、職業は勿論巫女です。──アンディザの推しはミシェルちゃん。改めまして、よろしくお願いします』」
平然と自己紹介に移ったからか、カイルは渋い顔で頭を抱えた。
親の顔も名前も知らず、自由も無く、名前すら貰えなかった虚しい『私』の人生。誰にも知られたくなかった人形の話を……まさか、こうして誰かにする日が来るとは。
「……いや、うん。ワケあり家庭だったのかなとか、色々考えてはいたんだが……想像以上の闇深話がお出しされて、正直、戸惑ってる」
「──ありがとう、受け止めてくれて」
「…………おう」
感謝を告げると、カイルは柔らかな微笑みを返してきて。
その後。途中から理解が追いついておらず、頭がパンクしてしまったというミシェルちゃんに、カイルと共に軽く説明し、私達は自己紹介フェーズを終えた。
場も温まった事だしこのまま談笑しよう、と出来ればどれ程よかったことか……。転生者三人が集まったならば、必然的に話題は決まる。
──今後の方針についての話し合いが始まったのだ。
♢
「まず大前提として。①エルフの森の大火災発生時期。②メイシアちゃんの存在。③レオナードの故郷の内乱。④赤髪連続殺人事件の発生。以上の四点から、ここはアンディザ二作目の世界だと断定している。──まあ、後半三つに関しては、無印でも在った可能性があるが……少なくとも言及はされてなかったので、ここでは無視とする」
カイルが切り出すと、私達はお菓子をつまみつつこくりと頷く。
「二作目にある大まかなルートは全部で十一個。神殿都市組共通ルート、そこから分岐する王国組共通ルート、帝国組共通ルートの共通三つと、攻略対象八名の個別ルート八つ。攻略制限とかあったが、これも今は無視とする。問題はここからだ」
「問題って……?」
「俺達が今、どの世界線にいるか。それが判断出来ない状態にある」
「どの、ルートにいるか…………ミシェルが帝国にいるから、帝国組共通ルートなんじゃあ……?」
「それが一概にそうとは言い切れないんだよ、ミシェル君」
ミシェルちゃんの問いに、カイルは神妙な面持ちで答えた。かと思えばおもむろにこちらを見つめ、意味ありげなため息を一つ。
「──どっかの誰かさんが攻略対象を片っ端から攻略してくれやがったお陰でなぁ、もう何が起こるか分かんねぇんだわ」
鼻につく表情で肩を竦めるカイルに、私とミシェルちゃんは顔を見合わせて小首を傾げた。
「あぁ……」
そうか。この流れなら私もしなきゃいけないのか、自己紹介。……どうしようかなぁ。
「『アミレス・ヘル・フォーロイトです。前世の名前は……名前、は……』」
「? なんで言い淀むんだよ。お前、『みこ』って名前なんだろ? ──あ。もしかしてあだ名は覚えてるが本名はまだ思い出せないってパターンか?」
「ううん。そうじゃなくて…………」
あまりにも歯切れが悪いものだから、カイルとミシェルちゃんは顔を見合わせ、揃って居心地が悪そうな表情になってしまった。
……ここまで来たら覚悟を決めるしかない。こんな空虚な『私』を知られるのは、すごく、怖いけれど……きっとカイルなら受け止めてくれるだろうから。怖いけど一歩を踏み出そう。いつか──シルフや皆に愛してもらえる『私』になれるように。
「『私は……みこ。そう、呼ばれていたの。名前は──生まれた時から無かったわ』」
「……は? いや、いやいやいや。現代日本で名前が無いとか、そんなん有り得ねぇだろ。忘れてるだけじゃねーの?」
「ううん。違うの。本当に、私には名前が無かったの」
「…………マジで? 一体全体何がどうしてそんな事になるんだよ……」
ただ横に首を振ることしか出来ない私を見て、カイルは私の言葉を信じてくれたらしい。真剣な面持ちで、「──聞かせてくれるか?」と促してきたので、今度は首を縦に振り、恐る恐る切り出す。
「カイルはさ、和風ファンタジーとかって好き?」
「え、この流れで俺に話振るの? まぁ勿論好きだけど……妖怪とか神様とか大好きですけど……小三の頃の将来の夢、陰陽師でしたけど…………」
「『なら、分かりやすいと思う。私は──巫女だったの。神様に仕えるお仕事って言ったら、ミシェルちゃんにも分かるかな』」
二人の開いた口が塞がらない。
それもそうだろう。巫女なんて存在、大抵の日本人は参拝の時しか関わりようがないのだから。目の前に珍しいそれがいて、驚いているのだろう。
「巫女……お前が?」
「『うん。いわゆる因習村みたいな辺境の村で生まれて、生後間もない時に親から取りあげられたとかで、名前も貰えないまま神子として祭り上げられて……物心ついた頃には既に巫女だったわ。なので、職業は勿論巫女です。──アンディザの推しはミシェルちゃん。改めまして、よろしくお願いします』」
平然と自己紹介に移ったからか、カイルは渋い顔で頭を抱えた。
親の顔も名前も知らず、自由も無く、名前すら貰えなかった虚しい『私』の人生。誰にも知られたくなかった人形の話を……まさか、こうして誰かにする日が来るとは。
「……いや、うん。ワケあり家庭だったのかなとか、色々考えてはいたんだが……想像以上の闇深話がお出しされて、正直、戸惑ってる」
「──ありがとう、受け止めてくれて」
「…………おう」
感謝を告げると、カイルは柔らかな微笑みを返してきて。
その後。途中から理解が追いついておらず、頭がパンクしてしまったというミシェルちゃんに、カイルと共に軽く説明し、私達は自己紹介フェーズを終えた。
場も温まった事だしこのまま談笑しよう、と出来ればどれ程よかったことか……。転生者三人が集まったならば、必然的に話題は決まる。
──今後の方針についての話し合いが始まったのだ。
♢
「まず大前提として。①エルフの森の大火災発生時期。②メイシアちゃんの存在。③レオナードの故郷の内乱。④赤髪連続殺人事件の発生。以上の四点から、ここはアンディザ二作目の世界だと断定している。──まあ、後半三つに関しては、無印でも在った可能性があるが……少なくとも言及はされてなかったので、ここでは無視とする」
カイルが切り出すと、私達はお菓子をつまみつつこくりと頷く。
「二作目にある大まかなルートは全部で十一個。神殿都市組共通ルート、そこから分岐する王国組共通ルート、帝国組共通ルートの共通三つと、攻略対象八名の個別ルート八つ。攻略制限とかあったが、これも今は無視とする。問題はここからだ」
「問題って……?」
「俺達が今、どの世界線にいるか。それが判断出来ない状態にある」
「どの、ルートにいるか…………ミシェルが帝国にいるから、帝国組共通ルートなんじゃあ……?」
「それが一概にそうとは言い切れないんだよ、ミシェル君」
ミシェルちゃんの問いに、カイルは神妙な面持ちで答えた。かと思えばおもむろにこちらを見つめ、意味ありげなため息を一つ。
「──どっかの誰かさんが攻略対象を片っ端から攻略してくれやがったお陰でなぁ、もう何が起こるか分かんねぇんだわ」
鼻につく表情で肩を竦めるカイルに、私とミシェルちゃんは顔を見合わせて小首を傾げた。
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