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第五章・帝国の王女
612.Main Story:Ameless
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昼前頃。私、アミレス・ヘル・フォーロイトは一人きりでそれはもう浮かれきっていた。
理由は勿論、我が最推しのミシェルちゃんとの約束の日だからっっっ!
そう……これはようやく訪れた食事会のリ・ベ・ン・ジ! 中身が違うとはいえ、ミシェルちゃん推しとして、どんな姿の彼女も愛してこそというものだろう!!
例によって。高貴さを感じさせつつも下品な派手さは感じないお淑やかなドレスと、それに合わせた可愛い系のヘアメイク。早朝から念入りにケアしてもらったので万全のお肌と、侍女のネア渾身のフルメイク。
今度こそ、ミシェルちゃんとのファースト……いやセカンド……どころかサードインプレッションを最良のものとしてみせる!!!!
「──よっ、アミレス。久しぶり~~! 元気そうで何よりだ」
「……久しぶり、カイル」
「何でそんなにテンション低いんだよぉー。親友様の登場だぜ?」
「そういう貴方はなんでそんなにテンション高いのよ」
侍女のスルーノが『お客様をお連れしました』と告げて来たので、ついにミシェルちゃんが! と私は意気揚々と扉を開いた。しかし、その先に居たのはミシェルちゃんではなくカイル。そりゃあ真顔にもなるだろう。
第一、スルーノもなんであんな紛らわしい言い方をしたのかしら。カイルなんていっつも東宮に入り浸ってるんだから、もはや客でもなんでもないでしょうに。
「何でって。そりゃ──お前の元気そうな姿を見られたら嬉しいし、テンションも上がるだろ」
「そんなわけ…………あ。そうだ、あの時は敵に不覚を取られた挙句足でまといになっちゃって、本当にごめんなさい」
「俺、謝られるようなことはしてねぇよ。あの時に関しては……誰がいつああなってもおかしくはなかったんだから、お前は何も悪くない。だからそんな顔するな」
むにっ、と両頬を挟まれ、否応なしに表情を変えられる。目と鼻の先にある彼の顔は……確かな安堵を浮かべていて。
ああ、そうか。私が宝石化した時カイルはすぐ傍にいたから、誰よりも責任を感じていたんだ。そう考えたなら、先程の言動にも納得がいく。
相変わらずずるい男だな。直接的な言葉にはしないけど、身を案じてくれていることがひしひしと伝わってくる。
「……ところで。貴方こそ何かあったの? 暫く東宮に来なかったじゃない」
「あー………………まぁ、なんだ。あん時は俺もちょいとばかし無理しててな。頭痛神経痛過呼吸全身肉離れでもう辛くてさ、血反吐ぶちまけながら暫くのたうち回ってたんだよ。いやぁ、三日前には復活出来たから助かったわー」
ハハ、とわざとらしく笑うカイルの胸ぐらに掴みかかり、鼻と鼻がぶつかりそうな距離で叫んだ。
「っなに笑ってるのよこの馬鹿!! 私よりもずっと酷い状態じゃない! なんで……っ、なんで私の心配ばかりするの?! なんでそんな無茶をするの?!」
「……それをお前が言うかぁ。あのな、俺だってお前のことが大事なの。命懸けたって──人生丸ごと賭けたって構わないぐらい、『お前』が大切なんだよ。みなまで言わせんな、恥ずいだろ」
「恥ずかしい、って……なんでそんな……っ」
煙に巻き、カイルは小さくはにかんだ。
「…………もしかしたら心配してもらえるかも、とは思ったが。案外嬉しいモンだな、純粋な好意って」
「何言って……はぁ、もう。これ以上追及しても絶対答えないわね、貴方は。どうかと思うわよ、そういうところ!」
「はは。無茶・無謀常習犯のお転婆お姫様にだけは言われたくねぇなぁ~~」
急にご機嫌になったカイルに肩を組まれ、頬や頭をつつかれながら待つこと、十数分。ついにお待ちかねのマイエンジェルが到着した。
侍女による案内を経て、「王女殿下、お客様が到着されました」と扉が叩かれる。食い気味に「どうぞ!!」と返事をしながら立ち上がると、振り払われたカイルが「ぶへっ」と長椅子に倒れ込んだ。
「し、失礼します……!」
「ようこそ~~っ! 待ってたわよミシェルちゃんっ!!」
「えっ? は、はいお邪魔します! …………友達のお家にお呼ばれするのって、こんな感じだったのかなぁ」
「何か言ったかしら? 要望があればなんでも言ってね」
「いッ、いい、いいえ滅相もございません!!」
グイグイいきすぎてしまった。ミシェルちゃんが俯き怯えているではないか。何やってるんだ私は!
「ごほんっ。ささ、好きな所に座ってちょうだい。お菓子は好きに食べていいからね。あ、飲み物は何がいい?」
「え、ええと……じゃあ、ジュース……で」
「ジュースね、用意させるわ。カイルは紅茶でいいわよね」
「おー」
ミシェルちゃんを長椅子に案内し、待機していた侍女に飲み物を持ってくるよう命じる。普段ならばアルベルトが命じずとも颯爽と飲み物を用意してくれるのだが、今日はこの集まりの為にイリオーデとアルベルトにはそれぞれ仕事を任せている。なので、侍女に頼む必要があるのだ。
「──さて。それじゃあ、第一回転生者会議開始といきますか」
コト、とティーカップをソーサーに置き、カイルが切り出す。私達が頷くと、カイルはこちらを向き直して口を開いた。
「まずは自己紹介からだな。──『俺はカイル・ディ・ハミル。本名は穂積瑠夏で……元SEだ。アンディザの推しはマクベスタ。よろしくどうぞ』」
本当にルカって名前だったんだ……しかもシステムエンジニアとは。前世から優秀だったのかこの男は……そりゃそうか……。
と考えている間にも、「ほれ、次はミシェルが行けよ」とカイルが催促する。
「えっと……『ミシェル・ローゼラをやらせていただいてます、佐倉愛奈花です。元、大学生です。アンディザの推し、は…………フリードルです。よろしくお願いします』」
「えっ、ミシェルちゃんはフリードル推しなの!?」
「は、はい。優しくてとっても愛情深いところがすごく好きで」
「「あ~~……」」
溺愛系にジョブチェンジした後のフリードルが推しなのかぁ。と、私とカイルの感嘆が重なる。
緊張してるのか敬語が抜けない彼女に「敬語無しでいいよ」「もっと気軽に接して」と告げ、ミシェルちゃんとも仲良しになれるように歩み寄ると、嬉しいことに彼女も少しづつ打ち解けてくれて、私は密かに喜んだ。
理由は勿論、我が最推しのミシェルちゃんとの約束の日だからっっっ!
そう……これはようやく訪れた食事会のリ・ベ・ン・ジ! 中身が違うとはいえ、ミシェルちゃん推しとして、どんな姿の彼女も愛してこそというものだろう!!
例によって。高貴さを感じさせつつも下品な派手さは感じないお淑やかなドレスと、それに合わせた可愛い系のヘアメイク。早朝から念入りにケアしてもらったので万全のお肌と、侍女のネア渾身のフルメイク。
今度こそ、ミシェルちゃんとのファースト……いやセカンド……どころかサードインプレッションを最良のものとしてみせる!!!!
「──よっ、アミレス。久しぶり~~! 元気そうで何よりだ」
「……久しぶり、カイル」
「何でそんなにテンション低いんだよぉー。親友様の登場だぜ?」
「そういう貴方はなんでそんなにテンション高いのよ」
侍女のスルーノが『お客様をお連れしました』と告げて来たので、ついにミシェルちゃんが! と私は意気揚々と扉を開いた。しかし、その先に居たのはミシェルちゃんではなくカイル。そりゃあ真顔にもなるだろう。
第一、スルーノもなんであんな紛らわしい言い方をしたのかしら。カイルなんていっつも東宮に入り浸ってるんだから、もはや客でもなんでもないでしょうに。
「何でって。そりゃ──お前の元気そうな姿を見られたら嬉しいし、テンションも上がるだろ」
「そんなわけ…………あ。そうだ、あの時は敵に不覚を取られた挙句足でまといになっちゃって、本当にごめんなさい」
「俺、謝られるようなことはしてねぇよ。あの時に関しては……誰がいつああなってもおかしくはなかったんだから、お前は何も悪くない。だからそんな顔するな」
むにっ、と両頬を挟まれ、否応なしに表情を変えられる。目と鼻の先にある彼の顔は……確かな安堵を浮かべていて。
ああ、そうか。私が宝石化した時カイルはすぐ傍にいたから、誰よりも責任を感じていたんだ。そう考えたなら、先程の言動にも納得がいく。
相変わらずずるい男だな。直接的な言葉にはしないけど、身を案じてくれていることがひしひしと伝わってくる。
「……ところで。貴方こそ何かあったの? 暫く東宮に来なかったじゃない」
「あー………………まぁ、なんだ。あん時は俺もちょいとばかし無理しててな。頭痛神経痛過呼吸全身肉離れでもう辛くてさ、血反吐ぶちまけながら暫くのたうち回ってたんだよ。いやぁ、三日前には復活出来たから助かったわー」
ハハ、とわざとらしく笑うカイルの胸ぐらに掴みかかり、鼻と鼻がぶつかりそうな距離で叫んだ。
「っなに笑ってるのよこの馬鹿!! 私よりもずっと酷い状態じゃない! なんで……っ、なんで私の心配ばかりするの?! なんでそんな無茶をするの?!」
「……それをお前が言うかぁ。あのな、俺だってお前のことが大事なの。命懸けたって──人生丸ごと賭けたって構わないぐらい、『お前』が大切なんだよ。みなまで言わせんな、恥ずいだろ」
「恥ずかしい、って……なんでそんな……っ」
煙に巻き、カイルは小さくはにかんだ。
「…………もしかしたら心配してもらえるかも、とは思ったが。案外嬉しいモンだな、純粋な好意って」
「何言って……はぁ、もう。これ以上追及しても絶対答えないわね、貴方は。どうかと思うわよ、そういうところ!」
「はは。無茶・無謀常習犯のお転婆お姫様にだけは言われたくねぇなぁ~~」
急にご機嫌になったカイルに肩を組まれ、頬や頭をつつかれながら待つこと、十数分。ついにお待ちかねのマイエンジェルが到着した。
侍女による案内を経て、「王女殿下、お客様が到着されました」と扉が叩かれる。食い気味に「どうぞ!!」と返事をしながら立ち上がると、振り払われたカイルが「ぶへっ」と長椅子に倒れ込んだ。
「し、失礼します……!」
「ようこそ~~っ! 待ってたわよミシェルちゃんっ!!」
「えっ? は、はいお邪魔します! …………友達のお家にお呼ばれするのって、こんな感じだったのかなぁ」
「何か言ったかしら? 要望があればなんでも言ってね」
「いッ、いい、いいえ滅相もございません!!」
グイグイいきすぎてしまった。ミシェルちゃんが俯き怯えているではないか。何やってるんだ私は!
「ごほんっ。ささ、好きな所に座ってちょうだい。お菓子は好きに食べていいからね。あ、飲み物は何がいい?」
「え、ええと……じゃあ、ジュース……で」
「ジュースね、用意させるわ。カイルは紅茶でいいわよね」
「おー」
ミシェルちゃんを長椅子に案内し、待機していた侍女に飲み物を持ってくるよう命じる。普段ならばアルベルトが命じずとも颯爽と飲み物を用意してくれるのだが、今日はこの集まりの為にイリオーデとアルベルトにはそれぞれ仕事を任せている。なので、侍女に頼む必要があるのだ。
「──さて。それじゃあ、第一回転生者会議開始といきますか」
コト、とティーカップをソーサーに置き、カイルが切り出す。私達が頷くと、カイルはこちらを向き直して口を開いた。
「まずは自己紹介からだな。──『俺はカイル・ディ・ハミル。本名は穂積瑠夏で……元SEだ。アンディザの推しはマクベスタ。よろしくどうぞ』」
本当にルカって名前だったんだ……しかもシステムエンジニアとは。前世から優秀だったのかこの男は……そりゃそうか……。
と考えている間にも、「ほれ、次はミシェルが行けよ」とカイルが催促する。
「えっと……『ミシェル・ローゼラをやらせていただいてます、佐倉愛奈花です。元、大学生です。アンディザの推し、は…………フリードルです。よろしくお願いします』」
「えっ、ミシェルちゃんはフリードル推しなの!?」
「は、はい。優しくてとっても愛情深いところがすごく好きで」
「「あ~~……」」
溺愛系にジョブチェンジした後のフリードルが推しなのかぁ。と、私とカイルの感嘆が重なる。
緊張してるのか敬語が抜けない彼女に「敬語無しでいいよ」「もっと気軽に接して」と告げ、ミシェルちゃんとも仲良しになれるように歩み寄ると、嬉しいことに彼女も少しづつ打ち解けてくれて、私は密かに喜んだ。
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