だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
上 下
683 / 786
第五章・帝国の王女

♢第五節 槐夢の客星編 610,5.Interlude Story:月夜の語らい

しおりを挟む
 或る夜半。とある目的の為に、月明かりの下を散策していた。

「よぅ、花の君・・・。久しぶりだな」

 話しかけるが、返事は無い。
 柔らかな蕾を咲かせた木を静かに見上げていた彼女は、こちらに気付き、ゆっくりと振り向いた。

「……あら。お久しぶりね、優しいひと」
「言い訳がましいが──ここ数ヶ月はあの男がずっと彷徨いてたもんで、中々に近寄れないでいたんだ」
「ふふ。街で大変な事件が起きたんですよね? わざわざ私の元に来たということは……あの子に何かあったんですか?」
「まァ待てよ、一から全部話すさ。その為に今夜は此処に来たんだ」

 不安げに眉尻を下げる彼女を宥め、数ヶ月ぶんの話をする。喜び、楽しみ、驚き、慌て、怒り、悲しむ。豊かな感情を隠さず顔に出し、彼女は前のめりに話を聞いていた。

「──あの子が相変わらず楽しく過ごせているようで良かった。教えてくれてありがとう、優しい貴方。あの人はほぼ毎日のように来てくれるけれど……あの子の話をした事は一度も無いから。貴方が話し相手になってくれて、私本当に嬉しいの」
「……そりゃどーも。こちらとしては、そこまで純粋な気持ちで話し相手になってるワケじゃあねェから、少し複雑ではあるが」
「あらそうなの? ならどうして、私の話し相手に?」
「外堀を埋める為……とか」

 一度はきょとんとしたが、程なくして彼女はハッとなり、「あらあらまあまあ!」と目を輝かせる。
 ずい、と身を寄せてきたかと思えばにんまりと笑い、えらく楽しげに言及してきたではないか。

「そうなの? そういうことだったの? だから貴方は、あの子のことをやけに気にかけていたのね。……うふふ、どうしてかしら。私は正直、恋バナとか苦手なのだけど……今は、凄く、楽しいわ!」
「アンタ本当に肝が据わってるなァ。嬉々として詰め寄ってくるとか、クソ度胸にも程があるだろ」
「幼少期に鍛えられましたからねっ」

 誇らしいと思っているのか、彼女はしたり顔で胸を張る。その姿がアイツを彷彿とさせて──いつの間にか、我が口元は弧を描いていた。

「……ん、珍しい来客のようだ。今宵はそろそろお開きとさせていただこう。それではな、花の君」

 特徴的な気配が近づいてきたものだから、アレに姿を見られぬうちに退散しようと踵を返す。

「久々に誰かと話せて嬉しかったわ。ありがとう──優しくて健気な貴方。応援は出来ないけれど、見守っているわ」

 背中に投げかけられた言葉。応援はしてくれねェのかよ。と苦笑しつつ、適当に手を振ってその場を離れる。
 ……健気、か。そりゃあ慎重にもなるさ。

『───ごめんね、我が友よ。そして、ありが・・・とう・・

 閉ざされてゆく■界の隙間から見えた、■切■の言■と、狂■■顔。■てられ、搾■■─るよ■──った、■の日から。
 ■年も、何■年も、■■で■■い場■に取■■さ■■いたあ──間■……■■─、■しく■─■■■っ■。

「……ハハ。記憶すら朧げなくせに、感情だけが楔のように残っていやがる」

 何を間違えたのか分からない。何が悪かったのかも分からない。突然訪れたその刻・・・が、何年経とうが我が心に根差し、毒のように蝕む。
 この忌々しい感情の所為で……あれから幾度となく月が満ち欠けたというのに、未だに『それ』を恐れ二の足を踏んでいるのだ。この身の、なんとままならないことか。

「はァ……相変わらず、みっともねェ男のままだな。ぼくは──……」

 月を見上げ、大きく息を吐く。
 今夜はもう眠れそうにない。ならば──アイツの寝顔でも眺めに行こう。さすればきっと……ほんの少しは楽に・・なる・・から。
 そう決めてからは早く、くるりと方向転換し、まるで神に救済を求める信者のように、この胸を焦がす女の傍らへとまっすぐ向かっていった……。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...