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第五章・帝国の王女
604.Main Story:Ameless4
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「アミレス。俺は大丈夫だ。お前の為なら頑張れるから」
「……お人好しが過ぎるわよ。いくら、友達だからって……」
「何言ってんだ。友達じゃなくて、親友だろ?」
微笑む彼の背後に無数の魔法陣が出現したかと思えば、そこからは多種多様な攻撃が飛び出した。火、水、土、鋼、石、花──様々な魔力で象られた剣が、次々と射出される。
まるでどこかで見たような無限の攻撃。それは一直線に、敵を狙い撃つ。
「ウチは……っ、ウチはユーミスを…………ッ!」
片手が塞がっている彼女は細剣一つで、カイルの魔法を迎え撃たんとする。復讐心が為せる技だろうか。驚異的な反射神経と技巧で飛来する剣の雨をことごとく弾き、彼女は突撃して来た。「マジか!?」と声を上げてカイルは更に剣を放つが、彼女はそれをものともせず肉薄する。
「ユーミスの仇ぃいいいいいいッッ!!」
「クッソ……!!」
細剣が弾き出される。いくつもの魔力を並行使用しているからか、カイルは一歩出遅れてしまったようだ。
このままだと、私とカイルが二人揃って串刺しになる。どうにかして魔法を使おうと、体に鞭を打とうとした、その時。
「────ぇ、あ?」
彼女の手が、砕けた。
瞬く間の出来事だった。地を踏み締める片足からその指先まで、彼女の半身が薄桃色の輝きを放ち、それと同時に亀裂が入って壊れてゆく。
半身が砕け武器を落としながら倒れた彼女の足元では、忌まわしき宝石が輝いていて。
患部が砕け散ってもなお続く宝石の侵蝕。全身が宝石化してゆく中で、彼女は大事そうに生首を抱き締め、涙を一筋浮かべた。
「なん、で────っかた、き、とれな……かった。ごめ、ん……いま、あいに……いく、から。まってて、ゆぅ、み──……」
間もなく全身が宝石化し、彼女は死んだ。その手に持っていた生首と共に、おぞましい程に美しい宝石へと姿を変えて。
「……さっきから気になってたが、アイツの侵蝕能力はどの宝石にするのかも自在なのか?」
「そもそもどうして彼女が宝石化したの……?」
「そりゃあ、お前を狙った攻撃に運悪くコイツが当たっちまったんだろうよ。ラッキーだったな」
不自然だ。──いくらなんでも、早すぎる。痛みを感じてから気付いた私が膝上までの侵蝕で済んだのに、すぐさま宝石が砕け散った彼女は、一瞬で爪先からつむじまで宝石化していた。
この差はなんなんだ……? 宝石の種類が違うからなのか、はたまたカイルが言ったように、ただの運なのか。
「命拾いしたってことで。とにかく今度こそシルフの所に……」
「──アハッ! 状況はイマイチ分かんねぇけどぉ、アンタを自由にしちゃぁいけないってのは分かるぜぇ?」
「っ今度はなんなんだよォ!!」
今度は血塗れの妖精が行く手を阻む。随分と深手を負っているようなのだが、この妖精は一体どこから──
「逃げんな卑怯者!! 敵に背中見せるとか恥ずかしくないのか!?」
あそこからみたいですね。
隻腕の妖精を追ってきたのか、リードさん&ロイのペアと、ローズとモルス卿が走って来るのが見える。
「よ、よく分からんが……戦力増えたな! ヨシッ!」
カイルはニヤリと虚勢を張って、隻腕の妖精を睨み上げた。
そこで妖精の大きな拳が降ってくる。カイルは持ち前の身体能力でそれを間一髪避けたが、そもそも彼も負傷している為、顔色が悪くなると共に呼吸も荒くなっていく。
「カイル君っ! ここは私達に任せて、君とロイ君とテンディジェル公女は下がって!」
「だからなんでおれまで」
「アミレスさんが無事じゃないと下手すれば世界が滅ぶんだよ!! 彼女を守る事がこの場における最優先事項だ!!」
「え、そ、そうなの? わ、わかった……」
リードさんとモルス卿が前に立ち、ローズとロイがこちらに向かってくる。
リードさんに気圧されどこか腑に落ちない様子のロイであったが、宝石化した私の足を見て、ローズと共にぎょっと瞬き黙り込んだ。
「君の相手は私達だよ」
「ジスガランド教皇、援護します!」
「……ま、いいかっ。隊長からは『暴れろ』としか言われてねーし!」
妖精とリードさんとモルス卿の視線が交わり、戦いの火蓋は切って落とされた。
それを尻目に「三度目の正直だ」とカイルが踵を返したところで、
「無駄だぜ、カイル。精霊の所に行ってもそれは治せんさ」
「いい加減進ませてぇ!!」
今度はシュヴァルツが、虚無より闇を弾いて現れた。
「……って、それどういうことだよ。アイツやお前でも、これはどうにも出来ないってことか?」
「出来ないこともないが、やらない方がいい。おそらく、宝石を治そうとすれば宝石妖精はアミレスを殺すだろう。何せその宝石は──未だに、あの男の支配下にあるからな」
シュヴァルツの言葉に、私達は息を呑んだ。
宝石が接触さえすれば、彼の侵蝕能力は発動する。そして彼は、宝石を支配し自在に操れる。そんな男の攻撃を受け、体の一部が宝石化した私は……さながら断頭台に身を預ける罪人だ。
「──仮に逃げられたとしても、彼がその気になれば宝石の侵蝕は再開する。だから逃げても無駄だ、ってこと?」
「……聡明だなお前さんは。そうだ、今お前が生きているのは、宝石妖精の気まぐれに過ぎない。下手な動きはしない方がいいだろォよ」
シュヴァルツの説明を受け、私達は苦渋の決断を下した。
ラヴィーロがその気になれば私は一瞬で殺される。だからそうなる前に、ラヴィーロを倒さなければならない。
このまま私に触れていてはカイルも危険だと説得し、ロクに動かない宝石の足で立つ。幸いにもそれなりの硬度があるようで、シュヴァルツ作の松葉杖を使えば足に負担をかけることなく自立出来た。
ローズの歌のおかげでカイルも多少は回復し、マクベスタ達が暴れ回る前線へと、『絶対助けてやるから』と言い残して彼は向かう。
ロイと、ローズと、シュヴァルツ。三人と共に、長いようで短いこの戦いを、見届ける事になった──……。
「……お人好しが過ぎるわよ。いくら、友達だからって……」
「何言ってんだ。友達じゃなくて、親友だろ?」
微笑む彼の背後に無数の魔法陣が出現したかと思えば、そこからは多種多様な攻撃が飛び出した。火、水、土、鋼、石、花──様々な魔力で象られた剣が、次々と射出される。
まるでどこかで見たような無限の攻撃。それは一直線に、敵を狙い撃つ。
「ウチは……っ、ウチはユーミスを…………ッ!」
片手が塞がっている彼女は細剣一つで、カイルの魔法を迎え撃たんとする。復讐心が為せる技だろうか。驚異的な反射神経と技巧で飛来する剣の雨をことごとく弾き、彼女は突撃して来た。「マジか!?」と声を上げてカイルは更に剣を放つが、彼女はそれをものともせず肉薄する。
「ユーミスの仇ぃいいいいいいッッ!!」
「クッソ……!!」
細剣が弾き出される。いくつもの魔力を並行使用しているからか、カイルは一歩出遅れてしまったようだ。
このままだと、私とカイルが二人揃って串刺しになる。どうにかして魔法を使おうと、体に鞭を打とうとした、その時。
「────ぇ、あ?」
彼女の手が、砕けた。
瞬く間の出来事だった。地を踏み締める片足からその指先まで、彼女の半身が薄桃色の輝きを放ち、それと同時に亀裂が入って壊れてゆく。
半身が砕け武器を落としながら倒れた彼女の足元では、忌まわしき宝石が輝いていて。
患部が砕け散ってもなお続く宝石の侵蝕。全身が宝石化してゆく中で、彼女は大事そうに生首を抱き締め、涙を一筋浮かべた。
「なん、で────っかた、き、とれな……かった。ごめ、ん……いま、あいに……いく、から。まってて、ゆぅ、み──……」
間もなく全身が宝石化し、彼女は死んだ。その手に持っていた生首と共に、おぞましい程に美しい宝石へと姿を変えて。
「……さっきから気になってたが、アイツの侵蝕能力はどの宝石にするのかも自在なのか?」
「そもそもどうして彼女が宝石化したの……?」
「そりゃあ、お前を狙った攻撃に運悪くコイツが当たっちまったんだろうよ。ラッキーだったな」
不自然だ。──いくらなんでも、早すぎる。痛みを感じてから気付いた私が膝上までの侵蝕で済んだのに、すぐさま宝石が砕け散った彼女は、一瞬で爪先からつむじまで宝石化していた。
この差はなんなんだ……? 宝石の種類が違うからなのか、はたまたカイルが言ったように、ただの運なのか。
「命拾いしたってことで。とにかく今度こそシルフの所に……」
「──アハッ! 状況はイマイチ分かんねぇけどぉ、アンタを自由にしちゃぁいけないってのは分かるぜぇ?」
「っ今度はなんなんだよォ!!」
今度は血塗れの妖精が行く手を阻む。随分と深手を負っているようなのだが、この妖精は一体どこから──
「逃げんな卑怯者!! 敵に背中見せるとか恥ずかしくないのか!?」
あそこからみたいですね。
隻腕の妖精を追ってきたのか、リードさん&ロイのペアと、ローズとモルス卿が走って来るのが見える。
「よ、よく分からんが……戦力増えたな! ヨシッ!」
カイルはニヤリと虚勢を張って、隻腕の妖精を睨み上げた。
そこで妖精の大きな拳が降ってくる。カイルは持ち前の身体能力でそれを間一髪避けたが、そもそも彼も負傷している為、顔色が悪くなると共に呼吸も荒くなっていく。
「カイル君っ! ここは私達に任せて、君とロイ君とテンディジェル公女は下がって!」
「だからなんでおれまで」
「アミレスさんが無事じゃないと下手すれば世界が滅ぶんだよ!! 彼女を守る事がこの場における最優先事項だ!!」
「え、そ、そうなの? わ、わかった……」
リードさんとモルス卿が前に立ち、ローズとロイがこちらに向かってくる。
リードさんに気圧されどこか腑に落ちない様子のロイであったが、宝石化した私の足を見て、ローズと共にぎょっと瞬き黙り込んだ。
「君の相手は私達だよ」
「ジスガランド教皇、援護します!」
「……ま、いいかっ。隊長からは『暴れろ』としか言われてねーし!」
妖精とリードさんとモルス卿の視線が交わり、戦いの火蓋は切って落とされた。
それを尻目に「三度目の正直だ」とカイルが踵を返したところで、
「無駄だぜ、カイル。精霊の所に行ってもそれは治せんさ」
「いい加減進ませてぇ!!」
今度はシュヴァルツが、虚無より闇を弾いて現れた。
「……って、それどういうことだよ。アイツやお前でも、これはどうにも出来ないってことか?」
「出来ないこともないが、やらない方がいい。おそらく、宝石を治そうとすれば宝石妖精はアミレスを殺すだろう。何せその宝石は──未だに、あの男の支配下にあるからな」
シュヴァルツの言葉に、私達は息を呑んだ。
宝石が接触さえすれば、彼の侵蝕能力は発動する。そして彼は、宝石を支配し自在に操れる。そんな男の攻撃を受け、体の一部が宝石化した私は……さながら断頭台に身を預ける罪人だ。
「──仮に逃げられたとしても、彼がその気になれば宝石の侵蝕は再開する。だから逃げても無駄だ、ってこと?」
「……聡明だなお前さんは。そうだ、今お前が生きているのは、宝石妖精の気まぐれに過ぎない。下手な動きはしない方がいいだろォよ」
シュヴァルツの説明を受け、私達は苦渋の決断を下した。
ラヴィーロがその気になれば私は一瞬で殺される。だからそうなる前に、ラヴィーロを倒さなければならない。
このまま私に触れていてはカイルも危険だと説得し、ロクに動かない宝石の足で立つ。幸いにもそれなりの硬度があるようで、シュヴァルツ作の松葉杖を使えば足に負担をかけることなく自立出来た。
ローズの歌のおかげでカイルも多少は回復し、マクベスタ達が暴れ回る前線へと、『絶対助けてやるから』と言い残して彼は向かう。
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